『青い、森』清水尋也インタビュー

若者たちの喪失演じる気鋭の若手、コロナ禍での変化とは?

#清水尋也#青い、森

清水尋也

すごく繊細でひたむきな少年だと思う

『青い、森』
2020年11月6日より全国順次公開
(C)2020オフィスクレッシェンド 

KIRIN、日経新聞などの広告映像を手がける映像作家・井出内創と、『ヴァニタス』でPFFアワード2016観客賞を受賞し、長編映画『佐々木、イン、マイマイン』が11月27日に公開になる内山拓也。ともに1992年生まれの2人が共同監督を務めた『青い、森』は、1時間に満たない上映時間ながら、3人の若者が“喪失”から始まる深淵を見つめ、それぞれが見たことのない景色へたどり着く様を描く詩情あふれる作品。

高校最後の夏休みに、友人2人とヒッチハイクの旅に出た途中で忽然と姿を消してしまった18歳の波を演じるのは、『青くて痛くて脆い』『妖怪人間ベラ』、そして『甘いお酒でうがい』と出演映画が立て続けに公開中の清水尋也だ。

気の合う友だちと青春を謳歌しつつ、左頬の大きな火傷痕についてや生い立ちにまつわる謎をまとう青年を演じて感じたこと、友情について、将来について。21歳の今の思いをそのまま語ってくれた。

・[動画]『青い、森』予告編

──2人とも20代という若い監督の作品ですが、出演はどういうふうに決まったんでしょうか。

清水:お話をいただいて、脚本を読んで、ぜひお願いしますという形で。そこから初めてちゃんと会って、お話をして、リハーサルを1回か2回やってから撮影に入りました。

──とても詩的な作品だと思いました。観客である私たちが最初に見る波の姿から受ける印象が、一緒に旅する友達の志村と長岡が知っている波とは違う。そんな点も興味深かかったです。清水さん自身は、波というキャラクターはどういうふうに捉えましたか。

清水:変わってる人間ではあるんですけど。繊細で、波の過去だったり、波にとっての祖父の存在というのが、なんというか……。人間って、何か穴があくとそれを埋めようとする習性があると思うんです。波にとって祖父の存在はすごく大きくて。それは当然だと思うんですけど、祖父の後を追うじゃないけど、そういう意識もありつつ。だからすごく繊細でひたむきな少年だとは思います。
でもやっぱり、どっかで波なりの世界観というか領域みたいなものを常に持っていて。それは志村と長岡でさえ知り得ないというか、触れられなかった部分。それを2人は追い求めていくんだと思うんです。
でも、最初に脚本を読んだときに「何だこいつ」とは思わなかったし。そこに波の魅力があると思っていましたね。はっきりと、「人間っていうのは」とか「波は難しい」と簡単に形容するのは……。それが形容できちゃうと、この映画の意味がなくなっちゃうと思って。それが波だと思うので、そこは別に僕も、変に答えを見つけようとは無理にしなかった部分はありますね。

──見当違いかもしれませんが、それはある意味、キャラクターをつかみきらない状態で演じるということのように思えて、難しそうに感じます。

清水:うーん、どうですかね…。僕は元々あんまり作り込まないタイプなので。アプローチは人によると思うんですけど。完全に理解をして、寄り添って、かみ砕いて、全てを明確にしてから臨む人からすると、たぶんこの役ってすごく難しかったのかなと思います。僕は、現場に立って、衣装を着て、メイクをして……波でいうと火傷を背負ってじゃないけど。で、目の前に志村と長岡がいたときに、自分がその場に立ってどう思うかって、その瞬間にしか分からない。それは、僕がいくら洋服が散らかってる自分の部屋で考えようとも知り得ない部分なので、あえてそういうのをしないんですよ…普段から。

──確かに。役ではない自分自身のことについてだって、実際どれだけ分かっているかという話にもなってきますよね。

清水:そうですね。なので、どの役もそうですけど、今回も同様変わらず。現場で監督も、いざ僕たちがどういう芝居をするのかを見ないと感じてくるものが違うと思うので。最初はこう思ってたけど、これを見てみたらこっちのほうがいいかもな、というのもあると思うので。そこに関しての不安感みたいなのはあんまりないです。むしろ、どうなるか楽しみという気持ちがありますね。現場に行ってみて、どういう芝居できるかなとか、他の2人はどういう感じで来るかなとか。それを思ったときに自分がどう感じるかという、“お楽しみに取っておいている”部分みたいなのもあります。それが僕にとって、この仕事を楽しんでいる理由の大きな一つでもあります。

清水尋也

──監督が2人クレジットされていますが、現場の演出はどんな感じだったのでしょうか?

