『ステージ・マザー』トム・フィッツジェラルド監督インタビュー

普通の主婦が、突然ゲイバーのオーナーに!?

#LGBTQ#ステージ・マザー#トム・フィッツジェラルド

ステージ・マザー

私自身の経験を基に監督、共感できる要素をいくつも含んだコメディ

『ステージ・マザー』
2021年2月26日より全国公開
(C)2019 Stage Mother, LLC All Rights Reserved.

テキサスで夫と2人静かに暮らしていたメイベリンに、突然届いた息子リッキーの訃報。生前に疎遠だった息子に最期のお別れをするため、サンフランシスコでの葬儀に向かった彼女は、彼が経営していたゲイバーを自分が相続したと知らされる。初めはドラァグクイーンの世界に困惑しきっていたメイベリンだったが、息子の愛した店を守ろうと決意する。

家族が亡くなってから初めて、その人の本当の姿を知り、理解する。『ステージ・マザー』の主人公と似たような体験をしたと言うトム・フィッツジェラルド監督が、本作に込めた思いを語る。

・ごく普通の主婦が瀕死のゲイバーとドラァグクイーンのママに!『ステージ・マザー』予告

──監督するにあたり、参考にした作品などはありますか?

監督:本作はクラシックなハリウッド映画と、現代的なひねりをきかせた要素を大胆に組み合わせた新しいストーリーなんだ。主人公の女性が大きな喪失の後に、自分自身のために新しい人生を作り上げるコメディであり、『ミルドレッド・ピアース』や『ステラ・ダラス』のような “女性映画”最盛期の傑出した要素を『キャバレー』、『トップ・ハット』、『ジプシー』、『プリシラ』のようなバックステージミュージカルで包んだような作品。華やかなショーを披露することをテーマにした映画なんだ。
私が狙っているのは、大人の主人公が初めてエキゾチックな環境に置かれる様を描くイギリス映画『マリー・ゴールド・ホテルで会いましょう』や、『旅する女 シャーリー・バレンタイン』のような研ぎ澄まされたバランスのユーモアとドラマ。特に『パレードへようこそ』や『キンキーブーツ』のように、保守的でストレートなキャラクターがLGBTコミュニティを徐々に受け入れていくことをテーマにしている。
これらすべての映画に共通しているのは、水から出された魚のような、場違いな環境に置かれた人物を描いているということ。前述の映画の主人公たちにとってインド、ギリシャ、イギリスの炭鉱町などがエキゾチックな環境であったように、テキサス育ちのメイベリンにとって、サンフランシスコのドラァグクラブはエキゾチックな環境だ。

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ステージ・マザー

──主演にジャッキー・ウィーヴァーを選んだ理由は?

監督:メイベリンは『欲望という名の電車』のブランチ・デュボアと『ジプシー』のママ・ローズを掛け合わせたような、深い後悔と同時に楽しい自分探しの旅をしているキャラクター。ただし、今回はとても魅惑的で怪しげなドラァグクイーンの世界に魅了されるという役柄だ。
ジャッキー・ウィーヴァーは、悲嘆に暮れる母親でありつつ、ドラァグショーを成功させるためには何でもする女性、というとても複雑な立場を表現するのに十分な実力を備えている。『世界にひとつのプレイブック』で表現した温かみのある母性や、『アニマル・キングダム』で表現した鉄の心などを見れば一目瞭然だ。

──ゲイバー再建の道のりだけでなく、メイベリンが息子の本当の姿を理解し受け入れる過程も描かれていますね。

監督:本作は共感できる要素をいくつも含んだコメディだ。宗教的な母親が息子の性とドラァグクイーンの世界を受け入れるというのは、私自身の経験を基にしている。メイベリンが疎遠になった息子のことを、彼が亡くなった後に理解していく様子は、兄が死んだ時に私が初めて彼の生活を知った時と似ているんだ。私の母も兄が死んでから、より兄のことを理解するようになった。
メイベリンと同じで、実は私もディーバ(歌い手)なんだ。教会の聖歌隊から抜けて、家出をして、教会で学んだことを使ってエンターテインメント・ショーの世界に飛び込んだ。こういう共通点があるから、私にはメイベリンのことが少し分かる。『ステージ・マザー』は僕にとってとても意義のある、熱狂的に楽しい作品を作る素晴らしい機会だったよ。

傷ついた男女の再生を、ユーモラスかつドラマチックに描いたオスカー受賞作

トム・フィッツジェラルド
トム・フィッツジェラルド
Thom Fitzgerald

1968年、アメリカ生まれ。映画・テレビ・演劇の脚本家・監督・プロデューサー。映画監督としては『The Hanging Garden』(97年)『Beefcake』(98年)『3 Needles』(05年)『Cloudburst』(11年)などを手掛ける。『3 Needles』は『ルーシー・リューの「3本の針」』というタイトルで、2007年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭にて上映されている。これまでにトロント国際映画祭、ベルリン国際映画祭など、世界の映画祭で50以上の賞を受賞している。