『破戒』間宮祥太朗インタビュー

60年ぶりに蘇る日本文学の名作! 気迫と熱演で難役に挑む

#破戒#間宮祥太朗

間宮祥太朗

令和という時代に、新たな『破戒』を作りたかった

日本を代表する文豪・島崎藤村が、差別や偏見といった社会的問題を描いた不朽の名作「破戒」。これまでに木下恵介監督や市川崑監督といった巨匠たちが挑んできた本作が、60年ぶりに再び映画化され、注目を集めている。

主演を務めるのは、映画『東京リベンジャーズ』やドラマ『ナンバMG5』など、話題作への出演が立て続いている間宮祥太朗。被差別部落出身であることを隠しながら、葛藤して生きる主人公の丑松という難しい役どころを見事に演じ切っている。そこで、役作りで意識したことや現場での思い出、そして自身が抱く信念などについて語ってもらった。

【動画】間宮祥太朗、生き急いでいた20代から30代へ/映画『破戒』インタビュー

──本作は名だたる監督たちが手掛けてきた作品でもありますが、そんななかで主演を務めることになったお気持ちからお聞かせください。

間宮:過去に映画化されていることに対してのプレッシャーというのは、ありませんでした。それよりも感じていたのは、令和という時代に新しい『破戒』を作りたいという前田和男監督の思い。だからこそ、自分も参加したいという気持ちになりました。当然のことながら、60年前の作品と比べられることはあると思います。ただ、僕のなかにはそこと比べる意識みたいなものはなく、原作とも違うひとつの新しい映画として捉えているというのが正直な気持ちです。

『破戒』
2022年7月8日より全国公開
(C)全国水平社創立 100 周年記念映画製作委員会
──前半と中盤以降で目の動きを変えるなど、かなり繊細に演じられている印象を受けました。ご自身では、どのようにして役作りをされましたか?

間宮:ざっくりとした感覚というか、抽象的な話になってしまいますが、最初は鏡のようにまったく動きのない水面みたいなイメージを持って現場に臨みました。そこからさまざまな出会いや目の前で起きる出来事が小石のように投げ込まれるたびに、表面に波紋が生まれていく。石が小さければ薄い波紋がパーッと広がるだけですが、石の数や大きさによっては、泡になったり、波打ったりしていくような感覚でした。

後半に行くにつれて、その波紋がどんどん大きくなっていきますが、最後には再び何もない状態。ただ、それは自分が抑えている状況ではなく、自然になっているようなイメージが自分のなかにはあったので、そういったことが見ている方にも伝播していけばいいなと思っています。

──普段、役作りをするときもそういったイメージから入ることが多いですか? それとも、この役だったからいつもとは違うアプローチをされたのでしょうか。

間宮:作品にもよりますが、わりと抽象的であることが多いかもしれませんね。それは役を演じているときだけでなく、普段生活しているなかでも同じで、明確に言語化できることのほうが少ないと思っているので。「何となくこういう感じなんだよね」みたいなことってよくありますが、それをわかりやすく具現化しようとすると、どうしても抽象的になってしまう気がします。

間宮祥太朗

──なるほど。また、親友役の銀之助をプライベートでも親交の深い矢本悠馬さんが演じられていますが、以前から親友でもあるおふたりだからできたこともあったように感じました。

間宮:悠馬が演じた銀之助というのは、丑松にとって大事な存在で、すべてではなくても寄りかかれる部分がある人物。その役を演じるのが、もともと自分とそういう関係性がある矢本悠馬という役者であることは、すごくやりやすかったです。すでに信頼関係もできあがっている状態で入れたので、楽だったなと思います。

──この現場で印象に残っている矢本さんとのエピソードがあれば、教えてください。

間宮:今回は、焼肉を食べに行ったりしましたね(笑)。そもそも作品を一緒にするのも久しぶりでしたが、悠馬が結婚したり、コロナ禍になってしまったりしたこともあって、最近は前みたいにしょっちゅう会っていたわけではなかったので、久々にゆっくり顔を合わせられた気がしました。

映画のなかで言うと、自分としてすごく感触がよかったのは、階段の上で丑松が銀之助に自分の心情を打ち明けるシーン。信頼感のある悠馬とできたからというのはあったと思いますが、悠馬も「いいシーンだね」と言ってくれていたので。悠馬が言ってくれると僕もそうだなと思えました。

──撮影の合間や撮休の間は、おふたりでどのような話をすることが多いですか?