清水:2人とも演出をしてました。でも、直接2人がもめてるのを僕は見たことないです。裏ではあったのかもしれないですけど(笑)。現場に入ったときも、リハーサルのときも、内山さんが来て、「ここ、もっとこうしてくれない?」とか、「ここ、こうじゃない?」とか。「分かりました」と僕が言って、それを井手内さんが黙って見ている。で、井手内さんが来て、「ここをこうしてほしい」、「分かりました」。それについて内山さんが何か言うわけでもない。2人の中では役割分担があったのかもしれないし、何か区別があったのかもしれないですけど、僕はそこ知り得ないので。ただ、僕はそこに不安感とかやりづらさみたいなものはなかったですね。

──監督2人とも、世代が近いと思いますが、そのあたりはどうでしたか。

清水:それは大きかったと思います、すごく。お兄ちゃんみたいな感じなんで。特に内山さんとはその後も何回かお仕事をさせてもらっているので、その分の関係値もあるんですけど。2人とも仕事以外の、カメラが回ってる時間以外でのところでのテンションというか温度感がやっぱり、世代が近い分、かみ合う部分もあるし、話しやすさみたいなものもあります。こっちも変な気を寄せずにディスカッションができたので、そこはすごく良かったなと今振り返って思いますね。

──撮影は全体で5日間だったそうですね。

清水:僕はたぶん…2日ぐらいしかいなかったです。だから、あとの2人は大変だったと思います。

清水尋也

──志村役の門下秀太郎さんと長岡役の田中偉登さん、お2人とは今回が初めてだったんですか?

清水:共演自体はそうですね。偉登とは前々から面識があって。15歳ぐらいから彼のこと知ってるんです。同い年なので。門下に関しては初めてだったんですけど、歳は1個上か2個上ぐらい。全然呼び捨てしてますけど、優しいので許してくれます(笑)。リハーサルでも1日2日しか会ってないですし、撮影自体も僕は2日ぐらいしかいなかったので、会った日数とか時間でいうと全然少ないんですけど、その撮影が濃くて、役柄としても年齢的にも、かみ合う部分がありました。で、監督はそこの中心に立ってくれましたね。基本的にみんな歳が近いこともあって、すぐに仲良くなったので、映画祭(星降る町の映画祭)で久々に会ったときとか、舞台挨拶もすごく楽しかったです。

──劇中でも、あの2人と一緒にいるときの波はあまり屈託もなく、楽しそうな表情も見せています。3人の旅の撮影中も画面で見る通りの雰囲気でしたか?

清水:そうですね。でも、人間って結構そういうものだと僕は思っていて。僕もそうなんですけど、考えごともすごいしますし、悩むことも時にはあります。でも、友だちといるときはそういうことはあまり気にしないというか。例えば、虫歯になって歯が痛いけど、友だちと遊んでいたら忘れるじゃないですか(笑)。そういう感覚って、人間にはあると思うんです。だから、彼らと一緒にいたときの波は純粋に楽しんでいたはず。でも何か、ふと垣間見える儚さみたいな、ちょっと触れちゃいけないような領域、みたいなものが出るといいなと思って演じていました。

──おっしゃる通り、波には踏み込んではいけない雰囲気がある一方で、自分から本当にさらっと、壮絶な話をし始める。聞いている2人がどう受け止めていいかわからずに聞き流そうとする場面がリアルでした。あの3人の友情についてどういうふうに思いますか。

