『サバカン SABAKAN』原田琥之佑×貫地谷しほりインタビュー

「最後は大泣き!」少年たちの夏を描いた珠玉作で親子役

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原田琥之佑、貫地谷しほり

ずっと、おじいちゃん(原田芳雄)の映画の真似をしていた/原田琥之佑

1980年代の長崎の小さな町を舞台に、イルカを見ようと冒険に出る少年2人を描く『サバカン SABAKAN』。これが演技初挑戦という子役2人を中心に、実力ある俳優たちが脇を固める、楽しくて切なくて、温かい作品は、本作が初監督作となる金沢知樹の少年時代をもとにした物語だ。TBSドラマ『半沢直樹』(2020)をはじめ、テレビ・舞台の脚本を手がけた金沢が共同脚本(萩森淳と)も手がけた本作で、主人公の久田と友情を育む竹本を演じたのは12歳の原田琥之佑。竹本の母親を貫地谷しほりが演じる。

劇中の不器用で口下手な様子とは打って変わって、素顔の原田は自分の言葉を紡ぎながら、映画の現場の楽しさを朗らかに語る。その言葉に耳を傾けて相槌を打ったり、質問する貫地谷。質問から会話が広がっていくような和やかな時間だった。

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──完成作を見て、どう思われましたか?

原田:僕は、映画出演も初体験ですし、そもそも全てが初体験でした。自分がスクリーンに出ていることが信じられなくて。見ながら、『あれ? なんで僕、ここにいるのに、あっちにいるんだ』って(笑)、そう思ったりする瞬間が結構ありました。

貫地谷:私はもう本当に感動して、最後は大泣きしていました。試写会場の灯りがついて明るくなったら、周りみんなも泣いていて。2人が楽しく冒険しているところも、最後もぐっと来てしまって、本当にいい映画に参加できたなと思いました。

──原田さんはこれが映画デビュー作ですが、出演はどういう風に決まったのですか?
原田琥之佑

『サバカン SABAKAN』番家一路(左)、原田琥之佑(右)
2022年8月19日より全国公開 (C)2022「SABAKAN」Film Partners

原田:最初に監督とお会いして、その後にオーディションを受けました。2、3週間くらい経った後、習い事の帰り道に親とご飯を食べている時に『あ、そういえば、あの映画の件だけど、受かったよ』と言われて(笑)。

──びっくりですね。

原田:はい(笑)。未だに信じられないです。映画が全国で上映されるということも、自分にとっては非現実的なんで、驚きがまだ隠せないです。

──以前から、お芝居をやってみたいと思っていたのでしょうか?

原田:はい。ずっと興味あったし、おじいちゃん(俳優の原田芳雄)が出ていた映画の真似をしたりしていました。

原田琥之佑

──どの作品ですか?

原田:『大鹿村騒動記』という映画です。大鹿村というところで村民の方々が歌舞伎をやる話で、その映画で使った小道具の刀がおじいちゃんの家にあったので、それを振り回して歌舞伎のセリフを真似したりするのをずっとやっていて、演技は好きでした。

貫地谷:私は、琥之佑くんと(久田役の番家)一路くんの2人が本当に綺麗な時に出会ったな、と思います。身体的な話ではなくて、この時期特有のもので、2人のやり取りを見てると、すごく純粋で、なんて綺麗な時間を見させてもらってるんだろうと思いながら見ていました。

──貫地谷さんが出演しようと思われた1番の決め手は何でしょうか?

貫地谷:金沢監督だったからです。以前、舞台をご一緒させてもらったことがあって、その時も金沢さんが脚本を書かれて、それもすごく良かったんです。それで「初めて映画を撮ります。監督をやります」と言われた時に、まだ脚本も読んでなかったですけど、『やります』と返事しました。その後に脚本を読んだら、やっぱり素晴らしくて。完成した映画も、金沢監督だからこそ、という作品だと感じました。

──撮影は長崎で行われたそうですね。

貫地谷:私は1日、2日ですけど、(原田に)何日か行ったの?

原田:3週間くらいで、夏休みのほとんどを過ごしました。

──どんなところでしたか?

原田:すごく綺麗なところです。目の前に海があったり、自然豊かな感じで。

貫地谷:ロケ行く時に海のところを通るじゃない?

原田:ああ! あれはすごく綺麗でした。

──お2人が一緒の竹本家のシーンは、親子としての時間が積み重なっているのが伝わってきます。

貫地谷:それは、嬉しいです。

──どんな点に気をつけて演じられましたか?

