『ミラベルと魔法だらけの家』バイロン・ハワード監督、ジャレド・ブッシュ監督、チャリーズ・カストロ・スミス共同監督インタビュー

ディズニーの長編アニメーション60作目はマジカルなミュージカル・ファンタジー!

#アニメ#アニメーション#ジャレド・ブッシュ#チャリーズ・カストロ・スミス#ディズニー#バイロン・ハワード#ミュージカル#ミラベルと魔法だらけの家

ミラベルと魔法だらけの家

『ズートピア』監督、『モアナと伝説の海』音楽家ら豪華スタッフが結集!

『ミラベルと魔法だらけの家』
2021年11月26日より全国公開
(C)2021 Disney. All Rights Reserved.

ディズニーの長編アニメーション60作目となるオリジナル・ミュージカル・ファンタジー『ミラベルと魔法だらけの家』が、11月26日より公開される。

『白雪姫』(37年)『シンデレラ』(50年)『美女と野獣』(91年)から、映画史に残る大ヒットを記録した『アナと雪の女王』(13年)まで。息をのむマジカルな映像と、楽しく美しい楽曲で人々の心を打ち、数々の伝説を生み出してきたディズニー・アニメーション・ミュージカル。長編アニメーション60作目となる記念すべき作品に、『ズートピア』(16年)の監督や『モアナと伝説の海』(16年)の音楽家を筆頭に、ディズニー史上最強の豪華スタッフが結集。新作としては4年ぶりとなる、魅惑のオリジナル・ミュージカル・ファンタジー『ミラベルと魔法だらけの家』が誕生した。

舞台は、南米コロンビアの山奥、“エンカント”と呼ばれる魔法の力に包まれた不思議な家。家長のお祖母ちゃんをはじめ、この家で生まれたマドリガル家の大家族は、みなそれぞれ5歳になると、家から“魔法のギフト(才能)”と呼ばれる特別な力が授けられる。ただ1人、少女ミラベルを除いては……。2人の姉もいとこたちも、みんな1人1人違ったユニークな魔法を使えるのに、ミラベルだけは何の魔法も使えない。「なぜ私だけ魔法が使えないの?」と思い悩むミラベルはある日、家の中に大きな“亀裂”があることに気づく。その“亀裂”は、世界から魔法の力が失われていく前兆だった! なぜ、ミラベルだけが魔法のギフトを授けられなかったのか? そして魔法だらけの家に隠された、驚くべき秘密とは?

アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した『ズートピア』以来の再タッグとなる2人の監督バイロン・ハワードとジャレド・ブッシュ、さらに共同監督のチャリーズ・カストロ・スミスにインタビューを行った。

日本版ミラベルは19歳の新人女優・斎藤瑠希!

──この映画は「家族」というコンセプトから始まったそうですが、それをどう描くか、早くからアイデアがあったのでしょうか?

バイロン・ハワード(以下、BH):みんなが共感できる話にしたかったから、僕らはまず、みんなに共通するものは何かを考えるところから始めた。すぐに出てきたのが「家族」だったんだ。ただ、家族についての物語は散々作られてるから、他とどう差別化できるのかを考えた。それで、家族の素晴らしさを描いた映画はたくさんあるけど、家族の大変さ、家族の難さを伝える映画は少ないことに気づいたんだ。自分が家族に忘れられていると感じることもある。家族のことを愛しているのにそれを伝えるのが難しいこともある。僕らは家族のことをもっと正直に語りたいと思った。家族の素敵な複雑さについて語りたかった。そこから大家族の話にしたのさ。これならみんなが共感できると思ったんだ。

──シェリースがこのプロジェクトに参加したのは、いつからですか?

シャリース・カストロ・スミス(以下、CCS):私が入ったのは3年ほど前。その頃には、バイロンとジャレドが作品の舞台をコロンビアにすると決めていた。マジカルな家、マジカルな家族、その中で女の子1人だけが魔法を使えないことも決まってたわ。私の興味を惹いたのは、魔法を使えないミラベルのキャラクターよ。家族の中でひとりだけ置き去りにされるのは、どんな気持ちだろう? 私は彼女の心の中に入っていきたいと思ったの。もうひとつ興味を持ったのは、ミラベルとおばあちゃんの関係。そこには複雑さがある。ミラベルは一家の長であるおばあちゃんに気に入られたいと思ってる。もっと小さい時はおばあちゃんと仲が良かったのに、成長と共に少し距離ができてしまって、今また近づこうとしている。私はそこに感情的なものを見つけたの。

──(シャリース・カストロ・スミス監督に)あなたはホラーを多く担当してきていますが、違うジャンルに挑むのはいかがでした?
ミラベルと魔法だらけの家

CCS:確かに、私のバックグラウンドはこの映画と全然違うわ。だけど、ジャンルにかかわらず、良いストーリーを語るためには地に足のついたキャラクターを描くことが大事。それはホラーでも、この映画でも同じよ。私は『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』を手がけた。家は家でも、この映画の家とは全然違っていたわ(笑)。これは家族についての物語なので、幅広いパーソナリティを出してくることは重要だった。観客に、自分の家族みたいだと思ってもらいたいから。ここには14人の主なキャラクターが出てくる。その人たちの間にはそれぞれの関係がある。この人たちが葛藤する様子、それにこの人たちがお互いを愛しているのだということ、そういったところのどこかに、人は自分につながるものを見てくれるのではないかと思う。

BH:シャリースについて褒めさせてもらえるかな。僕とジャレドが彼女に来てもらいたいと思ったのは、彼女がマジカルでスーパーナチュラル神秘的なことをとても共感できるように書くからだったんだ。彼女の書いた戯曲を読み、すばらしいと僕らは思った。郊外に住む家族が奇妙でダークなことに直面していくという話なんだが、彼女は見事な形でやっていたんだよ。それは僕らがこの映画に必要としていることだった。

──ミラベルは本心では辛いのに表では明るい態度を取ります。そこに多くの人が共感すると思いますが、どうやってこのキャラクターを作り上げたのですか?

