『ファーザー』アンソニー・ホプキンス インタビュー

最高齢でオスカー受賞の快挙!認知症に冒されていく父親役を熱演

#アンソニー・ホプキンス#ファーザー#老い#認知症

アンソニー・ホプキンス

人生の終わりを意識するようになり、命が美しいものに思えてきた

『ファーザー』
2021年5月14日より全国公開
(C)NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

日本でも上演され世界各地で絶賛を博した舞台「Le Pere」を、劇作家フロリアン・ゼレールが自らメガホンをとり映画化。認知症の兆候を見せ始める父親を名優アンソニー・ホプキンスが演じた映画『ファーザー』が5月14日より公開される。ゼレール監督がホプキンスに主演してもらうため、役名や誕生日まで本人と同じ設定に。先日行われた第93回アカデミー賞では大方の予想を覆し、本作で2度目となる主演男優賞を受賞。83歳、歴代最高齢での快挙となった。

ロンドンで独り暮らす81歳のアンソニーを、娘のアン(オリヴィア・コールマン)が訪ねてくる。手配した介護人に彼が暴言を吐いたことを問い詰めにやってきたのだ。アンはロンドンを離れパートナーとパリへ引っ越すつもりだと告げ、「お父さんを独りにはしない」と約束する。

ある日、アンソニーが自宅で紅茶をいれていると、リビングに知らない男が現れる。アンの夫だと名乗る男に見覚えはなく、さらに彼はこのアパートはアンソニーのものではなく、自分とアンの家だと主張する。いったい彼は誰なのか?彼の言葉が嘘でないとしたら、パリへ引っ越すという話は?そしてアンソニーを困惑させる出来事が次々と起こり始める。

“キャリア最高”とも言われる名演を披露した、ホプキンスのインタビューをお届けする。

記憶や認知が散っても愛は残るのか。アンソニー・ホプキンスの名演が光る『ファーザー』

──アンソニー役にはどのようにアプローチされましたか?

ホプキンス:私は父を演じたんです。父は認知症ではありませんでしたが最後の数週はその兆候が見えました。死を恐れるあまりいつもとても怒っていて、目が合うだけで身がこわばりました。そんな父を思い出しながら演じたのでアンソニー役は実に簡単でしたよ。本当です。

『ファーザー』撮影中の様子

──キャリアを重ねてきて、演じる役へのアプローチも変わりましたか?

ホプキンス:私はいつも入念に準備します。柔軟にいろいろ試すタイプですが準備しなければ自由にやれません。だから社交を自制してでも準備するんです。自制が大いなる自由を生みます。しっかりコツコツと準備すればね。それが私のやり方です。経験を積んだ役者であれば特別な才能や努力は要りません。演技に悩んでいた若い頃はさまざまなメソッドを試しました。そういう試行錯誤を経て今では演技が楽になっています。

──本作で映画監督デビューしたフロリアン・ゼレール監督の印象は?

ホプキンス:フロリアンは実に才能のある脚本家で天才的なところがあります。監督は初めてなのにすばらしい仕事ぶりでした。2年前、彼と初めて会った時、この役が自分のために書かれたと言われ、すごく光栄に思いましたよ。

──オリヴィア・コールマン演じる娘アンに共感する部分はありましたか?
アンソニー・ホプキンス

ホプキンス:オリヴィアの演技は見事です。とにかくすばらしいの一言に尽きます。
アンは父を愛しているからこそ心が引き裂かれるんです。父の症状が進むほど彼女の絶望は深くなります。私は彼女に対して残酷ですからね。私の父も私に対してそういう態度を取っていました。でも私には父が恐れているのが分かりました。アンに対する私の態度も同じです。 

──本作を通して、ご自身の老いや死に対する考えに変化はあったでしょうか?

ホプキンス:この役を通して多くの学びと気づきを得ました。自分自身の人生の終わりを意識するようになり、命が美しいものに思えてきました。家具に当たる日の光のようにね。なぜ人は生きているのだろうか。自分の“葉”を1枚ずつ失うのはどんな気分だろうか。人生の勉強になりましたよ。

──本作の撮影時は81歳でいらっしゃいました。俳優業からの“引退”を意識したことは?

ホプキンス:私はまだまだ引退する気はありませんよ! 私は老戦士ですからね。強くて生きる力がある。それに私はあれこれ考えたり分析したりせず、ただセリフを覚えて演じます。それが脳の活性化につながります。私は暗記マニアなんです。おかげで脳が衰えません。シェイクスピアやエリオットなどの詩も大量に暗記していますよ。

アンソニー・ホプキンス
アンソニー・ホプキンス
Anthony Hopkins

1937年12月31日、イギリス生まれ。『冬のライオン』(68年)で映画デビュー。『羊たちの沈黙』(91年)のハンニバル・レクター役でアカデミー賞主演男優賞を受賞。『ハンニバル』(01年)、『レッド・ドラゴン』(02年)でも同役を演じる。アカデミー賞主演男優賞には『日の名残り』(93年)、『ニクソン』(95年)、助演男優賞には『アミスタッド』(97年)、『2人のローマ教皇』(19年)でノミネートされている。主な出演作に『エレファント・マン』(80年)、『逃亡者』(90年)、『ハワーズ・エンド』(92年)、『レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い』(94年)、『ジョー・ブラックをよろしく』(98年)、『マスク・オブ・ゾロ』(98年)、『M:I-2』(00年)、『世界最速のインディアン』(05年)、『恋のロンドン狂騒曲』(10年)、『マイティ・ソー』シリーズ(11〜17年)、『ヒッチコック』(12年)、『REDリターンズ』(13年)、『ハイネケン誘拐の代償』(14年)、『ブレイン・ゲーム』(15年)、『トランスフォーマー/最後の騎士王』(17年)など。