『アリーキャット』窪塚洋介×降谷建志(Dragon Ash)インタビュー

限りなく価値観が近い。運命感じた出会いから今までを語る

#窪塚洋介#降谷建志

初めから分かり合ってるというか、昔からの連れみたいな感じ(窪塚)

90年代後半から青春時代を過ごした世代には、特に強い印象を与えるタッグではないだろうか。窪塚洋介と降谷建志(Dragon Ash)が映画『アリーキャット』にW主演した。街の片隅で野良猫のようにひっそり生きる男マル(窪塚)と、ひょんなことから彼と知り合ったリリィ(降谷)が、一人の女性を守るために奮闘するクライムサスペンスにしてバディ・ムービーで、初顔合わせを果たした2人に話を聞いた。

──オファーを受けたときの感想を聞かせてください。

窪塚:僕からいいですか? 2014年の年末ぐらいに、共通の知人の結婚式で初めて会ったんです。それまではずっとニアミスでした。もちろん共通の仲間もいっぱいいるから、あまりにも自然に「ちわーす」みたいな感じでヤーマン(挨拶)して。建志君は後から「あれ、初対面だよね」って。

降谷:「ですね」みたいな(笑)。

窪塚:そこで会って2週間後に映画のオファーが来たんですよ。なので、運命めいたものを感じたというか、神様がわざわざそこまで引っ張って、やっと出会わせてくれたのかなっていう気持ちにはなりましたね。

降谷:全く同じ。出会いも、オファーのタイミングも同じだし。俺はすぐマル(窪塚洋介)に連絡して「マルが主演でっていう話が来てるんだけど知ってる?」と聞いたら、「リリィって役は自分がやりたいぐらい魅力的なキャラクターだから、物理的に可能なら前向きに考えな」って言われて。

窪塚:「な」ってよりね「考えて」だな(笑)。

降谷:年末に大阪で「1回ちょっと飲もう」と改めて会って、人となりにも短い時間だけど触れて。で、「やる」って言って。

インタビュー中の窪塚洋介(左)と降谷建志(右)

──マルとリリィは出会い頭から反発し合いますが、じゃれ合っているような相性の良さもあります。それが物語の大切な鍵ですが、そういう感覚は初対面の時にありましたか?

降谷:実際の本人たちってこと? 反発とかは全くなかった。

窪塚:むしろ逆。ロックとレゲエと違うジャンルだけど、やっぱり気合入れて走んなきゃ、20年も走れるようなフィールドじゃないと思うんですよ。俺はレゲエ10年だけど。ロックシーンでずっと第一線で、トップランナーで砂煙巻き上げてずっと走ってきたってことは、当たり前のように俺と共通してることがたくさんあると思うんですよね。自分自身を信じ抜くとか、「今が一番いい」と言って生きてるとか。そこをシェアできてる。マルとリリィの出会いはもっと得体の知れないもん同士だけど、俺と建志君の場合は、もっと初めから分かり合ってるというか、昔からの連れみたいな感じもするから。

──お二人はミュージシャン同士という感覚で出会ったんですね。

降谷:うん。

窪塚:俺の方は微妙かもしれないですね。ただ、俺自身が二足のわらじになってもう10年経つんで。どっちでもないっていうか、俺は俺って思ってるとこあるんですよ。役者のほうに行ってもはみ出してる、レゲエDeeJayやっててもはみ出してる。どっか行ったら絶対どっかはみ出てるみたいにしてここまで来てるから。「ミュージシャンなの? 役者なの?」って言われても、おんなじ根っこから生えてる2つの花だから。分けようがないっていうか、もう混ざっちゃったから。

──降谷さんも、以前から演技の仕事をされていますが、今回の作品でまたもう一つの花が咲いた、という印象を受けました。

降谷:そうですね。

窪塚:そっちもすごい忙しいもんね。

降谷:ちろん種の育て方、水のあげ方、全部をみんなが教えてくれた。マルだけじゃなく、現場で2週間いたみんながご指導してくれた。それを無駄にしないっていうのもあるし、自分の中にあった隠し扉をバッコリ開けてもらったって感じだから。

