1947年1月18日生まれ、東京都出身。74年、ビートたけし名義でビートきよしと漫才コンビ、ツービートを結成し、80年代の漫才ブームで爆発的な人気を獲得。大島渚監督の『戦場のメリー・クリスマス』(83年)、『夜叉』(85年)などの映画、ドラマで俳優としても活躍し、1989年に主演も務めた『その男、凶暴につき』で映画監督デビュー。ほぼ年1本のペースで撮り続け、『HANA-BI』(98年)で第54回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。初の時代劇挑戦作『座頭市』(03年)では第60回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)に輝く。近年は“全員悪人”のバイオレンス・エンターテイメント『アウトレイジ』(10年)、『アウトレイジ ビヨンド』(12年)が大ヒットした。
オレオレ詐欺に騙されたのをきっかけに、元ヤクザのジジイたちが再結集。「一龍会」を名乗り、弱者を相手にあくどい金儲けをたくらむ詐欺集団「京浜連合」に戦いを挑む『龍三と七人の子分たち』。金無し、先無し、怖いモノ無しの親分・龍三と得意技のある七人の子分たちのはちゃめちゃな暴走を描く痛快なコメディタッチ作品で組んだ北野武監督、主演の藤竜也に話を聞いた。
──映画を見る前は藤竜也さんとのイメージが頭の中で結び付かなかったのですが、見たら本当に面白くて、たくさん笑いました。監督は藤さんに主役をやってもらって正解だと思ったのは撮影中どの辺りからでしょうか?
北野:いや、もう最初に木刀……、(藤に)あれはバットでしたっけ?
藤野:いや、木刀です。
北野:木刀ですよね。あれを振っている時からもう、ああ当たりって思って。あれは龍三の最初の紹介くだりというか、ネタ振りなんだけど。指をつめてることから始まって、このおじいちゃんがいかに昔悪くて、いまだに入れ墨を見せて威張っているのかを、息子とのやりとりで見せる。あのシーンが面白くて、ああ正解だなと思った。
あれが最初の画だからね。『アウトレイジ』を見た人の中には、笑っていいのかどうか初め悩んだって言う人がいた。だから今回は、笑っていいんだって早めに言っておいた方がいいなと思って。最初からうまく行きました。
藤:コメディに出たつもりはないんですよ、僕は。いつもと同じように、もらった役をどうやったらいいだろうと工夫しながら、一生懸命やっただけで。笑わせるつもりは毛頭ないし。今監督がおっしゃったシーン、あれは初日だったんですよ。監督が気に入ってくれたか、と本当に久しぶりに緊張しましたね。
北野:設定ではヤクザのおじいちゃんになっているけど、実はもっと子どものガキ扱いですね。ガキが悪いことをして喜んでいる感じ。ヤクザが正義なわけないしね。でも、それぞれの人生のペーソスがあって、これが悲しい映画に見える人もいる。これはコメディアンがやると、実につまんないわざとらしい芝居になるんです。ちゃんとした役者さんがちゃんとした演技をやると、本人たちが気がつかないところでお笑いが生まれているという。だから、お笑いだとは薄々分かってるんだろうけど、みんな笑わせようとしない。この映画は根底にはちょっと暗く寂しい流れがあるんだけど、表面的にはやたらおかしい。でも、お笑いっていうのはある程度ペーソスがないとつまんない。
藤:僕は現役で俳優やらしてもらってますが、普通は定年があって、これから余生の趣味を見つけてゆっくり過ごそうという人もいれば、まだやり足りないと言う人もいるだろうし。最初は、引退してゆっくりしていいなと思うけど、これが5年、6年、7年経って体が健康なら、何かもう少しやることあるんじゃないかときっと思うんですよ、人は。だから、平たく言えば、もうひと花咲かせたいっていうジジイたちを代弁できるんじゃないかと思って、一生懸命やりましたね。ですから、若い人に思いっきりめちゃくちゃな言葉を投げるシーンなんていうのは内心は痛快でした。
北野:名古屋の商店街を休みの日に貸してもらったんだけど、俺、CGのアクションが大っ嫌いで。ドーンと爆発して人が跳んだり、車が横転してまだ生きてたり、屋根に登ったり……もうあんなのどうでもいいから(笑)。アナログの面白さっていうのがあってね。作り込んだ商店街をぶっ壊していく快感もあるし。
CGは人間の想像で作っちゃうから想像の範囲内なんだけど、実際みんなをバスに乗せて走ってみたら相当危険で、中で慌てふためいているのが見えたり。どうせ映ってないから大丈夫だと思って、運転しているスタントマンが職業柄もうギリギリまでやるから、中に乗ってる人たちは「たまんねえ」って言って。スピードはそのまま、早回ししてるわけでもないから。その方が面白い。ハリウッドお得意のCGはリアル感なくて。あれをコミックとして楽しんでるんだろうけど、俺はあんまり好きじゃないんですよね。
今回、本当に名古屋のフィルム・コミッションがよく手伝ってくれて、技術さんもよくぞ作ってくれました。2〜3回、建て直しては壊してるからね。相当大変だったけども、あのシーンがあることによって、わりかしうまく締まったというか、大作になったと思う。
