『獣道』伊藤沙莉インタビュー

トップレスや生き埋め初体験!『ひよっこ』さおりとは真逆の役で新境地

#伊藤沙莉

ガチで埋められたのは人生初めての体験!

現在放送中のNHKドラマ『ひよっこ』で米屋の娘・安倍さおりを演じている女優・伊藤沙莉。彼女が、不幸街道を突き進みながらたくましく生きるヒロインを演じた映画『獣道』が7月15日より公開される。どん底でもがく映画人たちを描いた『下衆の愛』の内田英治監督がメガホンを取った本作は、地方を舞台に親から見捨てられカルト教団の施設で育ったヒロイン・愛衣が、ヤンキーや風俗嬢を転々としながらも居場所を求めて生きる姿をユーモアを交えて描いた青春群像劇。

9歳で子役としてデビューし『女王の教室』や『GTO』などに出演してきた伊藤が、これまで以上に幅の広さを要求された役柄や主題歌、トップレスヌードなど「初めて尽くし」という撮影を経た心境を語った。

──出演を決めた理由は?
伊藤沙莉

伊藤:内田(英治)監督とは(撮影時から)2年前に『家族ごっこ』で一緒にお仕事をさせていただいて、今回「やりませんか?」と台本をいただいて読んだら面白くて。前回は気に入っていただいた感触がなかったので、「何で私を?」と興味も沸いて、もう一度お仕事を してみたいと思いました。

──カルト集団やヤンキー、風俗嬢とふり幅の広いキャラクターでしたね。

伊藤:はい。なので、撮影前は覚悟が必要でした。終盤になると色気も要求されましたし、今までやったことのないジャンルで初めてのことがたくさんありすぎて。演じる上では内田さんから「同人物には見えないよういしたい」と言われていたので、コロコロと別人になる中でも、常に寂しさは感じさせるように意識していました。

伊藤沙莉

──チャレンジの連続ですが、特に勝負と思ったシーンは?

伊藤:トップレスで“出した”ことも“勝負”と思ったシーンのひとつで、初めてで簡単なことではなかったので、撮影前は監督とシーンの理由や意味を話し合いました。監督自身、そこはこだわりを持っていて、「もしその描写がなければこのシーン自体なくていい」と言っていました。実際演じてみると、そこがなかったらおかしいし、例えば隠したりカメラアングルで見せないようにしても気持ち悪いシーンだと思ったので、やって後悔はないし、むしろ良かったと思います。

──変化していく中で、どの愛衣が一番思い入れありますか?

伊藤:ヤンキーファミリーです。亮太(愛衣に恋心を抱いていた不良少年/須賀健太)と再会してすっかり変わった姿に驚かれるシーンもあるので、そこは「同じ人?」と思ってもらえるように“ギャップ”は意識しました。その後は転落していく感じでしたが、ヤンキーになった頃はまだ希望を抱いていて、やっと自分が見つけた居場所で家族の一体感を期待してしがみついているというか……。だから、彼氏の家に遊びに来た亮太の前で愛衣が彼氏と“そういう感じ”になっちゃうシーンは辛かったです。亮太が見ているところで自分もそうしないとここにいられなかったので、撮影が終わっても気持ちを切り替えられずに涙を抑えられなくて。そういう経験は初めてでした。

──トラブルに巻き込まれて埋められてしまうシーンもありますよね。

伊藤:私自身もさすがに埋められたのは人生初めてで、ガチで埋めるんだと驚きました。あ、そこでも泣きました(笑)。やっぱり怖かったですし、愛衣としてなるべく怖さは出さないようにしていましたが、実際、穴に横たわって準備した時点で本当に怖かったです。夜中だし森だし、あそこは「埋まるんだ」って変に覚悟を決めました。でも、本当に素敵な経験をさせていただきました。埋められる前に生かすかどうか多数決のアンケートを取る場面があって、そこで手を挙げられる愛衣が面白いしかわいかったです。

──本作の舞台は“とある地方都市”です。伊藤さんは千葉出身ですが、育った地元で共感した部分は?
『獣道』
(C)third window films

伊藤:ありました。私自身はヤンキーではないですけど、例えば交友関係を知っておかないとダメな所は「あるある」だと思いました。台本を読んでいる時から「わかる」というものが多くて「『○○中?』って聞いた後に、『××先輩知ってる?』」というやりとりとかすごく分かります。更生する仲間もいればどっぷり悪の道に入ってしまう子もいるし、けっこうヤンキーあるあるが詰まっていてリアルな地方の話だと思います。

──『女王の教室』など子役から様々な作品に出演してきましたが、伊藤さんにとって本作はどんな存在になりましたか?