窪塚:知ってたくせに(笑)。

降谷:いやいや。前はいろいろ好奇心に引っ張られるよりはバンドマンたるものバンドマンであれ、というのが美徳だと思っていて。他の楽しそうな話はむしろ避けてきたんです。でも一回開いちゃったら、それを塞げないぐらいいろいろあふれてくる感じですね。20年バンドマンやってきた今、こういうお仕事させてもらっても、「おまえはバンドマンじゃない」とは言われないと思うんですよ。これからはそういう我慢をせずに、自分に正直にやりたいことを懸命にやっていく。いい意味なのか悪い意味なのか分かんないけど、変わってきた部分ではあります。こうじゃなきゃいけないっていうのがもうないんだよね。

窪塚洋介

窪塚:めっちゃ分かる。「Want to」になってきた、全部。「Have to」のことをなるべく排除して近づけないできたっていうか。さっき建志君が言ってたけど、わがままに生きるとか、好き勝手にやるとか、そういう意味じゃなくて、自分のライフスタイル、ファミリー、フォーメーションでこの世界をまかり通っていくことのバランスを取るのが全てだから。そのためには我慢することもあったり、愛想笑いもするし、お世辞を言うときだってあると思うけど、絶対自分に嘘はつかない。自分の心の声は一番近くで聞いてやれるようにしてるし、それを信じ抜いてるから。いろいろ扉開いてくれたとかっていう言い方してくれたけど、建志君はやっぱ尋常じゃない勘の良さだし、その辺の役者が太刀打ちできなぐらい役者のピュアなマインドを持って現場にいた人です。すごいフラットにナチュラルに現場に居続けられるし、楽しんで吸収してる人だから、一緒にいて気持ちが良かったし、ピュアに物を作っていく喜びがすごくあった。もちろん榊監督しかり、品川(祐)さん、市川由衣ちゃん、スタッフもそうです。2週間だけだったけど、マルを追体験して生きさせてくれた。
 俺とマルはそんな近い性格の役ではないと思うんです。だからこそ追体験して生きてみると、すごく新鮮だったし、それを生き切ることができて、いまだに建志君が俺のことをマルって呼んでくれるような時間を過ごせてる。

降谷建志
──降谷さんは、窪塚さんと一緒だからやろうっていうところが大きかったですか。

降谷:うん、一番大きい。

──最初に会ったときに何か感じるものがあった?

降谷:それももちろんあったけど、日本の同世代で窪塚洋介を知らないやつはいないし。これは決めてることなんだけど、自分がちょっとでも魅力を感じた人間には寄ってこう、と。チャンスがあるならバンバンバンバン触れてこうって。うまが合わないとか、俺にとって魅力的じゃないなっていうのは、後で知りゃあいい。

窪塚:もっと早かったら多分、この人がOKしてないんじゃないかなと思う。会えたっていうか。そこはちゃんと段取りが必要だったことなのかもしれないですね。

──出演が決まってから、それほど間を置かずに撮影が始まったんですね。

降谷:結婚式で会って、大阪で会って、それから1カ月たってないぐらいかな。

窪塚:3回目はもう本読みだったから。

降谷:そうだ、3回目は本読みだ。この部屋で。

『アリーキャット』
(C)alleycat

──2週間の短い撮影期間でしたが、特に印象に残ってることは?

窪塚:いや、毎日濃かったからな。ちょっとしたエピソードも含めていろいろあるけど、品川さんがスープ持ってきてくれたりとか。

降谷:やばいね。

窪塚:あの優しさ。やっぱり現場に渦巻いてた”良い作品になってほしい”って思いが、品川さんにスープを作らせたんだと思う。

降谷:その日に撮影がアップした後からだからね、しかも。

窪塚:あ、そうだ、そうだ。

降谷:「お疲れでした」って帰って、「いいな、今日短けえんだ」ってみんなで言ってたら、夜、現場に戻ってきて、こんなでっかい鍋持ってきて。

──すごく良い現場だったんですね。

窪塚:いや、ほんとに。建志君のポルシェ乗っけてもらって移動したりとか。俺は大阪から来てるから、スタッフの車に乗せてもらって動いてたんだけど。タイミングによっちゃ建志君の横に乗って移動して、その間もずっと作品の話したり。リハしてるぐらいの感じで。