藤:画に映った通りです。相当な遠心力もかかって振られますしね。みんな必死につかまってるんですよ。僕は指が2本ない設定だから、正直にこうやって(と指3本の手つきを再現)手すりをつかんでるから、もう痛いですよね。
北野:誰も文句言わない。みんな台本を見て納得しちゃうんだから、それをやりきろうとするんで何も言わないですね。いくらやろうとしてもできない人もいたけどね。それはしょうがない。だけど、一生懸命やろうとしてるんで、これはもう撮り方の問題。だけど、大半は本人たちが全部やったんで、よくやりきれたなというか。
北野:浅草時代にいろんな人見てるからね。浅草って、一匹狼が多くて。7人のキャラクターは基本的に黒沢明監督のに対するオマージュです。ただ、それぞれが悪で、得意技を持たなきゃいけないんで『荒野の七人』になっちゃうんだけど。たとえば、五寸くぎは、京浜連合の西がダーツやるんで、事務所に乗りこんだ時に五寸くぎを投げてナインダーツだっていうのをやりたかったからだし。
ただ、2時間以内で7人全員紹介しなきゃならないんで、ネタと子分の得意技の関係は徐々に絞り込んで、ある程度わかればバスに乗せちゃえばいいっていうところがあって。
藤:監督がとても早く撮って下さって。テンポがいいから、そういう点では助かりましたね。
藤:自由です。俳優がどう動くか注文はないです。「もう少し元気よく」みたいなシンプルな言葉での演出はありますけど。
北野:俺は監督した時、役者に「ここはこうした方がいいんじゃないですか?」って言われるのが一番嫌なの。2度とこいつを使わねえと思うわけ。だから、俺が役者やる時は、その監督たちがイメージした通りの演技をしたいと思う。ただ、俺は藤さんたちに何も言わない。台本を読んで自分なりにちゃんと役を作って来てくれるんで、文句つけるところがないんですよ。あとは、キャスティングの時点で大体、芝居の見当がつくんです。今回も妙な言い方ですけど、みんなうまい役者だから。コメディアンを一切使わないのは、自分からアドリブ入れたりされるとテレビになっちゃうんで。映画はカッキリやりたいっていうのがあるから。今回初めて読み合わせもしたけど、なぜかと言うと、本当にしゃべれるか、本当に動けるんだろうかっていうことの確認だけで。いい年の方もいらっしゃるんでね。品川(徹)さんなんかよくバスに乗ってましたよね。今考えりゃ虐待だよな、これ。あのバス乗せちゃったんだもん(笑)。
藤:無駄なカットは撮らないで必要なカットだけを撮る。“とりあえず”で撮られると、すごくくたびれるんですよ。後で材料がほしいからという理由で、あれもこれもって言うとキリがない。役者のエネルギーの消耗がとても大きいんです。刺身を手でベタベタ触ってクタクタになるみたいな感じになっちゃう。でも、北野さんの場合はスッと来たら、スッと持って行ってくれる。こちらも楽だしベストなものを使ってくださるから、それはもうありがたかったです。
北野:それは自分が漫才師出身だからじゃないかな。同じネタを2回できるかっていうのがある。1回やったネタを2回目やったら全然受けないでしょ? 最初が一番いい演技に決まってるんだから。
カメラマンも音声さんとか照明さんもほとんど北野組は変わってないんで、速いんですよ。藤さんが言うように、役者さんも同じ演技を何回もやると鮮度がなくなってくるから、やり直しはセリフを間違えた時ぐらいですね。余分なカットは、俺も役者やっててイライラする。どうせ使わないだろう、このカットっていうのはあるじゃないですか。使うカットが分かってないだけだから。撮りたいカットを撮ればいい。大体頭の中に編集したものがあれば、それに当たってればいい。
北野:目をつぶれば、『龍三と七人の子分たち』を撮る前にそのシーンが大体入ってて、それをなぞって撮るだけ。なのに、偶然撮ったカットが良かったみたいに言う人もいるじゃない。偶然はないと思うよね。今回偶然だとしたら、バスの中から撮った画で、ガラスにヒビが入った時。みんな焦りまくったって言うけど、こっちは得したなと(笑)。それは新しいカットだけど、後はロケハンも行っているし、台本もあるし。役者さんも決まってて、立ち位置も大体決めてあるんだけど、どんな芝居になるかは大体見当つかないと。何回もやってもらうのは失礼だしね。。
北野:いや、「俺はジジイだから」っていいエクスキューズだと思うわけ。都合が悪かったらボケたふりっていうが一番いい。ねえちゃんのケツ触ったって、「そんなことしたっけ? この手、揺れちゃうんで」って言ってればいいんで。よく俺、孫のアメを取って怒られてるんだけど「知らねえよ、俺、そんなこと」って言ってね。
藤:感じない。僕は平気。失礼な態度とられると、もう忘れちゃいます、すぐに。俺も若い時、失礼なことたくさんやってたから、フィフティ・フィフティ。
北野:開き直ったジジイが一番怖いっていうか、説得のしようがない。「お前たちに明日はあるか?」って、ないんだからね。だから子どもなんですよ、もう。今回も、ちゃんと芝居してもらって編集していくと、悪いことをしてる京浜連合よりも子どもかも分かんないんですよ。それが面白くて。で、かわいくなっちゃって。孫なんかが出てくると悲しくなっちゃって。面白いなと思います。
(text:冨永由紀/photo:中村好伸)
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