『相撲道〜サムライを継ぐ者たち〜』竜電インタビュー

極限まで自分を追い込む力士描くドキュメンタリーに映し出された相撲への思いとは?

#境川部屋#大相撲#相撲道#竜電#高田川部屋

竜電

お話をいただいた時は「自分でいいんですか?」と思いました

『相撲道〜サムライを継ぐ者たち〜』
2020年10月30日より全国順次公開
(C)2020「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」製作委員会

日本の国技、相撲にスポットを当てたドキュメンタリー映画『相撲道〜サムライを継ぐ者たち〜』が10月30日より全国で順次公開される。坂田栄治監督と撮影スタッフが、2018年12月から2019年6月までの半年間に渡って境川部屋と高田川部屋(※)を密着取材。極限まで自分を追い込む力士たちの姿にサムライを重ね、1500年の歴史を持つ相撲の真髄を浮き彫りにしていく。

ムビコレでは本作中で武隈親方(元大関・豪栄道)と共に大きな活躍を見せる前頭十枚目・竜電へのインタビューの模様をお届けする。相撲への揺るぎない愛情、親方と高田川部屋の弟子たち、家族への感謝、コロナ禍の苦心などを語ってくれた。

・高田川部屋のちゃんこ長が語った料理哲学

──完成した映画をご覧になって、いかがでしたか? 作品後半は、ほとんど竜電関が主役と言っていいほどたくさんご登場されますね。

竜電:まさかこんなにたくさん出演しているとは思いませんでした(笑)。お話をいただいた時は「自分でいいんですか?」と思いましたが、自分の相撲人生の一部が映画として記録されるわけですから、今となっては「いい機会をもらったな」と素直に喜んでいます。

──坂田栄治監督の取材は、どのように行なわれたのですか?

竜電:密着ぶりが本当にすごくて、熱意を感じました。朝稽古から就寝まで付きっきりで、食事の時間も弟子たちと一緒にちゃんこを食べたりと、新弟子が入ってきたようでしたね(笑)。自分としても「せっかく密着取材してもらっているのだから頑張ろう」という気になって、本場所中はいつも以上に気合が入っていたように思います。

──映画をご覧になって、印象に残ったシーンなどありますか?

竜電:やはり朝稽古のシーンは印象的でした。映画を見ていただく方の目にも新鮮に映ると思います。本場所の相撲なら、テレビでいつでも見ることができるじゃないですか。でも、先輩から後輩までが一緒になって黙々と稽古をしている風景は、基本的にはあまり公開されないものですから、見応えがあると思います。

大相撲

──本作中で琴剣淳弥さんに「他の力士の3〜4倍は稽古をする」と言われるほど練習熱心な竜電関ですが、奥様の麻惟さんとカフェでお話しされているシーンなどはとてもにこやかで、オンとオフのメリハリがとてもはっきりしていると感じました。そういった切り替えは普段から意識されているのですか?

竜電:自分は身体が頑丈なわけでもないし、相撲が上手いわけでもありません。先ほどお話ししたように大きな怪我もしているので、人よりたくさん稽古をするのは当たり前というか、「やらなければいけない」という思いが強いんです。ただ、相撲のことばかりを考えていると頭が参ってしまうので、何もしない時は本当に頭を真っ白にしようと心がけています。やる時はやる、やらない時はやらない。その切り替えがうまくいかない日もありますが、力士にとっては何もしない、考えない時間も稽古と同じぐらい大切だと思います。

──本場所中、思うような相撲が取れなかった日はネガティブな気持ちを家庭に持ち帰ってしまうこともありますか?

竜電:もちろんあります。でも自分が沈んだ顔をしていると、妻があっけらかんと「しょうがないでしょ。また明日勝てばいいじゃない」と言ってくれるので、気持ちがリセットされますね。独身の頃は一人で落ち込むことがしょっちゅうありましたが、今は家族の存在が相撲の原動力になっています。

竜電

──高田川部屋に入門してよかったことを教えてください。

竜電:高田川親方はとにかく厳しい方で、その厳しさが自分の財産になっていると思います。力士として強くなる以前に、まず人としての礼儀や作法をしっかりと叩き込んでもらいました。親方はよく「自分(親方)の言うことは8割しか信じるな。あとの2割はお前が自分で考えてアレンジしろ」と言います。言われたことをやるだけではなくて、自分で考えることで自信が持てるようになると。もし将来的に自分も指導する立場になった場合は、親方のこの教えを受け継いで若い力士に伝えていきたいと思います。

──本作には高田川親方も登場されています。2012年に竜電関が右股関節を骨折された時、親方はあえて「怪我は神様がお前に与えた試練だ」と厳しい言葉をかけられたそうですが、憶えていらっしゃいますか?