降谷:そう、その後に撮るシーンと全く同じシチュエーションで行って。

窪塚:朝方まだ暗い中、渋谷の雪の中で集合して2人でコーヒー飲んでたりとか。そういうオフってる時間に積んでた2人の時間もやっぱ100%影響してると思うし、もともとあったものを一気に濃縮でかき混ぜた時間だった。

降谷:逆にあれは2週間以上持たない環境だと思う。集中力も、その心身共にだけど、関係性も含めて。

窪塚:ハードだね。ハードコアな現場だったと思います。

降谷:マジで文字通り朝から晩までずっと、寝る瞬間以外ずっと一緒だからね。

窪塚:現場で寝てつないだりとかして。俺が寝てたら、なんか「はあ、はあ、」とか声が聞こえて。見たら建志君が腹筋していて(笑)。超ストイックだなと思った。夜中っすよ。俺は仮眠するとかって言ってんのに。腹筋してんですよ、現場で。

──それは日々欠かせないルーティンだったんですか?

降谷:いや。マルとか由衣ちゃんは立ち位置に入った瞬間にスイッチ入れようと思えば入れられるんです。技術としてね。俺はそういうことできないんで、ずっと緊張してるほかないっていうか。

窪塚:集中してる。

降谷:糸をピンと張ってないと。フニャッとしてるとこから、自分の力でピンって張れないんで。もう入ったときからビーンって張りっぱにしておく動作が必要だから、そのためにっていうことですね。1回寝ちゃったりとかすると、また滑走路をすごい助走に時間がかかるから、もう張りっぱにしとくっていう。

青くさいことを言ってくのがバンドマンだと思ってる(降谷)
インタビュー中の窪塚洋介(左)と降谷建志(右)
──お話を聞いていると、リリィと降谷さんというのはかなり違う人ですね。

降谷:うん、全然違う。

窪塚:どっちかって言ったら、性格的には逆かもしれない。

降谷:逆。確かに、確かに。

──それ、面白いですね。発見があったりするんじゃないですか、自分を鏡で見てるような感覚に。

窪塚:俺は今日もすごい面白いですね。自分がしゃべってる話を聞いてるみたいな気分になったりする。俺もその例えを使うな、とか。シェアできる感覚とかっていうのがすごく近いんだと思う。

窪塚洋介

──降谷さん、どうでしょう?

降谷:限りなく価値観が近いと思う。いつ何時でもマルは自分に正直。だから他人にも嘘をつかないっていうことだと思うんすけど。分かりやすく言うと。

窪塚:動物占いは正直者の小鹿です。

降谷:へえ、小鹿? 俺クロヒョウだったっけ。

窪塚:クロヒョウっぽいな。

降谷:それ、服が黒だからじゃない。

窪塚:おいおいおい。

降谷建志

降谷:でも、確かにそこは一番大きいと思う。嘘をつかれるのも嫌だから、人にも嘘をつかないっていう超簡単な理論だけど。でも、それを何歳になっても続けても通すっていうのが大変で。またそれを通してりゃいいって職業じゃないじゃん、エンタメだから。成功するとか、愛想良くとか。いろいろあるけど、嘘をつかない。自分に、誰かに正直にいるっていうのを一番大事に思っている。

──実際、それを貫くのは大変ですよね。

降谷:と思う。不器用スタイル、不器用だなと思う、見てて。

窪塚:でも、それしかないっすからね、もう他に選択肢がないっていうか。

降谷:嘘つこうとすると震えてきちゃうんでしょ(笑)。

窪塚:選択の連続だけど、毎日。例えば、今日はこれをやるとかやらないとか。だけど、その全部を俺は楽しめると思ってるんです。楽しめないことはやらないから。で、これをリリィとやると決めて船を出した去年から、決めたときからここまでもつながってる。取材があるとか、公開日に舞台挨拶するとかも含めて全部楽しめると思ったから、船漕ぎ出してるっていうか。選択する時に迷うことは多少あるかもしれないけど、もう直感で行く。それは胸がドキドキすんのか、あ、間違えた。ドキがムネムネすんのかってことです。

──迷うというと、映画の中である人物がマルたちに向かって「人生って一方通行の迷路みたい」と言う場面があって。

窪塚:返しがね。

──素晴らしかったんですが、それは映画を見ていただくとして、お二人はそういう感覚で今、生きてる?

