『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』ジョン・マッデン監督インタビュー

ヒトラーを騙す重大任務を与えられた諜報部員は“死体”だった!?

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ジョン・マッデン

英国諜報部MI5が実際に計画した前代未聞の奇策!

第2次世界大戦中、英国がナチスを欺くために講じた奇策の全容を映画化した『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』が、2月18日より全国公開される。

『オペレーション・ミンスミート―ナチを欺いた死体―』
2022年2月18日より全国公開
(C)Haversack Films Limited 2021

時は1943年、第2次世界大戦が激化する中、ナチスが勢力を広げ、世界の未来は暗雲に包まれていた。ナチスを何とか食い止めなければならないと考えた英国諜報部MI5は、とんでもない奇策をチャーチル首相に提案する。死体を高級将校に仕立て上げ、ヒトラーを騙すための偽の文書を持たせ、ナチの勢力圏内の海岸に漂着させようというのだ。しかも驚くことに、“ミンスミート”と名付けられたこの作戦の発案者の名は、イアン・フレミングだった。後に007シリーズを書き上げた、ジェームズ・ボンドの生みの親だ。

ベストセラー・ノンフィクション「ナチを欺いた死体 – 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実」の映画化権を獲得し、本作をプロデュースしたのは、『英国王のスピーチ』(10年)でアカデミー賞作品賞を受賞したイアン・カニング。『恋におちたシェイクスピア』(98年)のジョン・マッデンが監督にあたり、『キングスマン』(21年)のコリン・ファース、『エジソンズ・ゲーム』のマシュー・マクファディンら実力派キャストが顔を揃える。

大戦下で実行された最も奇想天外、最も成功した欺瞞作戦の全容をスリリングかつエキサイティングに描いたマッデン監督にインタビューを行った。

深い愛に心が震える/コリン・ファース インタビュー

──本作のストーリーは実話だそうですね。

監督:イギリス軍が、イギリス海兵隊の少佐に見せかけた死体を海に流す作戦を計画する。少佐はある機密文書を運んでいた最中に死んだという設定で、その文書はイギリス本土から北アフリカにいる連合作戦の指揮官へ向けたものなんだ。この作戦の目的は、敵にウソのギリシャ上陸計画を信じ込ませ、すでに察知されているシチリア上陸作戦をダミーだと思わせること。敵の情報収集能力の裏をかいた見事な欺瞞作戦だよ。
ウソの作戦内容をドイツ軍に伝えるためには、少佐の死体をスペイン南部に漂着させる必要がある。忘れてたり最初から知らない人が多いけど、スペインは参戦してなかったから、あらゆる陣営のスパイであふれ返ってたんだ。だから文書は確実に敵の手に渡る。劇中のセリフにもあるように、文書はドイツ軍のスパイの手に渡り、その内容がヒトラーにも届くんだ。

──このストーリーのどこに惹かれましたか?

監督:実に面白いストーリーだよ。あまりに綱渡り、あまりに奇想天外、どう考えてもうまくいきっこない。映画監督にとってこれほど魅力的なものはない。もし作戦が失敗すれば、ノルマンディー上陸やバトル・オブ・ブリテンに並ぶような歴史に残る大惨事が起きる可能性が高い。非現実的で危うい作戦なのに、絶対に失敗できない。このストーリーの力はそこにあるんだ。

──本作のテーマは何でしょうか?

監督:根底にあるテーマは“ストーリー作り”だよ。意識的にそうした。本作に登場するコミュニティー全体が作家で溢れてる。1人はのちの有名作家だが、当時からすでに作家として活動していた。作戦の立案に関わった人々全員が実質的な作家だし、実際に小説を出版した人もたくさんいる。彼らの小説に出てくる犯罪者たちは、犯罪の痕跡を完全に消し去り警察を煙に巻く。彼らがやったのは、ストーリーを作って人に信じ込ませることであり、それは私の仕事でもある。

撮影現場でのジョン・マッデン監督

──主人公のモンタギュー少佐とチャムリー大尉はどんな人物でしょうか?

監督:2人の立役者がこの作戦を練り上げ、遂行まで見届けたんだよ。1人はユーエン・モンタギュー、法廷弁護士だ。彼はイギリス海軍に勧誘され、海軍情報部で諜報部員として働いた。本作に登場する時点ですでに長いキャリアがある。
チャールズ・チャムリーは、モンタギューよりずっと若い。彼は偵察機のパイロットを目指していたんだけど、非常に背が高い上に足が大きく、コックピットに収まらなかったから夢を諦めるしかなかった。
経歴も性格も全然違う2人がタッグを組むことになる。モンタギューはうるさいほどに口が達者でチャーミング、とても気さくで顔も広い。チャムリーは孤立気味で扱いにくく、本当の自分を見せない。そんな2人の対比が作品のベースにある。脚本家のミシェル・アシュフォードは、正反対の2人を中心にして脚本を仕上げていったんだ。

男性2人と女性1人、問題が起きるのは必然!?

