『椿の庭』富司純子インタビュー

富司純子、14年ぶり主演映画。シム・ウンギョンが孫を演じる

#富司純子#椿の庭

富司純子

素敵に撮ってもらい女優冥利に尽きる

『椿の庭』
2021年4月9日より全国順次公開中
(C)2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

富司純子シム・ウンギョンが主演を務める映画『椿の庭』が4月9日に公開を迎える。サントリー、資生堂、TOYOTAなど数多くの広告写真を手掛ける写真界の巨匠・上田義彦が、構想から十数年の歳月をかけて完成させた初監督作品。

椿が咲き誇り、海を望む高台の一軒家に住む祖母・絹子と孫娘の渚。庭に咲く色とりどりの草花に季節を感じながら、日々を慈しみ生きる家族の一年間を、所作、佇まいなど溜息をもらすほどの美しい映像で綴る。本作が実に14年ぶりの主演映画となった富司純子にインタビューした。

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『椿の庭』予告編

──本作に出演を決めた理由は何だったのでしょう。台本を読んだ感想は?

富司:上田先生から台本にする前の段階のものをいただいて、それを読んだ上で了承させていただきました。本当に素晴らしい映像がどんどん目に浮かんでくるような台本だったんです。これはもうぜひやらせていただきたいと思いました。この段階でそこまで思わせてくれたのは、初めての体験です。
夫が亡くなって、長年住んでいた家を手放さなくてはいけなくなっていくというお話の中で、私自身はまだその家を一度も見ていないにも拘らず、庭であるとか木々であるとか、そういった四季折々の風景が美しい映像として感じられたんです。ですから撮影が始まってロケ地に着いたときも、すっとその家の世界観の中に入っていけました。
また、実際に使用された古民家も素晴らしいと思いました。門を入ると石畳みの敷かれた正面の佇まいとか庭の風情などがすごく素敵で、また家の中に入っていくと、お台所もとてもモダンで、部屋も私の好きなものがいっぱい飾ってあったりして、すごく心地良いんです。こんな素敵なところに絹子さんはずっと住んでいたのだということを、私もすんなり受け止めながら演じることができたように思います。

椿の庭

──上田監督とのお仕事はいかがでしたか?

富司:上田監督の、家に対する想いの深さもとても印象的でした。ふと見ると監督がお庭を掃除なさってたり、本当にこのおうちを愛しんでいらっしゃるんです。そこの芝生は踏まないでくださいとか、庭の石とかも。また家の中の絨毯や時計など、とにかく家の敷地の中に置かれたものはすべて監督の想いが込められているように私には思えてなりませんでした。また撮影中もとにかく監督はお優しくて、ワンカット終わるたびに「良かったですよ」とか誉めてくださる。それがとても励みになるというか、嬉しかったです。
監督は撮影も兼ねてらしたので、ご自身でアングルとライトを決め、その中で演じるという、実に自然な流れでもありました。もし監督がご自分の撮りたい画の中に私たちがおさまっていなければ、何かおっしゃったことでしょうけど、現場では特にそういうこともなかった。スタッフにも「みなさん、大きな声は出さないで静かにしてください」とか、その場の雰囲気をとても大切にしてくださっていたので、何の迷いもないというか、とにかくあそこにいるだけで楽しかったです。

──本作で演じた絹子を通してどんなことを感じましたか?

富司:娘が駆け落ちして外国で子どもを産んで、やがて大きくなった孫が突如帰ってくる。娘は残念ながら亡くなっているけど、絹子さんとしては孫と暮らせて幸せだったのではないかなと思うんです。
シム・ウンギョンさんとのお仕事もとても素敵な時間でした。一緒に撮影していてすごく自然だし、可愛い人です。日本語もお上手ですし、撮影の最初の頃は本当にお忙しくて、他の仕事も入ってらしたようで。それでいて日本語を一生懸命お勉強してるのを知って、頑張っていらっしゃるなと思いました。
私が韓国の言葉を覚えるとなったら大変ですから。でも彼女はすごく努力していて、しかもひとりで日本に来て頑張ってらして、もちろん今も素晴らしいですけれども、もっともっと素晴らしい女優さんになっていかれると思います。

椿の庭

──撮影は作品の設定と同じく約一年間、古民家の一軒家を使って行われたそうですね。

富司:一軒家って現実的には大変なんです。庭の掃除や手入れくらいは自分でできても、木の手入れを植木屋さんに頼むといったメンテナンスなどを考えますと、本当に大変です。歳とともにマンションの方が楽だなあ、なんて思っちゃう事も正直あります。ですから、ああいったおうちで1年間もお仕事させていただけたというのは、とても楽しいというか、幸せな時間でした。
最近は撮影の形態も変わってきていますが、この作品は自然光を使い、昔ながらのフィルム撮影をしています。現場はとにかく少人数でした。きっと上田監督が気に入られた腕の良い録音さんや照明さんといった精鋭の方々をお揃えになったんだと思うんです。ですからそういう中でお仕事させていただけるありがたさというものも、今回はすごく感じました。

富司純子

──年齢を重ねても美しくあり続ける秘訣は?

富司:日課としてはEテレの朝の体操をしたり、あとは本当に少しですけど、体を動かしたりスクワットしたりと、そのくらいでしょうか。背筋が伸びてないと歳を取ったように見えてしまいますし、着物も綺麗に着られませんので。
油断しているとすぐに猫背になってきて、「あっいけない!」と思ってピシッとする。やはりそういう意識を常に持っていないと楽な姿勢になってしまいがちなので、その点は気をつけています。

──母と娘、上田監督が描く女性たちはそれぞれに魅力がありますね。

富司:この映画は絹子さんだったり、陶子(鈴木京香)だったり、渚(シム・ウンギョン)だったり、女性3人の想いを監督が椿を通して込められてるのではないかなという気もいたしております。
絹子さんはもとより、女性たちを本当に素敵に撮ってくださって、女優冥利に尽きると思いました。この度の『椿の庭』の絹子さんは私のベストワンじゃないかと思うほどで、今後これ以上良い作品に出会えるのかなとまで思ってしまいます。本来の日本の良さを、この映画を通してわかっていただければ嬉しく思います。

富司純子
富司純子
ふじ・すみこ

1945年12月1日生まれ、和歌山県出身。高校3年の時にマキノ雅弘監督にスカウトされ、同監督の『八州遊侠伝 男の盃』(63年)で女優デビュー。68年の『緋牡丹博徒』で初主演を務め大人気となり、『緋牡丹博徒』シリーズ、『日本女侠伝』シリーズ、『女渡世人』シリーズで東映のスター女優として一世を風靡した。89年、久々に高倉健と共演した『あ・うん』での映画復帰を機に富司純子に改名。その後の主な出演作に相米慎二監督『あ、春』(98年)、深作欣二監督『おもちゃ』(99年)、ブルーリボン賞助演女優賞に輝いた『フラガール』(06年)、『犬神家の一族』(06年)、『明日への遺言』(08年)、『舞妓はレディ』(14年)、『散り椿』(18年)など。2007年には紫綬褒章、16年には旭日小綬章を受章した。寺島しのぶ、五代目尾上菊之助の母でもある。