「五輪終わっていない」強制排斥させられた人々の苦悩と悲しみの連鎖続く

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東京オリンピック2017
左から元住民の甚野公平さん、青山真也監督

8月14日、都内で映画『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』の上映前舞台あいさつが行われ、監督・撮影・編集を務めた青山真也監督と元住民の甚野公平さんが登壇。閉幕した東京オリンピックの裏で苦しむ人々の思いを語った。

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青山監督「住居を追われてしまった方々の引っ越しの様子がとてもとても悲しい“オリンピックへの参加”のように見えてきた」

明治神宮外苑にある国立競技場に隣接した都営霞ヶ丘アパートは、10棟からなる都営住宅。1964年のオリンピック開発の一環で建てられ、東京2020オリンピックに伴う再開発により2016年から2017年にかけて取り壊された。本ドキュメンタリーは、オリンピックに翻弄されたアパートの住民と、五輪によって繰り返される排除の歴史を追った。

本作のタイトル『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』に込めた思いに関して、青山監督は「オリンピックは“参加するもの”、“参加することに意義がある”、と“参加”みたいなキーワードと結びつきがあると思うんですけれど、甚野さんを始め、住居を追われてしまった方々の引っ越しの様子がとてもとても悲しい“オリンピックへの参加”のように見えてくる場面が多かったので、まず“オリンピック”と名付けたかったんです。2017というのは、霞ヶ丘アパートが解体された年になります。“東京オリンピックの霞ヶ丘アパートの会場”と名付けると、色々気づきもあるのではないかと思ってこのタイトルをつけました」と説明。

青山監督は、オリンピックが終わった今、どういう思いか聞かれて「このコロナの感染者数でパラリンピックを開催するのだろうかという強い疑問と不安があります。“オリンピックが終わった”と言われて納得がいかない。名古屋入管でスリランカ人の女性が亡くなったニュースが最近報道されていますが、オリンピックを契機に、オリンピックを開催するために、日本の安心安全を守るために、外国人の取り締まりや入管施設の取り締まり強化が行われた結果、スリランカ人の女性が亡くなったと私は見ています。ですので、“オリンピックは終わっていない”と思っていますし、入管施設の取り締まりも改善されるべきだと思っています」と新たな課題に言及した。

2度の立ち退き経験した甚野さん、今回は「不愉快でした。納得いきませんでした」

甚野さんは、1964年の東京オリンピックの再開発で立ち退きを要求されて、このアパートに移り住み、今回のオリンピックで再び立ち退きに遭った。「二度の立ち退き。率直な話、もっときつく言いますと、“強制立ち退き”。そんな風に今回は感じました。というのも、最初のオリンピックの時は、丁寧な挨拶がありました。知事から手紙が来たりしました。ところが今回は、間近になってから、“オリンピックだからどいてくれよ”という感じで、私どもへの連絡があったので、二度を通じて考えてみますと、今回のオリンピックは、なんとおそまつな手順で進めてくれたんだ、我々に対する理解する気持ちが何も感じられなかったな、という風に感じるオリンピックでした」と総括。

「1964年のオリンピックの時は、日本も復興期という雰囲気だった。『これから日本、東京、焼け跡に残った我々もこれから幸せになる。立ち上がるのには協力が何よりも必要だ。喜んで協力しよう。成功してほしい』という気持ちで、最初のオリンピックを迎えました。ゆとりを持って私どもに接してくださっていました。直接関係ある役所の方も、我々に対する配慮、思いやりの気持ちを持って接してきてくれたなと十分に感じられました。何の苦痛も感じませんでした。今回の取り壊しの話が出た時は『なんだ、我々何もそういうこと知らないよ。居住者は困るじゃないか。ここに来てやっと落ち着いたばかりなのに、またどかなくちゃいけないのか。なんでまたオリンピックをやらなくてはいけないんだ』という気持ちでおりました。今回のオリンピックについては、快く迎えることはできませんでした。不愉快でした。納得いきませんでした」と率直な思いを語った。

青山監督は、本作のどういう点に注目して見てもらいたいか聞かれて「住んでいる方々の生活を撮影させていただいた映画ですので、生活風景をしっかり見ていただければと思います」と話し、受付で販売しているパンフレットについて、「130ページ以上のボリュームになりました。すばらしい寄稿でした。立ち退きをお願いするために霞ヶ丘アパートに届いた資料もふんだんに入っています。64年の時のオリンピックの立ち退きの際に東京都から送られてきた資料もあります」と説明した。

甚野さんより、この映画を通して「オリンピックをやるということは確かに平和の大切な行事の一つだと思います。しかし、それを行うことによって、その陰で悩み、悲しみ、辛い思いをしている者がいるということも気がついてほしいと思います」とメッセージが送られ、舞台挨拶は終了した。