昔々、ハリウッドで……タランティーノがCGに頼らず夢の世界を構築した“おとぎ話”

#ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド#週末シネマ#クエンティン・タランティーノ#ブラッド・ピット#レオナルド・ディカプリオ

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 
来日したクエンティン・タランティーノ監督(左)とレオナルド・ディカプリオ(右)

2大スターの相性がピタリとはまった
【週末シネマ】『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

1969年──今からちょうど50年前のハリウッドの、ある日ある時を描いた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、クエンティン・タランティーノ監督がレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの初共演を実現させ、映画とカウンター・カルチャーをキーワードに時代を描く。70年代を目前に控えた過渡期のハリウッドという場所そのものが主役と言ってもいい。

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来日記者会見でタランティーノは「ここで言うハリウッドとは、映画業界と街の両方を指す」と語ったが、物語はまさに、中年を迎えて落ち目になったスター、リック・ダルトン(ディカプリオ)と彼の専属スタントマン、クリフ・ブース(ピット)のコンビが身を置く映画業界の裏側、リックの隣家に夫ロマン・ポランスキー監督と引っ越してきた新進女優のシャロン・テート、街の外れで共同生活を送っている怪しげな集団「マンソン・ファミリー」がハリウッドで交錯しながら進んでいく。

リックは50年代にブレイクしたTV俳優で、ピークを過ぎた今は映画界への転身を目指しているが、突破口をつかめずにいる。クリフは付き人も兼ねた存在で雑用もこなし、悲観的になりがちなリックを支えている。文字通りの影武者だが、物事に動じず、クールで頼れる存在。この2人の関係が素晴らしく魅力的だ。主従関係ではあるが、互いにとって欠かせない親友同士であり、帰って寝る場所こそ違えど1日の大半を共に過ごす。これを演じるのが 90年代から絶大な人気を保ち続ける2大スターなわけだが、そのケミストリーに驚かされる。全くの互角。相手の演技を殺し合うところが一切ない。演じる2人に、役の設定に勝るとも劣らない相性の良さがある。

無意味にシャツを脱ぐサービス・シーンまであるカッコいいブラピと、悔しがる様が滑稽であると同時に胸を突く悲哀があふれ出るディカプリオ。2人とも得意分野にさらに磨きをかけ、最高の仕事を見せる。架空の存在である2人に、ブルース・リーやスティーヴ・マックイーンなど実在のスターたちやマンソン・ファミリーの女性たちが絡む構成だ。

特に、映画撮影現場でリックと子役の少女の邂逅は印象深い。プロ意識の高さと不安と自己嫌悪が一度に渦巻く葛藤、少女の言葉に心を揺さぶられる姿など、スターのナイーブでデリケートな実態が真に迫る。ディカプリオは会見で、子役時代からハリウッドで過ごし、「そういう場を見てきたし、どういうものかは分かっている」と振り返った。良い俳優は良き観察者というが、その証のような名演だ。

リックとクリフを中心に進む物語の要所要所に姿を見せるのがマーゴット・ロビーが演じるシャロン・テートだ。女優としてブレイクし、愛する夫との第1子誕生間近の幸せの絶頂にいた彼女は、1969年8月9日に自宅で友人知人たちと共にマンソン・ファミリーの凶行の犠牲となった。映画では、その惨劇直前の幸福なシャロンの様子が眩しい。大好きな音楽を聴き、自身の出演映画を見に出かける彼女の表情はひたすら明るく、本物のシャロン・テートがたどった運命を思うと、あまりに切ない。

1969年、タランティーノは6歳で、ロサンゼルスに暮らしていた。子どもだった自分が記憶していたハリウッドをCGに頼らず、可能な限り再現し、大好きな映画を軸に、彼にとっての夢の世界を構築した。「ワンス・アポン・ア・タイム」を邦訳すれば「昔々」。この一言から語り始められるものと同じ、タランティーノらしい与太話やバイオレンスも盛り込んだハリウッドのおとぎ話だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は8月30日より公開。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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