『攻殻機動隊ARISE』を引き立てるショーン・レノンの歌声、コーネリアスの音楽

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『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』メインビジュアル
(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会
『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』メインビジュアル
(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会
『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』メインビジュアル
(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会
『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』
(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会
昨年11月に発売されたサウンドトラックCD『攻殻機動隊ARISE O.S.T.』。『border:1 』『border:2 』のエンディングテーマなど、全19曲を収録

いまや日本では、“あのジョン・レノンの息子”ではなくて、“CMで「ディス・イズ・サイコーニ・チョウドイイ・ホンダ」と言ってる人”と説明した方が早い(ような気がする)ショーン・レノン。個人的には彼がこれまで作ってきた繊細で折り目正しいソロアルバムはどれも大好きだし、お母さんの率いるヨーコ・オノ・プラスティック・オノ・バンドでのプロデュースワークや、自身がオーナーをつとめるレーベル=キメラ・ミュージックでの目利きぶりからも目が離せないでいたりするけれど、一方でそれがメインストリームにおいて大きな支持を得るタイプの音楽でないことも理解できる。どこまでも控え目で、ロック的なダイナミズムとは無縁のその作風は、彼にビートルズ的/ジョン・レノン的な何かを重ね合わせようとすればするほど、退屈なものと感じられてしまうだろう。

[動画]『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』予告編

そんなショーンが、6月28日に上映スタートする『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』のエンディングテーマ「Heart Grenade」を歌っている。作詞とヴォーカルはショーン本人、作曲と編曲は劇中音楽すべてを担当しているコーネリアス=小山田圭吾によるもので、名義は「ショーン レノン コーネリアス」。ショーンのソロ作品ではないものの、これが彼のキャラクターに合った、じわじわと沁み入ってくるタイプの曲で、かなりいいのだ。ふたりは共にプラスティック・オノ・バンドの現メンバーであり、以前から親交も深い。近況を語り合う中でショーンが『攻殻機動隊』のファンだと知り、「じゃあ歌ってよ」と小山田圭吾から直接オファーしたという。映画の公開に先立ってミュージックビデオが公開されたのだが、男女の義手が互いを求めてホログラムを使いながらコミュニケーションするというもので、映画のストーリーにもシンクロする秀逸な仕上がりになっている。

黄瀬和哉監督による『攻殻機動隊ARISE』は全4作で構成され、この『border:3 Ghorst Tears』はシリーズ3作目にあたる(1作目『border:1 Ghorst Pain』は昨年6月に、2作目『border:2 Ghorst Whispers』は11月にそれぞれ公開済み)。士郎正宗の原作漫画を起点に、これまで映画やテレビシリーズ、OVAなどさまざまな作品が発表されてきた『攻殻』だが、今回のシリーズは“第4の攻殻”と呼ばれ、1989年の原作、1995年の押井守監督『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』、2002年の神山健治監督『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』に続く作品という位置付けになっている。

『攻殻機動隊』の音楽と言えばアニソン界の大御所、菅野よう子を連想する人が多いかもしれない。しかしこの『ARISE』では監督以下主要スタッフが刷新され、音楽は先に触れたようにコーネリアスが全面的に担当することに。当サイトをご覧の映画ファンには馴染みの薄いアーティストかもしれないが、これまで国内外で5枚のオリジナルアルバムをリリースしているほか、プロデュースやリミックス、それにギタリストとしてのセッションやライヴへの参加など、多方面で活躍している。最近ではスマートフォンINFOBAR A02のサウンドデザインや、NHKの子ども向け教育番組『デザインあ』の音楽が話題になったりもした。映画のサウンドトラックは意外にも本作が初めてで、音源は昨年11月に『攻殻機動隊ARISE O.S.T.』としてまとめられている。

『攻殻機動隊ARISE』の音楽は、シンセサイザーによるシンプルなフレーズや打ち込みのリズムをベースとしたものが多く、派手なオーケストレーションや印象的なメロディが鳴らされるわけではない。むしろ、映像を引き立てることに徹した匿名性の高いBGMという感じだ。しかしそのマルチチャンネルを駆使したサウンドデザインには、はっきりとした“コーネリアスらしさ”が打ち出されている。2001年の『POINT』と2006年の『SENSUOUS』という2枚のアルバムで、コーネリアスはアルバムをまるごと映像化&5.1chサラウンド化したDVD作品をリリースしているが(それぞれ『FIVE POINT ONE』『SENSURROUND』として発売中)、そこでのアプローチが本作にも活かされている。5.1chサラウンドの環境が整った劇場やホームシアターで本作を体験すれば、楽曲を構成するフレーズが一音一音にいたるまで細分化され、5本のスピーカー(と1本のサブウーファー)に丁寧に振り分けられていることが分かるはずだ。

“『攻殻』史上初のラブストーリー”という触れ込みの『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghorst Tears』だが、物語全体のトーンはこれまでの『攻殻』と同様にシリアスで緊張感に満ちている。しかしラストで静かに「Heart Grenade」が流れ出すことで、本作の“観後感”は一気に柔らかなものへと転調する。小山田圭吾も「今回はラブストーリーですから、ショーンのスウィートな歌声が(作品と)マッチしていると思います」とコメントしているように、本作の締め括りとしてショーンの歌声が果たす役割はとても大きい。

なお、「Heart Grenade」のミュージックビデオや先述のDVD作品を含め、コーネリアスの映像作品のほとんどを手がけているのは、映像作家の辻川幸一郎。『攻殻機動隊ARISE』×コーネリアスのスペシャルサイト「GHOST IN THE SHELL ARISE MUSIC BY CORNELIUS」(http://cornelius-kokakua-sound.com)では、彼のディレクションによるシリーズ全体のテーマ曲「OPENING THEME “GHOST IN THE SHELL ARISE”」や公開済みの2作品のエンディングテーマ──『border:1 Ghorst Pain』の「じぶんがいない」(salyu × salyu)と『border:2 Ghorst Whispers』の「外は戦場だよ」(青葉市子 コーネリアス)、そして「Heart Grenade」などのミュージックビデオを見ることができる。『攻殻』の世界観と密接にリンクしながら圧倒的な独自性を放つそれらの映像作品は、どれも単なるミュージックビデオの枠を超えたクォリティに達している。映画のサブテキストとして、ぜひともご覧いただきたい。(文:伊藤隆剛/ライター)

『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』は6月28日より2週間限定上映される。

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