降谷:俺は20年間やれてこれてるっていうのがあるんで。苦悩って受け取り方だから、忙しいとか寝れないとかやることが山積みだっていうのを苦悩と取るのか、充実と取るのかと。同じ仕事をするのも労働と取るのか、生きがいと取るのかっていうとこだと思うんです。その青くさいことを言ってくのが俺はバンドマンだと思ってるんで。俺は生きがいをやってる、労働じゃない。

窪塚:俺も。

窪塚洋介(左)と降谷建志(右)

──お二人は音楽の面でも、『Soul Ship』でコラボレーションされましたが。

窪塚:これ現場で、「次は俺がマルに恩返しするから」って言ってくれて。

降谷:間違いない。

窪塚:「曲やろう」って言ってくれて。俺はもうすでにその時点で恩返しとかのレベルじゃなくて、俺はこの人からいろんなものもらって、最高に楽しかったから十分だったけど。

降谷:じゃあ、断ればよかったじゃん(笑)。

窪塚:ちゃうちゃうちゃう、聞いて、まだ。

降谷:「いいよ」って言えばよかった。

窪塚:聞いて。still speaking。

降谷:続けて、続けて(笑)。

窪塚:で、「俺のスタジオ来てくれたらいろんなこと見せられるし、洋介に伝えられる」って言ってくれたんですよ。そしたらほんとに卍LINE(窪塚洋介のレゲエDeeJayとしての名称)としても、ものすごい財産になるようなことをいろいろ教えてもらって。俺は降谷建志がDragon Ashになる瞬間を目撃したんです。すごいグッときて。建志君は未だに俺のことマルって呼ぶけど、俺は建志君て呼ぶのは、その経験がすごい大きかったんですよ。

降谷:マルがどういうポテンシャルを持ってるにせよ、絶対に俺なら引き出せるっていう、単純に音楽家としての自信があったんです。2週間さんざん世話になってるから、ちょっとでも恩返しがしたいっていう気持ちでしかないんですよ。

──お二人の出会いから、素敵な作品がさらに生まれたのは素晴らしいですね。

降谷:こちらもうれしいです。

窪塚:ありがとうございます。でも俺らはここだけじゃないんで、この後ろに相当ややこしい仲間たちいっぱいいますから。

降谷:だから、どんどん、どんどんややっこしくなってきて。

窪塚:ややこしい。

降谷:ややこしさのほうが前に出ちゃうようになりますから、だんだん。

窪塚:そうなんですけどね。

──それも楽しみに。

降谷:頑張りましょう。

text:冨永由紀/photo:小川拓洋
ヘアメイク(窪塚洋介):佐藤修司〈botanica〉/ヘアメイク(降谷建志):尾原小織

窪塚洋介
窪塚洋介
くぼづか・ようすけ

1979年5月7日生まれ。神奈川県出身。『GO』(01年)で日本アカデミー賞新人賞と史上最年少で最優秀主演男優賞を受賞。主な映画出演作は『ピンポン』(02年)、『凶気の桜』(02年)、『俺は君のためこそ死ににいく』(07年)、『東京島』(10年)、『ヘルタースケルター』(12年)、『愛の渦』(14年)など。マーティン・スコセッシ監督の『沈黙-サイレンス-』(16年)のキチジロー役で世界からも注目され、今後も海外の作品への出演が控えている。2006年からはレゲエDeeJay 卍LINEとして音楽活動を開始。降谷建志も参加したアルバム『真説〜卍忍法帖〜福流縁』が発売中。

降谷建志
降谷建志
ふるや・けんじ

1979年2月9日生まれ。東京都出身。1997年にDragon Ashでデビュー。
15年から自身初のソロプロジェクトをスタートさせ、バンドと並行する活動を続けている。俳優としては13年にNHK大河ドラマ『八重の桜』に出演。11月からは大河ファンタジー『精霊の守り人III 最終章』(NHK)に出演。