貫地谷:(原田に)特に意識してなかったよね。

原田:うん。

貫地谷:金沢監督は、子どもたちがあの家の中でわちゃわちゃしていると、『あ、今いい感じだから(カメラを)回そう』と、自然な様子を撮影して。そこに私も混じっていったので、監督の力としか言いようがないですね。

原田:一路くんや竹本の弟妹役の子たちと遊んでたら、いつの間にかカメラが回っていました。僕たちは気がつかないで、普通に遊んでました。

貫地谷:こんなに子どもたちがカメラを意識しないで映っているのって、なかなかないんじゃないのかな、と思います。

──それでいて、お芝居を忘れてはいなくて、役の関係性を保っていますね。

貫地谷:(原田に)練習とか結構したんだっけ?

原田:クランクイン前に、スタジオに行って、監督と一路くんと3人だけで練習しました。撮影開始2、3週間前からは台本なしで。

原田琥之佑×貫地谷しほり 撮り下ろし写真ほかを全て見る

金沢監督はもう天才、見事でした/貫地谷しほり

──番家さんとのコンビネーションが素晴らしかったです。共演してみていかがでしたか?

原田:すごく明るい子で、久田という役と合ってるな、と思いました。僕は初体験で……まあ一路くんもそうなんですけど、主役という重荷もあって、「すごい怖いな。緊張するな」と思っていたんですけど、一路くんは笑いながら「やべえ、緊張する〜」って。

貫地谷:言ってそう(笑)。

原田:すっごい笑顔で。見ていて、その笑顔で結構救われました。

貫地谷:ほんとにいつも笑顔だったもんね、一路くんは(笑)。

──劇中の久田はおとなしそうですが、実際はむしろ逆みたいな感じですか。

原田:そうですね。ただ、久田も落ち着いてはいるけど、やっぱりすごい元気じゃないですか。だから役が合ってるなと思っていました。

貫地谷:2人とも役にぴったりだったと思います。

原田:自分でもそう思います。竹本って僕じゃん、と思ったり。

貫地谷:どういうところで思ったんですか?

原田:やんちゃなところとか、喧嘩っ早いところとか。

貫地谷:(笑)

原田:口が悪いところ、不器用なところとか。普通に接したいけど、ちょっと強く当たっちゃったりするところが、すごく似てると思いました。

──久田との友情についても、竹本は悩んだり、不安を抱えたりしますね。

原田:僕自身にもたまにあります。誰かとほんとに仲良くできてるのか? と思い始めたりすると、その相手との仲がよくなくなってきちゃったり。そんなことが前にありました。

──そういうところも共感できる点でしょうか?

原田:はい。

貫地谷:私もわかりますね。自分がそう思っていても、相手がどう思ってるかわからない不安というか。すごく懐かしい感じがしました。

──今回演じられた女性からは母親の優しさ、大きさを感じます。

貫地谷:とにかくほんとに明るい、元気なお母さんにしたいというのはありました。最初に撮ったのが家の中で子どもたちと一緒のシーンだったんですけど、もうほんとに自由なんですよ、みんな(笑)。セットに入ったら、泣いてる子もいれば、ガヤガヤしてる子もいて、その子たちに「コラ!」とか「よしよし」とやっていたら、もうその空気が出来上がっていたので、もうほんとに子どもたちに感謝です。

──原田さん、あの賑やかな感じはどうでしたか?

原田:はい、僕は1人っ子なので、幸せでしかなかったです。

貫地谷:面倒見もよかったよね。

原田:ちっちゃい子が好きで、ほっぺたとかつい触っちゃいたくなる。自分で言うのもなんですけど、ちっちゃい子にすごく懐かれるんです。人見知りの子とも一緒に遊んだりとかすることは結構あるので、竹本家のシーンは楽しかったです。

──撮影で、特に印象残っている思い出は何でしょうか?

原田:全部がほんとにすごくいい思い出なんですけど、一番印象に残ってるのはやっぱり初日です。みかん畑のシーンでした。一番最初なのですごい緊張もするし、「楽しい!」もあるし、全ての感情が合わさったみたいな。

貫地谷:動きもいっぱいあったしね。

原田:走るシーンもあって、印象深いです。

貫地谷:それも、監督の狙いだったのかもね。初日に体も動かして、リラックスしてやるっていう。

──確かに冒険の雰囲気があふれるシーンでしたから、役の感覚も掴めましたか?

原田:みかん畑は山道でちょっとした段差があって、そこをジャンプしたり、足取りが難しかったけど、山ではこうしたらいい、というのは初日でほとんど掴めました。

──運動とか、体を動かすのは好きみたいですね。
原田琥之佑、貫地谷しほり

原田:はい。鬼ごっことかも大好きです。

貫地谷:ダンスもやってたもんね。

原田:はい。でも、運動神経がいいのはどっちかっていうと一路くん。バク転とかもできるし。久田は足が遅い設定だったけど、それは僕の方だった(笑)。そういうところに関しては、竹本と僕は違うと思いました。

──原田さんは劇中でサバ缶のお寿司を握る場面がありましたが、かなり練習されましたか?

