落語家・瀧川鯉八、出演作『土を喰らう十二ヵ月』に寄せて

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土を喰らう十二ヵ月
(C) 2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会
土を喰らう十二ヵ月
土を喰らう十二ヵ月(瀧川鯉八)

沢田研二主演の新作映画『土を喰らう十二ヵ月』にて、写真屋を演じている落語家の瀧川鯉八。公開を前に、ムビコレにコラムを寄せてくれた。

『土を喰らう十二ヵ月』

瀧川鯉八。41歳。厄年。

厄年とはよく言ったもので、ぎっくり腰になったり。尿管結石になったり。爪水虫になったり。
左手の親指の端が黒ずんでいたので調べてみたら水虫で。原因は、不潔にしたためだと書いてありました。
厄年は関係ありませんでした。

【鯉八の映画でもみるか。】『土を喰らう十二ヵ月』でも見るか

薬で治さずに、爪楊枝でホジホジして黒ずみを取っています。でも汚れではないので取れません。
人に爪の黒ずみを指摘されたときは、

「畑やってるんです」

と嘘をついてます。
実際は爪水虫です。
爪水虫の男が作る野菜を誰が喜ぶのでしょう。
でも実際は野菜作ってないので安心です。

『土を喰らう十二ヵ月』

『土を喰らう十二ヵ月』場面写真

故郷の鹿児島で同級生が農業をやってまして、帰省したときにジャガイモの収穫のお手伝いをさせてもらいました。
作業を始めて5分で腰が痛くなりました。
農業というのは基本中腰です。
10分経ったあたりでギブアップしました。
同級生はゲラゲラ笑ってました。
無理しなくていいよって。

その日は農業フェスという歩行者天国で、軽トラックに積んだキャベツ80個を直売するお手伝いもしました。
都会のスーパーにあるものより大ぶりのキャベツを1個50円で販売。
飛ぶように売れて30分で完売。
大きな声で売ってくれたから売り切ることができたよありがとうありがとうと声を掛けてくれました。

ぼくは何にもしていないのです。
キャベツが50円だから売り切れたのです。
80個だから4000円の現金収入。
あんなに立派なキャベツが4000円なのです。
ジャガイモだって何の役にも立てなかったのです。
足手まといだったのです。
でも同級生は嫌な顔ひとつしなかった。

たった1日の農業体験で彼らの暮らしの何が分かるというのでしょう。
農業で生きるというのはどういうことなのでしょう。
1個50円のキャベツ。
これをまた来年も作る。
ずっと継続して作っていく。
泊まっていけという同級生の家で、風呂に入って、ビールを呑んで、コタツの中で横になり、ストーブの上でコトコト火にかけられている煮物の鍋を眺めながら、
分かったふうな顔をして生きてはいけないのだ、傲慢になってはいけないのだ、と思ったのです。

彼の顔は同級生とは思えないほど、黒く皺が深い。
笑うと余計に皺が深くなる。
食べて、呑んで、よく寝て。
また次の日畑に行くのです。
彼はおそらく死ぬまでその作業を続けるのです。
軽はずみな気持ちで手伝いたいと言うのは、実はとっても失礼なことなことだと思ったのです。

東京に帰ってきてから、ジャガイモと里芋と白菜とキャベツがたくさん送られてきました。
お鍋にして美味しく頂戴しました。
いつもより丁寧に心を込めて「いただきます」と合わせてた左手の親指に爪水虫がありました。
次の日、病院へ行き薬をもらいました。

映画『土を喰らう十二ヵ月』は11月11日全国公開です。
監督 中江裕司。
主演 沢田研二。
料理監修 土井善晴。

劇場で大切な人を想ってご覧いただければ幸いです。

土を喰らう十二ヵ月(瀧川鯉八)

写真屋を演じる瀧川鯉八

<プロフィール>
瀧川鯉八(たきがわ・こいはち)
落語家。2006年瀧川鯉昇に入門。2010年8月二ツ目昇進、2020年5月真打昇進。落語芸術協会若手ユニット「成金」、創作話芸ユニット「ソーゾーシー」所属。2011年・15年NHK新人落語大賞ファイナリスト。第1回・第3回・第4回渋谷らくご大賞。映画監督アキ・カウリスマキが好きで、フィンランドでロケ地巡りをした経験も。