間宮:もともと芝居の方法論とか、アプローチの仕方とかも話さないほうなので、作品の話もしないですね。でも、言語化はできないけれど繋がり合っている部分みたいなものはお互いに感じているんじゃないかなと。なので、普段はくだらない話をしてコミュニケーションを取っています。

自分にとっての“戒め”は、祖父からの言葉

──劇中では、丑松が父からの強い戒めを受けていますが、間宮さんご自身が“戒め”とされているような言葉はありますか?

間宮:祖父に昔から口酸っぱく言われていたのは、「その環境ごとに適応できる人間であって欲しい」ということ。これは小さい頃に聞かされていたからこそ、いまでもすごく残っているような気がしています。祖父の言葉のおかげで、環境が変わるときでも不安を感じるより、どうしたらそこで自分のスタンスを見つけられるかを考えるようになりました。

──映画でもドラマでも、主演として現場に立つことが多いですが、主演を務めるうえで大事にしていることはあるのでしょうか。

間宮:主演だからこうしようみたいなことは、特にないですね。というのも、作品によってチームが持つ雰囲気も違いますから。そういったこともあって、「主演だから」というピンポイントなものではなく、「この作品だったらどうするか」みたいな感じです。

破戒

──29歳を迎えたばかりですが、20代最後の年はどのように過ごしていきたいとお考えですか?

間宮:どういうふうに生きていきたいかというところに関しては、変わらないかなと。ただ、30代に入れば、求められる役や俳優として求められるものは変化していくと思うので、20代の勢いとは違って、その人が醸し出す歴史みたいなものを出していきたいという意識は少しあります。20歳くらいの頃、友人から「30代の祥太朗がどういうふうに生きているのか想像できない」と言われたこともありましたが、せっかくなのでいろんな体験をして、いろんなことを知りたいです。でも、考えているのはそれくらいで、自分の生き方みたいなところでは変わらない気がします。

──その変わらない部分やご自身にとっての信念というのは、具体的にはどのようなことですか?

間宮:信念というほど、高尚なものは持っていないですが、たまに忘れてしまいそうになるのは、とにかく毎日楽しく幸せでいられるようにしたいという思い。いつ何が自分に降りかかるかはわからないというか、明日何が起きても不思議ではないと考えているところがあるので。

間宮祥太朗

──そんななかで、いましたいこともあるのではないかなと。

間宮:子どものころに父とフライフィッシングをしていたことがあったので、時間ができたら今年のうちに釣りをやりたいですね。といっても、もう10年以上やっていないので、ほぼ初心者ですが(笑)。それを久しぶりにやってみたいなと考えています。

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──最後に、作品を見る方に向けてメッセージをお願いします。

間宮:まずは、この作品をひとりでも多くの方に見てもらいたいと思っています。最近は映画館に行かない人も増えているようですが、映画館のなかで映画を見たあと、外に足を踏み出したときに、言語化できなくても精神的に変化している部分があるはずです。そんなふうに、自分というものを動かす何かがあるのが映画のすごさであり、僕が映画を好きな理由でもあります。そして、この作品にはそういう力があると思っているので、ぜひ映画館で見ていただいたいです。

(text:志村昌美/photo:小川拓洋)

間宮祥太朗
間宮祥太朗
まみや・しょうたろう

1993年6月11日生まれ、神奈川県出身。2008年にTVドラマ『スクラップ・ティーチャー ~教師再生~』で俳優デビュー。その後、幅広いジャンルで数々の話題作に出演して人気を獲得する。2017年には『全員死刑』で映画初主演。翌年にはNHK連続テレビ小説『半分、青い。』に出演し、全国的な注目を集める。主な出演作は、ドラマ『麒麟がくる』や『ナンバMG5』、映画『殺さない彼と死なない彼女』や『東京リベンジャーズ』など。