1985年3月24日生まれ、広島県出身。2000年にデビューし、ドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)のヒロイン役で注目され、数々のドラマや映画で活躍。ドラマでは『白夜行』(0)『ホタルのヒカリ』シリーズ(07,10)、『JIN』シリーズ(09,11)、『義母と娘のブルース』(18)、『元彼の遺言状』(22)のほか、2013年大河ドラマ『八重の桜』に主演。主な映画出演作は『僕の彼女はサイボーグ』(08)、『ICHI』(08)、第52回ブルーリボン主演女優賞、第33回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞した『おっぱいバレー』(09)、『リアル〜完全なる首長竜の日〜』(13)、第37回ヨコハマ映画祭主演女優賞など6冠を受賞した『海街diary』(15)、『今夜、ロマンス劇場で』(18)、『はい、泳げません』(22)、『THE LEGEND & BUTTERFLY』(22)。
素肌むき出し、プロテクション無しのアクションは初体験
彼女のふとした仕草や表情、スタッフや記者に対するさりげない気遣いで現場の緊張感が和らぐ。どんな状況でも綾瀬はるかは自然体のまま、周囲の空気をふわっと軽くする。
だからこそ『リボルバー・リリー』で演じるダークヒロイン、小曾根百合の迫力とのギャップは鮮烈だ。
演じている役の雰囲気や本人が醸し出す親しみやすさから幅広い層に愛されている綾瀬だが、実はキャリアの早い段階から、大切なものを命懸けで守る芯の強い女性を演じてきた。その意味では、1924年という大正時代の東京で、リボルバーを手に未来を救うために咲く“華”とも呼びたい百合というキャラクターは、現時点での集大成とも言えそうだ。
長浦京の同名小説を原作に、行定勲監督が壮大なスケールで描く大作に主演した彼女に話を聞いた。
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綾瀬:そうですね。諜報機関で育成され、人殺しをしていた過去があり、その生い立ちも含めて、なかなかないストーリーですよね。ある種のファンタジー感もあって、そういう話がもともと好きなので、面白いと思いました。女性で銃の使い手というのも珍しいです。百合は玉の井にあるランブルというカフェーの経営者でもありますが、これも今までやったことのない、すごく大人っぽい役です。かっこいい女性だけど、実は母性が強くて優しい人。クールなので、一見そう見えないのですが。とても正義感の強い、魅力的な人だと思いました。
綾瀬:本格的なガンアクションはあまりやったことなかったので、銃を撃ちながら、かっこ良く決まる様子を研究しました。プロのスナイパーのように構えられるように、あとは弾の入れ替えも。銃弾は6発しか込められないので、淡々と焦らずに当たり前の作業のようにこなせるよう、手に慣らすことを練習しました。
リボルバーは大きくて重いので、それを持ちながらのアクションも大変です。相手に当たってけがをさせたりしないように、それから撃つ時とそれ以外の時の持ち方も細かく練習したり。とにかく慣れることから始めました。
綾瀬:そうだと思います。重いし、引き金が固いです。ずっと続けて撃っていくと手にまめができそうで、握力がすごい必要でした(笑)。本番で何回もやっていると手がプルプルし始めて(笑)。
綾瀬:ジェシーさんとのアクションは、かなり荒々しかったですね。「壁にガン!とぶつけて」と指導されました。私は黒いドレスで腕が出ていたから、けがしないように、かわしたりして。ジェシーさんもすごい気を使ってくれました。アクション演技って、大抵は肌身を隠して肘当て、膝当てを絶対するんですけど、今回は衣装の点でもそういうプロテクション無しで、私にとっても初めてのことでした。ドレス姿でもできるアクションに変えたり、探りながらやっていました。
綾瀬:例えば蹴るとき、ただ蹴るだけだと、却って嘘っぽく見えてしまいます。蹴るこの瞬間だけ本当に力を入れて、インパクトを入れるみたいにする。それがないと、すごく嘘っぽく見えるから、お芝居と一緒で、本気で蹴る気持ちで臨みます。ただ格好だけじゃなくて心でアクションもすると、全然見え方が変わるな、といつも思いますね。
綾瀬:はい。自分がやっているのを見て、何が違うんだろうと研究していったら、教えられたことをただやるだけでは単なる流れになってメリハリもないことに気づきました。それこそ本当に殺すぐらいの勢いで演じると、動きに殺意が出るというか。……今話していて思ったんですけど、演じている時は相当狂暴な人になっていますね(笑)。
綾瀬:そうかもしれないです。そういう細かいところを磨いてくと、もっとキレが出たり。撮ってもらって、何が足りないのかを研究して、直せるポイントは全部細かいところまでピックアップして、納得するまで練習します。繰り返しになりますが、「気持ち入ってないと、本当に全然駄目だな」と思うんです。だから毎回、骨を折るくらいの意気込みで稽古もするんですが……、複雑ですよね。相手の役者さんにけがをさせてはいけないのはもちろんですが、殺してやるぐらいの気持ちじゃないと、嘘っぽくなってしまう。複雑な心境でやっています。
