トム・クルーズの『M:I』愛が注ぎ込まれた『ファイナル・レコニング』、スパイ映画の醍醐味も

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『ファイナル・レコニング』
『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』
(C)2024 PARAMOUNT PICTURES.
『ファイナル・レコニング』
『ファイナル・レコニング』

イーサン・ハントの最後の戦いを描くシリーズ8作目

【週末シネマ】1996年以来、トム・クルーズが主演・製作を務め、時代とともに進化してきた『ミッション:インポッシブル』シリーズ。『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』は第8作にして、壮大なフィナーレとなる作品だ。第5作『~ローグ・ネーション』(2015年)以来、シリーズの監督を務めたクルーズの盟友、クリストファー・マッカリーが手がける本作は、前作『~デッド・レコニング PART ONE』から続いて、AI兵器「エンティティ」が世界に及ぼす脅威に立ち向かうIMFエージェント、イーサン・ハントの最後の戦いを描く。

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前作のエンディングから2ヵ月後という設定だが、長年続いたシリーズの集大成という趣も強い。過去作へのオマージュもふんだんに盛り込まれ、息の合ったチームプレイに加えてイーサンの単独行動も多く、その孤高さはブライアン・デ・パルマ監督の第1作『ミッション:インポッシブル』(1996年)を想起させ、スパイ・サスペンスという原点への回帰の印象も受ける。

トムが自ら挑むアクションも満載

もちろん、クルーズ自ら挑む規格外のアクションも満載だ。潜水艦内の無言シークエンスやプロペラ機を使ったクライマックスの空中戦など、ストイックなアクション・シーンの数々にはクルーズが追求し続ける実写によるリアリティがあふれ、シリーズのフィナーレにふさわしいスペクタクルだ。

敵となるのは、エンティティを手中に収めて世界支配を目論むガブリエル(イーサイ・モラレス)。過去に因縁のある宿敵との攻防は、深海から陸、空を舞台に繰り広げられる。

予告編にあるイーサンの「人生は全ての選択の結果だ」というセリフはまさに象徴的で、シリーズ全作を見続けてきた観客にとっては、「あの時の!」と感慨に浸る伏線回収のサプライズもある。

ルーサー(ヴィング・レイムス)、ベンジー(サイモン・ペッグ)という頼れる仲間たちとの連携、前作から加わったグレース(ヘイリー・アトウェル)とパリス(ポム・クレメンティフ)の台頭、アンジェラ・バセットやハンナ・ワディンガムをはじめとする強い女性たち、ホルト・マッキャラニーやマーク・ゲイディスといった性格俳優も揃い、多彩な人間模様が織りなすドラマ部分も充実している。

現実社会が抱える不穏な空気とリンク

上映時間2時間49分を費やしてなお、ストーリーは複雑だ。シリーズ後半で顕著だった軽妙なユーモアや遊び心は控えめで、シリアスなトーンが勝る分、スパイ映画の醍醐味が濃い。核兵器、そしてAIによるフェイクニュースや洗脳がもたらす脅威は現実の社会が抱える不穏な空気とリンクし、はっきりとしたメッセージを打ち出しているのも本作の特徴だ。

30代から手掛けてきた主演シリーズへの愛

現在62歳のクルーズにとって、30代前半で初めてプロデューサーも務めた主演シリーズの収束には万感の思いがあるのだろう。常に観客第一で、サービス過剰なほど楽しませてくれるクルーズだが、今回ばかりは本人の思い入れを真正面から注ぎ込んだ感がある。これまでとは違うものを見せたいという気概。その選択が結果的に長年のファンを喜ばせるというサービス精神に繋がっているのは、さすがだ。

アイドルからスタートし、『トップガン』で誰もが認める映画スターになるまでが第1章、さらにそれを超えた“トム・クルーズ”という存在になった第2章が今、結実しようとしている。新たな章の始まりを予感させる。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』は、全国公開中。