博覧強記の高畑勲、その深すぎる音楽性に唸る・前編/ジブリ・アニメを音楽面から見る

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名だたるクリエイターたちの尊敬を集める高畑勲監督
名だたるクリエイターたちの尊敬を集める高畑勲監督

「エンタメの宮崎駿、芸術の高畑勲」の世評

前回はCDボックスセット『スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラBOX』の発売に絡めて宮崎映画の音楽についてあれこれ書き並べたが(音楽から見る宮崎駿作品の魅力・前編&後編)、ジブリ作品の音楽について考える時に実は忘れてはいけないのが、高畑勲監督の存在だ。クラシックをはじめ音楽全般に造詣が深く、自身もピアノを弾いたり作曲をしたりもする。『風の谷のナウシカ』で、当時は無名に近かった久石譲を起用することを強く薦め、『魔女の宅急便』では音楽演出を担当し、『紅の豚』ではキートラックとなるフランスのシャンソン曲「さくらんぼの実る頃」の訳詞を手がけるなど、宮崎作品でも音楽的な貢献は多々見られる。

音楽から見る宮崎駿作品の魅力・前編/久石譲が“ジブリらしさ”の確立に大きく貢献

もともと高畑監督は音楽だけにとどまらず、あらゆる分野における“勉強家”として知られている。美術や映像についてはもちろん、歴史や哲学、建築などにいたるまで、専門家も逃げ出してしまうほどの博覧強記ぶりらしい。興行収入だけを見ると、高畑監督作品は宮崎監督のそれに遠く及ばない。宮崎作品『千と千尋の神隠し』が日本映画空前の300億円超えを達成しているのに対して、高畑作品は最大のヒット作『平成狸合戦ぽんぽこ』でも40億円ほど。それでも宮崎監督が惜しみなくラブコールを贈り続けたり、ひとたび作品を作るとなれば名うてのアニメーターたちがこぞって参加したりと、“ディレークターズ・ディレクター”と言っていいような地位を確立している高畑監督。それはおそらく作品そのもののクオリティに加えて、そういった作り手としてのバックボーンの豊かさに惹かれる同業者が多いからではないだろうか。「エンタメの宮崎、芸術の高畑」という世評は、『ホーホケキョ となりの山田くん』がMoMA(ニューヨーク近代美術館)のパーマネントコレクションに選ばれていることから見ても、決して的外れではないだろう。

そんな高畑監督の音楽への深い知識は、自身の監督作品でももちろん活かされている。たとえば『山田くん』では「メンデルスゾーン:結婚行進曲」「マーラー:交響曲第1番『巨人』」「ショパン:ノクターン」といったクラシック曲の、意表を突いた使い方が鮮烈だった。「こういう風にクラシック曲を使うのって、本当にその道に通じている人じゃないとムリだよなぁ……」と唸らせる選曲の妙。しかも、矢野顕子の書き下ろしも含めたほとんどの劇中曲は、チェコ・フィルハーモニー室内管弦楽団などを起用して贅沢に新録音されている。…後編へ続く(文:伊藤隆剛/ライター)

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