三浦友和

男の弱さやズルさ、そして妻への愛情を飄々と演じ新たな魅力を披露

 

三浦友和『死にゆく妻との旅路』インタビュー

三浦友和『死にゆく妻との旅路』インタビュー

 

結婚が甘いものだとは、誰も思っていないはず

  • 末期ガンの妻をワゴン車に乗せ、9ヵ月もの間、日本各地を当て所もなくさすらった夫──1999年12月に保護責任者遺棄致死の罪で逮捕された男の手記を基にした映画『死にゆく妻との旅路』が、2月26日より全国公開される。

    確たる決意があっての旅立ちではなく、借金から逃げた結果、悲しい結末へと辿りついた夫婦。浮気もし、多くの欠点を持ったどこにでもいそうな夫を三浦友和が、その夫を慕う健気な妻を石田ゆり子が演じている。

    熟年の夫婦が過酷な状況のなかで互いの愛情を深め、かけがえのない存在になっていく過程が胸を打つ本作について、三浦友和に話を聞いた。

    ・[動画]三浦友和インタビュー

  •  
  • ──夫婦のあり方や命の意味、罪とは何かなどいろいろなことを考えさせられる作品ですが、監督からはどんな演出を受けたのでしょうか?
  • 三浦:監督とは色々と話し合い、クランクインするまでに相当な時間を割きました。なので、クランクインしてからはその話し合いに沿って撮影しただけで、特別に何かはしませんでした。
  •  
  • ──具体的にどんなことを話し合ったのでしょうか?
  • 三浦:話し合いは監督と2人だったり石田(ゆり子)さんも交えてだったりいろいろですが、「この映画は何が主題なんだろう」っていうことをいつも話し合っていました。でも結論は出ないんですよ。で、「結論はないよね」っていうことに落ち着きました。
  •  
  • ──撮影中は、どんなことを考えながら演技していたのでしょうか?
  • 三浦:この映画は、ドキュメンタリーのようでもある作品です。現実に作者の清水さんはお元気で、多分、この映画もご覧になるわけで、そのときに「こんなことはない」と思われるといけないな、と。 ただ、どうしたらいいのかは分からなかったのですが、「こういう人だったに違いない」とムリに決めつけたり、へんな役作りをしないようにしました。なるべく嘘がないように、狭いクルマのなかで石田さんと流れに身をまかせていれば“何か”が生まれてくるんじゃないかと思いながら撮影していました。
  •  
  • ──石田ゆり子さんがすばらしかったです。初共演だそうですが、共演した感想は?
  • 三浦:彼女の持つ透明感みたいなものがすごく良かったですね。現実的に見ると「あんなにきれいに死んでいくわけがないだろう」と思ったりもするんですけど、それが映画なんですよね。そういう虚構を成立させる女優さんです。
  •  
  • ──石田さんは未婚ですが、既婚者の三浦さんから「結婚はそんなに甘くない」と言われたとお話しされてましたが。
  • 三浦:(笑)。結婚が甘いものだとは、誰も思ってないんじゃないですか? 恋愛中のラブラブ状態でずっといければいいんですけど、それは無理ですよね。ただ、結婚生活を続けているといろいろな問題が出てくるものなので、それを経験していくうちに違った絆が生まれて愛情が深まり、新婚時のラブラブ状態よりもっと深い夫婦関係になっていくのがベストですよね。
  •  
  • ──映画のなかの2人は結婚してから20数年を経ていて、最初は確かにラブラブな感じではありませんね。
  • 三浦:清水さん(夫)は「ああ、こういう人いるよね」って誰もが思うようなごく普通の人。事業がうまく行っていれば浮気もするし、借金を抱えれば逃げちゃうし、人がいいから保証人にもなったり。そういう人が、放浪生活のなかで妻と濃密な関係を築いていく。末期ガンの妻をすごく愛おしいと思う瞬間もあるだろうし、憎しみの対象になるときもあるだろうし。複雑に絡み合っていく9ヵ月間だったはずなんですよね。
  •  
  • ──三浦さんは、一歩一歩、着実にキャリアを積み重ねている俳優さんというイメージがありますが、俳優という仕事に対してはどんな思いを抱いていますか?
  • 三浦:歳と共に面白くなってきましたね。
  •  
  • ──昔は面白くなかった?
  • 三浦:面白さがわからなかったり方向性が見えなかったり、そういうときもありました。でも、50歳を過ぎてきた頃に、「この仕事、面白い」と思えるようになりました。
