“家族団らん”なのに不穏すぎる… 胸糞映画『MELT メルト』が描く、壊れかけた家族のトラウマ誕生日会

#MELT メルト#シャーロット・デ・ブリュイヌ#フィーラ・バーテンス#ローザ・マーチャント#映画

(C)Savage Film - PRPL - Versus Production-2023  

ベルギー発のサスペンススリラー、SNSで話題の“胸糞系”として反響を呼ぶ一作

サンダンス映画祭で最優秀演技賞(ワールド・シネマ・ドラマティック部門)に輝き、「映画史に残る後味最悪“胸糞”の傑作」「まるで、ラース・フォン・トリアー×ミヒャエル・ハネケ×ヨルゴス・ランティモス!」と評された映画『MELT メルト』。本作より、“壊れかけた家族”のトラウマ誕生日を捉えた本編映像が公開された。

・「13歳の夏休み」に何が起きた? 後味最悪と称される、美しくも残酷なリベンジ・スリラーに震撼

映画には、見る者に勇気や希望を与える力がある。しかしその一方で、それとはまったく逆のネガティブな吸引力を放ち、おぞましい結末へと突き進む異端的な作品も存在する。いわゆる“胸糞映画”と呼ばれるそれらの作品は近年、絶望的なバッドエンディングに打ちのめされた観客たちがSNS上にその衝撃体験を投稿することで、密かな盛り上がりを見せるという現象を生んでいる。

『オーバー・ザ・ブルースカイ』(12年)で高い評価を受け、女優として20年以上のキャリアを持つベルギーのフィーラ・バーテンスが初監督を務めた本作は、まさにその系譜に連なる新たな“トラウマ映画”といえる。物語は、主人公である13歳の少女・エヴァを軸に、大人になった彼女が忌まわしい過去を回想する形で進行する。ひとりの少女の日常を容赦なく破壊し、ほぼ永遠に人生を狂わせてしまうその“トラウマ”は、いかなる惨劇によってもたらされたのか——。

上質なミステリー映画のように、巧みな構成で真実を明かしていく本作は、2023年のサンダンス映画祭で最優秀演技賞(ワールド・シネマ・ドラマティック部門)を受賞。さらに、ベルギーのアカデミー賞にあたるマグリット賞では最優秀フランドル映画賞を受賞するなど、そのクオリティの高さが絶賛され、世界各国の映画祭を席巻した。

大人のエヴァを演じたのは、『トリとロキタ』(22年)で注目されたシャーロット・デ・ブリュイヌ。そして13歳のエヴァを繊細に体現し、サンダンスで演技賞に輝いたローザ・マーチャントにとっては、本作が長編映画デビューとなる。さらに『トリとロキタ』『CLOSE/クロース』(22年)のプロデューサー陣が名を連ね、新人監督の挑戦に力強いバックアップを提供している。

近年のベルギー映画界では、『CLOSE/クロース』のルーカス・ドンらに代表される新世代のフィルムメーカーが注目を集めているが、バーテンス監督もまた、その流れを受け継ぐ新たな才能といえる。無邪気さと紙一重の子どもの残酷さを生々しくあぶり出しながら、過去のパートと、大人のエヴァが恐ろしい計画を一心不乱に進めていく現在のパートが共鳴しあい、濃密な緊迫感を高めていく。儚くも美しい、新たなリベンジ・スリラーがここに誕生した。

『MELT メルト』

今回紹介する本編映像では、少女時代のエヴァが家族とともに父親の誕生日を祝うシーンが描かれている。一見、どこにでもあるような幸せな家庭に見えるが、食事が進むにつれ、次第に様子がおかしくなっていく。怒鳴る父親、アルコールに依存する母親、無邪気にはしゃぐ妹——まるで“狂気混じりの家族団らん”だ。エヴァだけがその場をなだめようとするが、空気はおさまらない。しまいには母親がペットの亀の水槽を割ってしまい、見る者に不吉な予感を抱かせるシーンとなっている。

バーテンス監督は、リゼ・スピットの原作を読んだ際、「エヴァのとてつもない孤独に心を動かされました。印象的だったのは、居場所を求め、存在を認めてもらおうとする少女の痛切な孤独でした。何年もかけて脚本に取り組み、ストーリーを自分のものにしてゆきました。ようやくこの映画を世に送りだせて、天に昇る心地です」と振り返った。

さらに、「成長した彼女は孤独で完全に世界から孤立し、不安や自尊心の問題を山ほど抱えていますが、これは私にも覚えがあります。私はストーリーのそうした部分に魅かれました。彼女が持ち歩いた氷塊はサスペンス要素として素晴らしく、すぐに映像が頭に浮かびました」と語った。

そして、「エヴァは愛を求める繊細な子どもであると同時に、レジリエンスや成功、人気度が重視されがちな世界で必死に生きる弱さを抱えた若者でもあります。彼女の旅路に寄りそってもらえたら嬉しく思います。これは、自身の奥底の誰にも見えないところに、痛みを抱えている人の映画です。目を背けても、痛みはひそかに内面を蝕んでゆきます。口に出さなくとも、激しい思いを秘めている人は多いのです。それとも、私たちがちゃんと耳を傾けていないだけなのでしょうか?」と、本作に込めた想いとその核心に触れた。

『MELT メルト』は2025年7月25日より全国順次公開。