カナダ人プロデューサーはなぜ「出て行け」と怒鳴られたのか? カンヌ映画祭での出来事から多様性を考える

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カンヌ国際映画祭
ケルヴィン・レッドヴァースのモカシン問題を掲載した「Variety」サイトより

カンヌで繰り返される“ドレスコード”問題

5月28日(現地時間)、無事に幕を下ろした第75回カンヌ国際映画祭。昨年はまだパンデミックの最中で厳しい感染予防対策が敷かれていたが、今年はかつての活気が戻り、連日レッドカーペットを華やかに着飾った参加者たちが賑わせた。

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だが、そんな晴れやかな映画祭に水を差したのが22日(現地時間)の『Les Amandiers(原題)』公式上映前のレッドカーペットでのトラブルだ。

カナダ先住民の映画プロデューサー、ケルヴィン・レッドヴァースが、故郷の伝統的な民族的装いであるモカシンを履いていたところ、レッドカーペットを歩くことを止められたという。映画祭のドレスコードとして、男性はブラックタイが好ましいとされていることから、彼はタキシードを着用したが、靴は茶色のモカシンを選んだ。

モカシンは、歴史的にはアメリカ・カナダの先住民が履いていた靴だ。レッドヴァースは自分の文化においてフォーマルに値するものを身につけたいという思いからコーディネートを決めた。

ビーズ刺繍をほどこしたデザインと色はかなり目立つ。見咎めた警備員に行く手を阻まれ、レッドヴァース一行は「カンヌはサリーやキルトのような民族衣装に寛容であるはずだ」と訴えたが、映画祭スタッフたちは聞き入れなかったという。

ついに、攻撃的な態度の警備員がレッドヴァースに顔を近づけて、「今すぐ出て行ってください(You need to leave now)」と言い、さらに続けざまに3回「今すぐ出て行って(Leave now)」と繰り返し、最後に「出ていけ(Leave)!」と言い放ったという。「私は、自分にとって伝統的な正装をしようとしたというだけで、犯罪者のように扱われました」レッドヴァースは語った。彼は靴を通常のものに履き替えて、レッドカーペットを歩くのを認められた。

この仕打ちについてレッドヴァース側は映画祭に抗議し、それを受けて映画祭側は翌23日(現地時間)に彼らに謝罪し、同日に行われたカナダのデヴィッド・クローネンバーグ監督の『Crimes of the Future(原題)』のワールド・プレミアのレッドカーペットにレッドヴァースを招待した。もちろん、モカシンを履いて問題なしとなった。

実は、カンヌ国際映画祭のレッドカーペットでの靴にまつわるトラブルは過去に何度も起きている。

2015年、50代の女性のグループがハイヒールを履いていないことを理由にレッドカーペットを歩くのを拒否された。医療上の理由でヒールを履けないのでラインストーン付きのフラットシューズを選んだ高齢女性を含む複数の招待客がレッドカーペットを締め出された。

2016年、ジュリア・ロバーツは主演作『マネーモンスター』の上映に参加した際、レッドカーペットを裸足で歩いた。会場到着時はオープントゥのハイヒールを履いていたが、会場前の長い階段を登る彼女がロングドレスの裾を持ち上げたとき、靴を履いていない足元が露わになったのだ。

同年に映画祭に参加していたクリステン・スチュワートも、女性にだけハイヒールを要求するシステムに異論を唱え、2018年の参加時にはレッドカーペットに到着するや衆目の中で履いていたハイヒールを脱ぎ、裸足でカーペットを歩いた。

カンヌと共に世界三大映画祭の一角をなすベルリン国際映画祭は、特にドレスコードを設けていない。2018年に同映画祭のディレクターは「フラットシューズの女性も、ハイヒールを履いた男性も追い返したりしません」とコメントしたことがあり、もう1つのヴェネチア国際映画祭でもドレスコードにまつわるトラブルのニュースは聞いたことがない。

格式を重んじるカンヌ国際映画祭だが、時代の変化とともに多様性を尊重する柔軟な姿勢が求められている。

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