竜電:はい。当時は絶望のどん底にいたので、本当に厳しい言葉だと感じましたが、そこで甘い言葉をかけられていたら復帰はできなかったと思います。自分の負けず嫌いの性格を知った上で、挑発してくれたんです。その一方で、三度目の骨折をした時には肩にポンと手を置いて「また一からやり直そうな」と言われて、親方の気持ちをひしひしと感じました。

竜電

──相撲を辞めたいと思ったことはありますか?

竜電:それは一度も思ったことがないですね。怪我が絶えなかった時期も、復帰することしか考えていませんでした。やはり根底にずっと変わらず「相撲が好き」という気持ちがあるからだと思います。

──取組の際のゲン担ぎやルーティンがあれば教えてください。

竜電:そういうものを大事にしている力士はけっこういますが、自分にはないですね。すべてその時の直感で動くタイプです。基本的にめんどくさがり屋なんです(笑)。

──プライベートで仲の良い方と土俵上で当たった場合、やりにくさを感じたりしますか?

竜電:自分の場合、それはまったくありません。むしろ燃えますね。特に同期の力士と当たった時は「よし!」という感じで、絶対に勝ってやろうという気になります。取組が終わればさっぱりしたもので、「今日はやられちゃったよ」とか「今日は勝たせていただきました」と笑いながら会話をしていますね。土俵の上では敵でも、土俵を下りれば同志ですから。

大相撲

ボクシング漫画『はじめの一歩』の鷹村守に憧れ

──3月以降、角界もコロナの影響を多分に受けていると思います。その中での苦労などあれば教えてください。また、無観客での開催も初めてのご経験だったと思いますが、どんな印象でしたか?

竜電:巡業や出稽古がなくなったのは残念でした。他の部屋の力士と稽古することはとても勉強になるので。でも今は、そんな時だからこそ自分の基礎を練り上げていくべきだと考えるようになりました。無観客については、とても不思議な感覚でしたね。稽古場と雰囲気が似ていて、特にやりにくいわけでもないのですが、やはりお客さんの歓声がある方が気持ちは盛り上がります。

──「スー女」と呼ばれる相撲好き女子の間ではイケメン力士と評判の竜電関ですが、その竜電関から見て「この人はカッコいい」と思う力士はいますか?

竜電:自分がイケメンだとは思いませんが(笑)、同じ力士としてカッコいいなと思うのは遠藤関です。自分もあんな相撲が取りたいと思わせる、独特の雰囲気がある。ただ、上の方の皆さんはそれぞれに個性があって、どの力士を見てもカッコいいですよね。着物の選び方や着こなしも力士によって全然違うので、見た目の面白さから相撲に興味を持ってもらうのもいいかなと思います。

──角界に限らず、憧れるスポーツ選手はいますか?

竜電:好きな漫画のキャラクターになりますが、ボクシングを題材にした『はじめの一歩』という作品に登場する鷹村守という選手には憧れますね。練習でも手を抜かないし、ボクシングに対してとにかく誠実なんです。自分も相撲に対して、いつも誠実でいたいと思っています。

──お休みの日は映画もご覧になりますか?

竜電:はい。ジブリ映画は必ず見ますし、映画館にはよく行きます。コロナ禍で最近は映画館にも行けていませんが、この映画は音響にもこだわりがあるようなので、大きな身体の男と男が裸一貫でぶつかり合う臨場感をぜひ映画館で楽しんでほしいですね。

──最後に、このインタビューを読んでくださった方々へのメッセージをお願いします。

竜電:相撲ファンはもちろん、相撲を知らない人にも見ていただき、少しでも興味を持ってもらえれば嬉しいです。

※高田川部屋の「高」は旧字

(text:伊藤隆剛)

竜電
竜電
竜電剛至
りゅうでん・ごうし

1990年11月10日生まれ、山梨県甲府市出身。身長190cm、体重148kg。本名は渡邊裕樹。中学卒業後、高田川部屋に入門し、2006年3月場所で初土俵を踏む。12年11月場所で新十両、18年1月場所で新入幕、19年7月場所で新三役に。最高位は小結。四股名は出身校である竜王中学校の「竜」と、江戸時代に活躍した名力士・雷電爲右エ門の「電」を組み合わせたもの。ドキュメンタリー映画『相撲道〜サムライを継ぐ者たち〜』では、ストイックに稽古を重ねる様子から妻とカフェで過ごすオフショットまで、竜電関の様々な表情を見ることができる。