──女性の登場人物に特定のモデルはいますか?

監督:作戦を支えた女性が2人いる。1人はヘスター・レゲット。脚色はあるが実在の女性だよ。かつてモンタギューの法廷弁護士事務室で事務職員だった。情報部でもモンタギューの下で働くことになり、作戦の中枢を担う13号室の主要メンバーになる。詳細は省くが、感情面でも組織的な意味でも、彼女はまさに中心的人物だと言えるね。

もう1人の重要人物ジーン・レスリーも実在の人物だけど、若干の脚色を加えてある。彼女も作戦の中心になり、提供した写真が重要な役割を果たす。岸に流れ着いた死体のマーティン少佐に信憑性を持たせることになるんだ。少佐は恋人の写真やラブレターなど個人的な品も持たされている。少佐の人となりを作り上げていく過程は、恋人役であるジーンを軸に回り始めるんだよ。

そうこうするうちモンタギューに変化が現れる。架空の人物マーティン少佐に自分を重ねてしまうんだ。彼と恋人の関係が自分とジーンの関係にオーバーラップし始める。

──キャラクター同士の関係性はどのように作り上げましたか?

監督:メインのストーリーは歴史的な奇策の全容だ。彼らはウソのプロフィールを詳細にでっち上げていく。財布の中にある指輪のレシート、手紙、銀行からの催促状など機密文書以外の携行品も揃えなきゃならない。“ウォレット・リター”と呼ばれるポケットや財布に入れっぱなしのレシートも全部。こうして細部に至るまでリアルに人格を作り上げていくんだ。しかし、ケリー・マクドナルド扮するジーン・レスリーの存在により、その作業が複雑になっていく。男性2人と女性1人、問題が起こるのは必然だよね。

ジョン・マッデン

映画撮影中のジョン・マッデン監督

──モンタギュー役をコリン・ファースが演じています。キャスティングに苦労は?

監督:コリンに合わせて役の年齢を上げたんだ。正直に言えば、私の頭の中にコリンが滑り込んできた。モンタギュー役は彼しかいないと感じた。彼自身もこの作品に興味があると明言していた。モンタギュー役の配役を話し合う場に脚本家のミシェルもいた。彼女が頭の中でコリンを役に当てはめた途端に、映画が大きく前に進み出したんだ。

──チャムリー役のマシュー・マクファディンは?

監督:チャムリー役は完全に思いがけない幸運だった。マシュー以上の適役は誰にも思いつかないだろう。どの点を取っても完璧。面白おかしいキャラクターを演じさせたら右に出る者はいないね。驚くほどタッチが軽いマシューは、あの手この手でおかしさや奇妙さを表現する。堂々と主役を張れる俳優なのに、ちょい役でも喜々として演じる。少し風変わりなキャラクターをね。

──ジェイソン・アイザックスの演技はいかがでしたか?

監督:これ以上ないほど完璧に提督を演じてくれたよ。ジェイソンの役作りは完全に予想外だった。法廷レベルの細かさで、すべてのセリフ、言外の意味、参考資料を研究してきた。そしてストレステスト並みに私を質問攻めにした(笑)。しかも、撮影が始まるずっと前にだよ。彼の役作りのプロセスは素晴らしく刺激的だった。

──ペネロープ・ウィルトンは?

監督:ペネロープが演じたヘスター・レゲットはまとめ役であり、映画の良心だ。ペネロープとの仕事は初めてじゃない。本作のような映画には彼女のような女性が必要なんだよ。男性の恋愛対象としての女性ではなく、仕事や友情でつながる女性としてね。

ペネロープは役柄よりも年上だったけど、あえてキャスティングした。彼女が演じたヘスターは上から他のキャラクターを見守るような立ち位置にいる。13号室の中で起こる出来事を第三者として観察し、感情面でも組織的な意味でも現場を仕切っている。そんな存在感を期待してペネロープに役を依頼した。配役が見事にはまったよ。

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──ケリー・マクドナルドは?

監督:ジーン・レスリーを演じたケリーは、誰からも愛される女優だね。俳優コミュニティーの中でも、ひときわ評価が高い第一候補だったから、キャスティングできて幸運だった。彼女はスクリーンを輝かせるだけでなく、強さと弱さがバランスよく同居している。本当に素晴らしい演技を披露してくれた。

──どのような映画を目指しましたか?

監督:私が好きなのは、トーンに変化がある映画なんだ。コミュニケーションの方法やムードに幅と奥行きのある脚本に強く惹かれる。そういう映画は予想外のところで笑えたかと思えば、話が急に脱線したりする。映画監督としてそういう作品に刺激を感じる。だから私の映画にはある種の傾向がある。その瞬間の真実を見つけさえすれば、それを観客に伝える方法はおのずと見えてくる。その真実を感じ取り、演じられる俳優を探すんだよ。