原田:しましたね。家で握る練習をして、YouTubeをみて独学したり、映画のクランクイン前に長崎に着いて、まず散髪して、自転車の2人乗りの練習もして、現地のお寿司屋さんに行って、寿司を握る練習をしました。

貫地谷:やることいっぱいあったね。

原田:はい。やることをやっていて、気がついたら終わってた、みたいな夏でした。軽トラの後ろに乗ることとかも全部が初体験だったので、本当に楽しかったです。

──撮影の合間の時間に、一路くんとはどんなふうに過ごしましたか?

原田:ずっと話してました。

貫地谷:ずっと喋ってたね(笑)。

原田:ご飯の時とか、他の共演者さんとも話してました。一路くんと仲を深めて、演じるシーンについてどうやったらいいかを分析したり。2人で「次、このシーンだね」「このシーン、めっちゃ好きなんだよね」とか、あとはバカ話も(笑)。

貫地谷:私がすごく覚えてるのは……(原田に)監督やりたいって言ってなかった?

原田:はい。もともと映画も大好きで、映画のメイキングを見るのも好きだったんですけど、ほんとに生で映画作りの裏側を見てみたら、裏方の仕事をやってみたいという気持ちが芽生えてきて。それも監督をやってみたら、もっと楽しいんじゃないかと思って。

貫地谷:その時、「監督になったら、出してください」ってお願いした記憶がある(笑)。

原田:(笑)

──金沢知樹監督はどういう人ですか。
金沢知樹

撮影中の様子/金沢知樹監督

原田:純粋で子供の心を持っていて、共感できる。正直な人で、接しやすい。話しやすいです。

貫地谷:金沢監督はもう天才だと思います。あんなに王道な作品を作るって、一番難しいと思うんですけど、見事でした。

──貫地谷さんは多くの作品に出演されて多くの現場をご存知ですが、今回が初監督である金沢さんはいかがでしたか?

貫地谷:現場のスタッフさんもキャスト含めて、人のことを信頼していると感じました。それぞれに任せる部分は任せて、監督は空気作りに徹していましたね。撮影している時は「いやもう、俺は監督なんて」とかおっしゃってたんです。で、試写を見て、すごく素敵だったから、メールして「素晴らしかったです。ところで、監督はまだ続ける気になりました?」と聞いたら、「なった」と(笑)。監督自身もすごく大満足の自信作になったというふうに、おっしゃってました。
もう本当に、草彅剛さんもですし、尾野真千子さん、竹原ピストルさん、その他出演された皆さんが素晴らしくて。主人公2人はもちろん、すごい素敵だったし、もう出てる人、みんな好きになっちゃいました。

──私もそう思います。ヤンキー集団も出てきますが、その人たちも憎めないというか。

原田:ヤンキー役の人達とも現場で「この地面、熱い!」とか話しました(笑)。地面に倒れてるシーンで、太陽がガンガンに照っていて、しかも僕はタンクトップに半ズボン姿だったので、めっちゃ熱かったんです。やけどしそうなくらい。で、ヤンキー役の人たちは長袖長ズボンで暑いって(笑)。

──そんな夏の思い出が詰まった映画を、どう見てもらいたいですか?

原田:ちっちゃい子から大人まで楽しめる映画になっていると思います。是非たくさんの方に見て欲しいです。

貫地谷:本当に、愛おしい人物がたくさん出てきます。全く同じ経験をしたわけではないですが、自分の中に共感するような気持ちがグッと押し寄せてきて、私はすごく涙があふれました。家族で、子どもからお年寄りまで、みんなに見てもらいたい映画が出来上がっているので、ぜひ劇場に来てもらいたいです。

(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
(貫地谷しほり ヘアメイク:北一騎(Permanent)/衣装:Edwina Ḧrl)

[訂正のお知らせ]
以下の通り訂正しました。
訂正前:その映画で使った刀がおじいちゃんの家にあった小道具の刀を振り回して
訂正後:その映画で使った小道具の方がおじいちゃんの家にあったので、それを振り回して

原田琥之佑
原田琥之佑
はらだ・こうのすけ

2012年2月2日生まれ、東京都出身。本作が映画デビューとなる。祖父は俳優の故・原田芳雄。

貫地谷しほり
貫地谷しほり
かんじや・しほり

1985年12月12日生まれ、東京都出身。2002年映画デビュー。04年の映画『スウィングガールズ』で注目を集める。07年NHK連続テレビ小説『ちりとてちん』で初主演を務め、13年の初主演映画『くちづけ』では第56回ブルーリボン賞最優秀主演女優賞を受賞。主な映画出演作に『望郷』(17年)、『この道』(19年)、『アイネクライネナハトムジーク』(19年)、『夕陽のあと』(19年)、『総理の夫』(21年)などがある。主なテレビ出演作に『テセウスの船』(20年)、『ディア・ペイシェント〜絆のカルテ〜』(20年)などがある。