『くちづけ』貫地谷しほり&竹中直人インタビュー

親子役2回目となった2人が究極の親子愛を体現!

#竹中直人#貫地谷しほり

脚本は、コメディだと思って読み始めたんです(貫地谷)

『愛と誠』(12年)など脚本家としても活躍する宅間孝行が主催していた劇団・東京セレソンデラックスの舞台劇を、宅間自身が原作・脚本・出演を兼ねて映画化した『くちづけ』。

知的障害者たちの自立支援のためのグループホームを舞台に、シビアな現実を笑いとたくさんの涙で描いたドラマで、メガホンは『トリック 劇場版』(02年)から『明日の記憶』(06年)までさまざまなヒット作を手がける堤幸彦監督が取っている。

本作でグループホームで働き始める元漫画家の“いっぽん”役を演じた竹中直人と、彼の娘で知的障害を持つマコを演じ、本作で映画初主演を飾った貫地谷しほりが作品について熱く語った。

──宅間さんは実際にあった事件から発想を得て書かれたそうですが、脚本を読んだ第一印象を教えてください。

貫地谷:一言で言って整理し切れなかったです。竹中さんと私の共演で、タイトルも『くちづけ』なものですから、コメディだと思って読み始めたんです。

竹中:純粋なコメディだと思って見に来る人もいるかもしれないね。

貫地谷:出演が私たちですからね。でも、脚本を読み始めると、「あれ、あれ? あらー?」ってだいぶ違ったんで、気が動転しました。

竹中:僕はあまり台本読まないんですよ、パラパラとしか。話の流れを知ってて、ビジョンができあがるのが嫌なんで。

──堤監督とディスカッションはされましたか?

竹中:堤監督はキャスティングしたら、役者に任せるタイプだと思います。テーマ的なことをみんなで模索したりするのは好きじゃないんじゃないかな。日々を重ねるなかでみんなから感じるものをすっと受け止めて撮ってくれているのだと思います。

貫地谷:話し合ったりしなかったですね。何か要望があったほうがよかったんですけど、なにもなかったんで逆に不安でした。

今までも役を理解できたことなんてないし、常に答えはないと思ってる(竹中)
貫地谷しほり

──役づくりも個々に役と向き合っていったという感じですか?

貫地谷:監督と出演者でグループホームに行かせてもらって、みんなで見学はしました。行けば何か答えがみつかるかなと思ったんですが、グループホームにはいろんな方がいてさらに選択肢が広がってしまって、とても悩みました。私は比較的、悩まない方なんですけど、今回は生まれて初めてっていうぐらい悩んだんです。

竹中:僕は深く考えない方なんで。堤監督は小さな役でもたびたび声かけてくれて嬉しいなぁ、ぐらいで。しほりちゃんとは『僕たちのワンダフルデイズ』でも親子役をしたことがあるし、楽しくやれそうだなぁ、なんて。なんだか、ごめんね。(笑)

貫地谷:いえ、私も楽しかったです! でも、撮影入るまですごく悩んじゃって。施設で働いている方に、これまで知的障害を扱った作品を見たところ違和感を感じていい気持ちがしなかったというお話を聞いたので、私はとにかく知的障害者の方や関わる人たちにウソをつかない芝居をしたいと強く思いました。

──では実際に撮影に入られていかがでしたか?

竹中:感動しましたね。舞台の映画化なので、東映の撮影所に立派なセットを一から作って、そしてそれが1本の映画となっていって。贅沢な時間ですよね。舞台劇をそのまま撮っているわけだから、1シーンが長くてしかも1シーン1カットで撮るんですよ。

貫地谷:脚本20ページ分を一気に撮るんです。一気なんですよ、一気! まあ、大変でした。ただ、最初の撮影が竹中さんとのシーンで、“いっぽん”の愛情をすごく感じることができたんです。この2人はほんとにラブラブな親子なんだなぁと実感しました。

竹中直人

──撮影現場に入って役をつかめたという感じですか?