  •  
  • ──何かきっかけがあったんですか?
  • 三浦:具体的にはありませんね。ただ、色々な役を演じるうちに、ああ、こんな役のオファーも来るんだと思ったり(笑)。で、演じてみると、また違った面白さがあったりしますよね。
  •  
  • ──辛さや困難を感じたときは、どう対処してきたのですか?
  • 三浦:まず悩まない。悩む性格じゃないですし。それと、ほかにやる仕事もないんですよ(笑)。逃げること、つまり俳優を辞めることはできるけれど、「じゃあ、どうやって生きていくの?」と言われたときに、何もないんです。本当に(笑)。この仕事に相当愛着を持っているということかもしれませんね。冷静に考えると「この仕事、好きだよね」って思うので、それが俳優を続けてこられた理由でしょうか。
  •  
  • ──そもそも、俳優をしようと思った理由は?
  • 三浦:この仕事を望んでいる人には失礼な話なのですが、本当に偶然なんです。「レギュラーが決まったから」と言われて始めたのですが、最初の1、2年はヤル気もなくて。普通、テレビのレギュラーって大変ですからね。そこに運良く放り込まれたのに、ありがたさを感じない人間だったんです。失礼な俳優だったんです。いや、本当に(笑)。だから途中でね、「あぁ、イカンな、と」
  •  
  • ──俳優でやっていこうと肚(はら)を決めたのはいつ頃ですか?
  • 三浦:うちの奥さんと最初に共演した映画『伊豆の踊子』のときです。テレビの撮影現場って“お客さん”がいないので、それまでお客さんを意識していなかったんです。でも『伊豆の踊子』のときに一般試写の会場に行って、そこで映画を見るハメになっちゃって(笑)。イヤだったんですけど、超満員のなかで2階席から見たんです。そのときですね、「あ、お客さんがいるんだ」と責任感を感じたのは。ヘタなことはできないな、と。自分の顔を大画面で見たことも大きいですね(笑)。
  •  
  • ──大画面でご自分を見るのはどんな気持ちですか?
  • 三浦:恥ずかしいですよ(笑)。今もそうです。だから、出来たての映画の感想を聞かれても、何も答えられない。恥ずかしさのほうが先に立つので。冷静に映画を見れないんですよね。ストーリーを感じていないし、自分のあら探ししかできない。
  •  
  • ──この『死にゆく〜』も同じですか?
  • 三浦:そうですね。
  •  
  • ──何年くらい経つと冷静に見ることができるんですか?
  • 三浦:10年くらいかな。昔の出演作を偶然、テレビで見て「うわぁ〜、すごい映画だな」って思うときがあります(笑)。
  •  
  • ──最近、“名作”を実感したのはどの作品ですか?
  • 三浦:『台風クラブ』です。「こんな名作に出てたんだ!」って。当時は何も分からなかったのですが……。
  •  
  • ──何がご趣味なんですか?
  • 三浦:まだ10年ちょっとなのですが、陶芸をやっています。
  •  
  • ──どんなタイプの陶芸ですか? またご家族の感想は?
  • 三浦:備前焼とか信楽焼みたいな感じのものです。家族の感想は、「国宝がいっぱいあるね」とか「また国宝作ってるの?」って(笑)。
  •  
  • ──日々の食卓で使ってくれたりしますか?
  • 三浦:少しありますね。
  •  
  • (2011/2/25)
  •  

三浦友和『死にゆく妻との旅路』インタビュー

みうら・ともかず
1952年1月28日、山梨県に生まれる。74年の『伊豆の踊子』で映画デビュー。日本国内のみならず、中華圏でも人気を博す。99年に『M/OTHER』で新境地を開拓。主な出演映画は『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)『沈まぬ太陽』(09)など。

動画マーク

三浦友和『死にゆく妻との旅路』インタビュー三浦友和『死にゆく妻との旅路』インタビュー

三浦友和『死にゆく妻との旅路』インタビュー


v
『死にゆく妻との旅路』
2011年2月26日よりヒューマントラストシネマほかにて全国公開(2月19日より石川、富山にて先行公開)
(C) 2011「死にゆく妻との旅路」製作委員会

作品紹介ページへ