清水:でも結局、あの場で100%受け止めきれなかったとしても、最終的に、とことん波のことを、いなくなった波の足跡を懸命にたどっていく2人を見ると、やっぱり放っておけなかったんだろうと思うんです。波もさらけ出したってことは、彼なりのメッセージがたぶんあって。本当に隠したかったら絶対言わないですから。そこを多少なりともさらけ出すっていうことは、それが彼なりのSOSだったのか、はたまた、例えば自分が姿を消すことを前提とした上での置き土産じゃないけど、彼なりの踏ん切りのつけ方だったのか。
どちらにせよ、3人ともお互いに特別な意識は常にあったんだと思います。普通の友だちだけど、やっぱり彼らの中では深いつながりがあったのかなと思います。

この先何があるか分からないけれど、全部キャッチしていきたい

──将来のことについてお聞きしたいです。波は2人に「見たい景色がある」と話します。よく聞かれるは思いますが、清水さんの見たい景色は何でしょう?

清水:本当に申し訳ないんですけど…特にないんですよね。別に悪い意味じゃなくて。これはずっと言っていることなんですけど、ゴールを決めると、プロセスが決まっちゃうと思っていて。例えば、10年後までに何をやるか目標を決めると、逆算して、じゃ、5年後までには少なからずこうしてないといけない。ってことは3年後までにはこうしないといけない。ってことはもう1年後にはこれしないといけないじゃん!というプロセスがだんだん決まってきちゃう。現実的に考えると。それが面白くないと思っているんですよね。この先何があるか分からない。どの角度からどんな物事が飛び込んでくるか分からない。僕はそれを全部キャッチしていきたいと思っているんです。今、21歳の10月現在の僕が、目の前にある選択を自分がやりたいほう、自分が進みたい方向に選んでいくことが大事だと思っています。その選択を続けていけば、10年後に僕がどんな景色を見ていようとも、その過程の選択で僕は一個も後悔をしてないので、その結果にも後悔はないと思うんです。

──それが「ゴールを決めない」ということですね。

清水:そうですね。何が待っているのかも分からないけど、それはそのときにしか分からないことなんで。今をどれだけ、もっと言うと、今日のこの一日をいかに幸せに楽しく生きるかのほうが大事なので、それを重視してます。この1~2年でそういう考えになりました。

──今年は新型コロナウイルス のパンデミックで社会がすごく変わってしまいましたが、この時期をどんな気持ちで過ごしましたか。
清水尋也

清水:自分と向き合う時間が多かったので、いろいろ考えました。細かいことを言うと、お金の使い方とかですかね。コロナ禍前の僕はこれまでずっと、洋服が好きだったり、物にお金を使うことが多かったんです。それが時間にお金を使おうと思うようになりました。
友だちと、いつも食べないちょっとおいしいご飯を食べに行って、くだらないことを話しながら、わいわいしながら、ばか騒ぎしながら、大笑いしながらご飯を食べる。その楽しい時間って、物とは違って、何があってもなくならない。それって素晴らしいよなと思うようになりましたね。パンデミックが終息したら、いろんなところに行きたいです。いろんなものに触れて、いろんな場所で、いろんな時間を過ごして。そういう記憶に残る時間を持ちたい。人生って一回しかないんで、なるべく密度の濃い時間を過ごしたいと思っています。

(text:冨永由紀/photo:ナカムラヨシノーブ

清水尋也
清水尋也
清水尋也
しみず・ひろや

1999年6月9日生まれ、東京都出身。2012年、ドラマ「高校入試」(フジテレビ)。でデビュー。映画『渇き。』で壮絶ないじめに遭う中学生・役を演じ、『ソロモンの偽証』ではクラスメイトに恐怖を与える不良役という両極端なキャラクターを演じて脚光を浴びる。主な映画出演作は『ちはやふる 上の句・下の句/結び』『ストレイヤーズ・クロニクル』『貞子』『ホットギミック ガールミーツボーイ』など。2019年、第11回TAMA映画賞最優秀新進男優賞受賞。2020年は映画『青くて痛くて脆い』『妖怪人間ベラ』『甘いお酒でうがい』に出演。来年は、映画『東京リベンジャーズ』、声優に初挑戦ながら主演を射止めた劇場アニメ「映画大好き、ポンポさん」の公開が控えている。