伊藤:ここまでがっつりと複雑な感情を持った人物を演じるのも初めてでした。イタリアの第19回ウディネ・ファーイースト映画祭でも上映されて、 人生で初めて海外にも映画祭にも行かせていただいて、本当に“初めて”が詰まった作品だと思っています。映画の宣伝活動にも携わらせていただいて、考えや意識が変わって女優としてさらに自覚が増していきました。

──主題歌も担当していますよね。

伊藤:そうなんです! まさか主題歌で、しかもラップとは思わなかったから驚きました。

「ここからここまでできるんだ」と幅を知っていただけたら嬉しい
『獣道』撮影中の伊藤沙莉

──9歳でデビューして23歳となりましたが、子役時代から振り返って女優業についてどう思いますか?

伊藤:役作りでは、今までインプットしている人を真似て演じることがありますが、(子役をしていていたこともあり)小さい頃から出会いに恵まれていたので、その分お手本にする人も多かったです。ちょっと変わった役の時に「あの人のしゃべり方はこのセリフに合う」とか考えられるのは良かったな、と。たまに、小さい頃からやっていることを邪魔に思ったりもしましたが、そうやって積み重ね来たことで今こうして女優業ができていると思うと、続けてきて良かったと思います。この作品に出会えたことでさらにそう思えました。

──『獣道』後の変化は?

伊藤:『獣道』の後にダークな役が続いて、それこそもう一度埋められました。その時は畳の下だったので、森よりは環境が良かったですけど(笑)。そういう愛に飢えた役がちょっと続いた後に『ラストコップ』を経て『ひよっこ』なので、グラデーションになっている感じがします。

──『ひよっこ』のさおりとは対照的な役ですよね。

伊藤:愛衣とさおりでは真逆だと思います。愛衣は愛に飢えているのに対してさおりはお父さんと喧嘩はしつつも愛情には富んでいるので。自由だけどさみしさを抱えている愛衣と自由はないけど誰かに愛されているさおりとの違いはあるし、そういう人物を演じられて嬉しいです。

──『ひよっこ』で伊藤さんを知ったファンには本作をどう見て欲しいですか?

伊藤:さおりの印象が強い方はすごく強気でちゃきちゃきとした女の子のメージがある方も多いと思いますが、この映画の愛衣も見て「ここからここまでできるんだ」と幅を知っていただけたら嬉しいです。さおりと愛衣とでは寂しさや抱えているものも違うので、生きている世界が違う2人を比較して見ていただいても面白いと思います。

(text&photo:中村好伸)

伊藤沙莉
伊藤沙莉
いとう・さいり

1994年5月4日生まれ。千葉県出身。2003年、9歳でドラマデビュー。『blank13』(17年)、『パンとバスと2度目のハツコイ』『榎田貿易堂』『寝ても覚めても』(3作とも18年)などの映画に出演し、第10回TAMA映画賞で最優秀新進女優賞、第40回ヨコハマ映画祭で助演女優賞、主演を務めた『タイトル、拒絶』(20年11月13日より公開)で第32回東京国際映画祭東京ジェムストーン賞を受賞。2020年6月、テレビアニメ『映像研には手を出すな!』やドラマ『これは経費で落ちません!』『(19年)、『ペンション・恋は桃色』(20年)などでの活躍を評価され、第57回ギャラクシー賞テレビ部門個人賞、さらに『生理ちゃん』(19年)で第29回日本映画批評家大賞助演女優賞に輝いた。そのほかの出演作にドラマでは『ひよっこ』(17年)、『獣になれない私たち』(18年)、『全裸監督』(19年)、『いいね!光源氏くん』(20年)など。公開待機作に、映画『十二単を着た悪魔』『ホテルローヤル』『タイトル、拒絶』が控えている。