【週末シネマ】軽妙で真面目で優しい、人生の機微を描いたチャーミングなラブコメディ

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『ジゴロ・イン・ニューヨーク』
(C) 2013 Zuzu Licensing, LLC. All rights reserved
『ジゴロ・イン・ニューヨーク』
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『ジゴロ・イン・ニューヨーク』

美男でもなければ若くもない、くたびれたオヤジ2人が金持ち女性を相手にジゴロ稼業に乗り出す。演じるのはウディ・アレンとジョン・タトゥーロ。白髪の小男とごま塩頭のノッポという絵面も様になる『ジゴロ・イン・ニューヨーク』は、タトゥーロが監督・脚本もつとめる大人のラブコメディだ。

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商才がなく、三代続いた希少本専門の本屋をつぶしてしまったマレー(アレン)は、かかりつけの女医(シャロン・ストーン)から、彼女とレズビアンのパートナーと3人で楽しむための男性はいないかと相談される。反射的に「いるけど、1000ドルかかるよ」と答えたマレーの頭に浮かんだのは、定職もなく数日前から花屋で働き始めたばかりの友人・フィオラヴァンテ(タトゥーロ)だ。マレーより少しは若いが、男前ではない。だが、なぜかモテる男という設定だ。もっとも本人には自覚はなく、マレーが必死でおだてあげ、女医とのお試しセッションをお膳立てする。マレーの見立てに狂いはなく、フィオラヴァンテは天賦の才を発揮、多額のチップもゲットして2人のジゴロ・ビジネスは好スタートを切った。

花を扱う繊細な手つきに色気がある。緩急の勘所を押さえた接し方で、怖いものなど何もなさそうな高飛車な女を夢見心地にさせる。スーツを着て土産の花を持つフィオラヴァンテがだんだんいい男に見えてくる。ポン引きの才能を開花させたマレーもいきいきし始める。ウィットに富んだ会話とニューヨークの日常がテンポよく描かれていく。本家というか、ウディ・アレンほど神経症っぽくなく、もっとリラックスしていて庶民的なトーンだ。

そんなある日、フィオラヴァンテが新規の客・厳格なユダヤ教徒の未亡人・アヴィガルと出会ったことから、順風満帆だった彼らに転機が訪れる。高名なラビだった夫亡き後、ずっと喪に服しているアヴィガルを演じるのはヴァネッサ・パラディ。かつてジョニー・デップをメロメロにさせ、2児をもうけたフレンチ・ロリータの片鱗も見えない、色香を封印した地味な姿で登場。厳しい戒律を守りつつ、フィオラヴァンテの優しさに心を揺らせて涙する寂しい女の有り様、自分からは行動を起こさない(起こせない)面倒くさくも思える態度の表現も見事。彼女の暮らしぶりから垣間見る、知っているようで知らないユダヤ教コミュニティの様子も興味深い。

人と人の間に生まれる愛情は普遍だが、個々の背景はさまざまで、それを互いに受け入れていくのが大人の生き方。白と黒があり、その間に果てしなく広がるグレーゾーンを見つめる。軽妙で、ところどころ真面目、そして何より優しい。大人ならではの人生の機微が満載のチャーミングな一作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ジゴロ・イン・ニューヨーク』は7月11日より公開される。

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