貫地谷:そういう手応えはなかったですね。撮影が進んでいくのが不安で、堤さんに聞いたら「大丈夫!」って(笑)。撮影が始まったらやるしかないし、マコ役に私を選んでいただけたというだけで、監督を信頼してやっていかなきゃって思いました。

竹中:僕は今までも役を理解できたことなんてないし、常に答えはないと思ってる。ただ芝居をするだけ。それに、セットのなかでたくさんの役者さんが動き回ってるわけだから、お互いに影響を受けていろんな役者さんに動かされてるっていうのもある。

貫地谷:私はクライマックスの竹中さんとのシーンで、自分の演技は全然予想してなかったところから出てきた演技だったので、自分で驚きました。どうしても“いっぽん”目線の感情に引き込まれそうになって、感情が溢れ出ようとしてきて、でも、マコ自身はただ幸せなハズだからダメダメって堪えて。でも、竹中さんと見つめあってるだけで感情が溢れ出しそうで。撮影って1回で済むものではないので、カットがかかる度に号泣しちゃって。もう一度、気持ちを落ち着けて、また見つめあって……その繰り返し。あの集中力と緊張感ってただものじゃなかったです。役者さんってこうやって集中してるのかって思いました。すっごく辛かった。

初主演という部分はプラスアルファという感じです(貫地谷)
──確かに非常に感情を揺さぶられましたし、考えさせられるシーンでした。

貫地谷:“いっぽん”のセリフに、「そういう(知的障害を持つ)子たちが普通に生きられる世の中にすべきなんじゃないのか!」ってあるんだけど、それがこの作品のメッセージになっていると思います。

竹中:僕がいうと説教くさく聞こえないでしょ。なかなかいい役者だね(笑)。

貫地谷:すごくステキでした。

竹中直人(左)と貫地谷しほり(右)

──貫地谷さんは初の主演映画で役者としてそれだけ大きな経験をされたというのも感無量では?

貫地谷:初主演という部分はプラスアルファという感じです。堤さんは私にとって特別な存在で、初めてドラマに呼んでくれたのも堤さんだし、いろんな節目で使ってくれて、今回の初主演作も堤さんの作品だったのはとてもありがたいです。

──完成した作品を見ていかがでしたか?

竹中:最初に感じたのは堤監督の思いですね。本当にこの作品を愛しているんだな、と。あれだけのセットを建てて2週間で5台のカメラを駆使して撮って、舞台劇なのにちゃんと映画になっているのが圧倒的にすごい!

貫地谷:本当にいい映画だな、と思いました。あの期間、みんなで汗流して作ったものを見てもらわないことには始まらないし、私としても終われないです。ぜひ、多くの人に見てもらいたいですね。

(text&photo=入江奈々)

竹中直人
竹中直人
たけなか・なおと

1956年3月20日生まれ、神奈川県出身。83年に『ザ・テレビ演芸』でデビュー。俳優や映画監督、ミュージシャンなど幅広く活動。91年に『無能の人』で映画監督デビューを果たすと、ベネチア国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞する。俳優としては、『シコふんじゃった』(92年)、『EAST MEETS WEST』(95年)、『Shall we ダンス?』(96年)で日本アカデミー賞・最優秀助演男優賞受賞や、96年には大河ドラマ『秀吉』で主演を務めるなど、国民的俳優として活躍している。

貫地谷しほり
貫地谷しほり
かんじや・しほり

1985年12月12日生まれ、東京都出身。2002年映画デビュー。04年の映画『スウィングガールズ』で注目を集める。07年NHK連続テレビ小説『ちりとてちん』で初主演を務め、13年の初主演映画『くちづけ』では第56回ブルーリボン賞最優秀主演女優賞を受賞。主な映画出演作に『望郷』(17年)、『この道』(19年)、『アイネクライネナハトムジーク』(19年)、『夕陽のあと』(19年)、『総理の夫』(21年)などがある。主なテレビ出演作に『テセウスの船』(20年)、『ディア・ペイシェント〜絆のカルテ〜』(20年)などがある。

貫地谷しほり
くちづけ
2013年5月25日より新宿バルト9ほかにて全国公開
[監督]堤幸彦
[原作・脚本]宅間孝行
[出演]貫地谷しほり、竹中直人、宅間孝行、田畑智子、橋本愛、麻生祐未、平田満、嶋田久作、岡本麗、宮根誠司、伊藤高史、谷川巧、屋良学、尾畑美依奈、万田祐介
[DATA]2013年/日本/東映

(C) 2013「くちづけ」製作委員会