シシド・カフカとのシーンで感じたシスターフッド
綾瀬:シシド・カフカさんが演じる奈加さんは、百合の台湾時代から一緒だし、どこかでもうバディ、通じ合ってる感じですよね。銃撃シーンでは百合と2人で余裕を持った感じで銃弾を数えている。あのシーンは好きですね。琴音ちゃんが演じた琴子は、百合が面倒見てかわいがっている子で。家族のような感じもあって、いいですよね。
綾瀬:すごくこだわるところは粘って粘って、いいものが撮れるまで結構粘られます。だけど、「こうした方がやりやすいです」と提言があると、現場で臨機応変に対応してくださる。器の大きい監督だなと思いました。現場ではすごくやりやすかったです。
綾瀬:本当に細かいところですが、霧の濃さとか(笑)。望む状態になるまで「もう一回」「もう一回」と。アクションでも、今すごくかっこいいのができたな、という時に「いや、敵の動きが遅かったから、もう1回」と言われたり(笑)。
綾瀬:……(少し考え込んでから)、今ぱっと思いついたのは、謎の男、南役の清水(尋也)さんと戦っているシーンです。霧を抜けた後、急に現れて戦い出す1対1のシーンが好きですね。池の中での対決ですが、幻想的ですごくかっこいいと思います。
綾瀬:池に入るから滑っちゃって(笑)。清水さんも何回も転んでしまって、そのたびに服を乾かして。それを何回もやって、やっとお互いがぴたって決まった(笑)。その瞬間は「やったー!」となって(笑)、ちょっと大変な思いもあったんで、余計に印象に残っています。
綾瀬:今回、行定監督が初めてアクションを撮るということで、ただのアクションだけじゃなくて、敵が見えない状態で霧の中を行くところは“舞うように”という演出でした。そのシーンにはアクションの先生と舞の先生もいらっしゃって。それをミックスさせて、しなやかなダンスのような感じのシーンがありますね。
「腕がきれいだから出したい」と行定監督は言った
綾瀬:ああいう戦いに行くのに「身だしなみが大事だ」って、無謀にも腕を出して戦いに行く(笑)。「ええー?!」という感じですけど(笑)、かっこいいですよね。
綾瀬:ありがとうございます。生地と百合の花の縫い方、糸が違うんです。百合の花のところだけ濃くなって、百合の花が赤く咲いてるみたいな、そういう意味でデザインされているらしいです。
綾瀬:そうですね。一番印象深いですね。あんな純白のドレスで戦いに突っ込むなんて、みたいなところもある(笑)。よく考えられているきれいなドレスです。
綾瀬:百合さんは洗練されていますよね。当時の女性は着物の方が多かったと思いますが、彼女は異国に住んでいたこともあって、ドレスにブーツを履いて。おしゃれでちょっと進んでる人なのでは、と思いました。いつも帽子をセットで合わせていたり、素敵だと思いました。着物を着るシーンもあって、やはり百合柄のものですが、それも好きでした。
綾瀬:ベージュのドレスですね。
綾瀬:うん。すごくきれいでしたね。
綾瀬:腕とか素肌なので、接近戦だと人に当たったり、転がったりすることもあるので、こけるにしても(笑)なるべくうまく受け身をして、傷ができないように意識しました。それでも絶対に生傷は避けられないんです。物語が進むにつれて百合の傷も増えていくので、リアルな傷を利用して、メイクさんが作ってくれたこともあります(笑)。
綾瀬:はい。私も初めてでした。腕も背中も出ているので、最初は「いや、できない。こんなに腕が出て大丈夫ですか? 上に(別の服を)着たいんですけど…」と言っていました(笑)。
綾瀬:監督は「腕がきれいだから出したい」とおっしゃってくださって。
綾瀬:ちょうどインする1ヵ月前ぐらいまで連続ドラマの撮影をやっていて、結構忙しくて全然運動していなかったんです。1ヵ月で頑張って体力を戻さなきゃ、とトレーニングも始めて、撮影時にはちょっと締まってきたな、みたいなちょうどいい感じだったのかもしれない(笑)。
綾瀬:小曾根百合さんは、過去に多くの悲しみを経験しているからこそ、戦争が無意味、人を殺しても無意味ということも分かっていると思います。そして、それを知らしめるために自分の身をもって戦いに挑んでいくのは、すごく大人っぽい人ですよね。勢いだけじゃない人です。でも、彼女だけが特別ではなくて、痛みを知る人はみんなそうなのかもしれない。そういう痛みを知っているからこそ、本当に人に優しくできたり、守るために自分を犠牲にしてでも頑張れる強さ。百合さんはそれを持っている人ですね。
悲しい過去に苦しんだ時期もあって、それを受け入れて生きる選択をしていく。日々、起きていく物事に対してその意味付けをするのが自分だとしたら、ポジティブに進めるための捉え方をできる人というのはかっこいいなと思うんです。今の時代の女性のヒーローというのは、自分自身で自分を救えるというか、それができる人なんじゃないでしょうか。
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(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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