合理性を優先、心の痛みへの想像力欠く社会を痛烈批判…「未来を守りたいから」の美辞麗句に苦笑
高齢者が自死を選ぶ制度<PLAN75>加入促進映像
75歳以上の高齢者が自死を選ぶ権利を保障・支援する社会を描いた映画『PLAN 75』が6月17日より公開される。このたび、その制度への加入を促す衝撃のCM動画全編が公開された。
公開されたCMは、検診を待つミチ(倍賞千恵子)の背景のモニターで流れているもので、実は劇中でも全編は見ることができない貴重なもの。無垢な乳児の映像の後に、「未来を守りたいから」とのキャッチコピーと共に<プラン 75>の利用を決めた女性のインタビューが続く。
「人間は生まれてくるときは選べないから、死ぬ時くらいは自分で選べたらいいだろうなと思って。自分で死に方を決めることができたら安心だなと思って、なんの迷いもなかったです」
75歳以上は誰でも無料で利用できる<プラン 75>。遺言信託、生前整理、葬儀/お墓の手配、死後手続き、心のケアまで、一人一人に寄り添った手厚い“終活”サポートが受けられるという美辞麗句が流れ、24時間365日の電話でのサポートにも対応可能と謳う内容は、まるで現実のものかと錯覚させるようなリアリティにあふれている。
「あなたの最期をお手伝い」というナレーションに続いて、笑顔をモチーフにしたロゴマークで締め括られるCMは希望に満ちあふれるようにも思えるが……。
<プラン 75>が浸透した社会では、この後期高齢集団検診で流されたCM映像以外にも、公園での炊き出しブースの隣に<プラン 75>の加入ブースが設置されその場で申し込みができるなど、75歳以上が容易に生死の選択ができるような導線が社会に張り巡らされている。
社会的弱者に向けられるあたたかい視線。「生きるとは何か?」を問う
本作品が第75回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション「ある視点」部門でカメラドール特別表彰に輝いたのはご承知の通り。
早川千絵監督が「経済的合理性を優先し、人の痛みへの想像力を欠く昨今の社会に対する憤りに突き動かされて生まれた映画です。倍賞千恵子さん演じるミチという女性の姿を通して、人が生きることを全肯定する。そんな映画にしたい」と、是枝裕和監督総合監修のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一篇を再構築、キャストを一新して臨んだ初長編映画だ。
国は高齢化問題に対処するため、75歳以上の高齢者に自ら死を選ぶ権利を保障し支援する<PLAN 75>という制度を施行。高齢者の間では、自分たちが早く死ぬことで国に貢献するべきという風潮がにわかに広がりつつあった。
夫と死別後、ホテルの客室清掃の仕事をしながら、角谷ミチ(倍賞)は長年1人で暮らしてきた。市役所の<PLAN 75>申請窓口で働く岡部ヒロム(磯村勇斗)や申請者のサポート業務を担当する成宮瑶子(河合優実)は、制度に疑問も抱かず業務に邁進する日々を送っていた。
そんなある日、ミチの職場で高齢のスタッフが勤務中に倒れたことを理由に、ミチは退職を余儀なくされる。職を失い、住む場所さえも失いそうになったミチは<PLAN 75>の申請手続きを行うか考え始め──。
年齢で命が線引きされてしまうことの恐ろしさと、そのようなシステムを生み出してしまう社会構造や人々の意識への痛烈な批判を込め、生きるとは何かを問いかける。
『PLAN75』は、6月17日より全国で公開される。
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