CCS:私は脚本家として自分自身の経験をかなり取り入れたわ。自分はどんな人間なのか? どこに属しているのか? 14歳の頃、そういうアイデンティティの危機を体験したの。私とジャレドが書いた脚本の他に、ミラベルの声を担当したステファニーもキャラクター創りに貢献したわ。彼女は即興のスキルで、私たちが考えたことをもっともっと良いものにしてくれた。彼女はコミカルで感情的な演技もうまい。シンガーとしても最高。私たちが作ったものを予想しなかった素晴らしいレベルに引き上げてくれた。

典型的なヒロインではなく、欠点があるからこそ愛されるキャラクター

──ミラベルは見た目もチャーミングです。ここに落ち着くまでには試行錯誤があったかと思いますが。

ジャレド・ブッシュ(以下、JB):ああ、すごく時間がかかったよ。僕らは観客がリアルな人間だと感じ、愛してくれるキャラクターにしたかった。欠点があるけど、それもまた可愛く感じられるようなね。彼女は典型的なヒロインじゃない。そこに多くの人が共感してくれると思うよ。ミラベルを作るのには、キャラクターデザイナー、モデラー、3Dデザイナーなど優秀なアーティストが関わってる。完成までには、いくつものバージョンがあった。彼女は誰もが「自分が知ってる人」と感じられるようなキャラクターでなければならい。動き方もちょっと変わったものにした。不完全だからこそ信憑性があり、本当に生きている人みたいに感じられるんだ。彼女を作るプロセスは楽しくてエキサイティングだった。これまでに見たことがないようなキャラクターだからね。なにしろ眼鏡をかけているんだよ(笑)。

BH:眼鏡はジャレドの思いつきで、しかも早い段階での提案だった。そしてシャリースが子どもの頃に日記を書いてた話を聞いて、ミラベルが日記を身につけているという設定を思いついた。彼女の考え、詩、好きなもの、大事なことが表に出ているんだ。

──ディズニーのプリンセスが眼鏡をかけているのが素敵ですね。

JB:でしょ? そういう時代なんだ(笑)。

──ミラベルの他にお気に入りのキャラクターはいますか?

BH:みんなそれぞれにお気に入りのキャラクターがいるけど、ペッパとフェリックスのカップルは人気だよね。僕も彼らが大好き。彼らはとても楽しい。フェリックスはマウロ・カスティロが演じてる。彼はいつもエネルギーに溢れていて、誰にでもフレンドリーなんだ。彼自身のそんな人柄がフェリックスにも反映されてるんだ。ペッパはキャロリナ・ゲイタンが演じた。ペッパにはちょっと心配性な雰囲気とユーモアがある。キャロリナは、ペッパが感情を隠せないという部分を楽しんだようだよ。彼女の感情はそのまま天気に反映されるんだ。彼女の夫は、彼女のそういうところも愛してる。このふたりが僕のお気に入りだね。君たちは?

JB:僕はアントニオが大好き。彼は動物と話ができる。僕の息子も動物が大好きなんだ。アントニオは僕自身の夢だよ。僕もトゥーカンと話して何を考えているのか知りたいよ。アントニオは無邪気な良い子。いろんな動物と友だちになれる。彼には共感できるだけじゃなくて嫉妬も感じるよ(笑)。

CCS:私はミラベルのお姉さんのイザベルね。彼女は見た目のデザインも動きもとても美しい。ミラベルとの関係も面白い。あのふたりはあまり仲が良くない。ふたりはお互いのことをずっと間違った形で愛している。だけど、あとからイザベルが何を考えているかが分かり、ずっと奥の深いキャラクターだってことが判明するの。見た目がああだから、人は想像もしてなかった。ダイアン・ゲレロは素晴らしい演技をしてくれたわ。イザベルはスペシャルで楽しい存在だと思う。

──魔法のアイデアはリサーチ旅行でコロンビアを訪れた後に生まれたそうですね。ディズニー・アニメーションは繰り返し魔法を描いてきました。それをどう新しいものにするのか考えるのは大変でしたか?

JB:初期の頃、僕らは魔法を登場させたいとは考えてなかった。でも、南アメリカでは、マジカルリアリズムが文化に深く根付いてる。コロンビアでは特にね。日本にもあるよね。宮崎駿もそこからインスピレーションを得ているように思う。僕らは魔法を感情から、とても個人的な瞬間から生まれるものとして描きたかった。それをミュージカルでやるのは楽しいだろうと思ったんだ。感情の動きで、すごいマジック現象が起きるんだよ。『アナと雪の女王』もその辺りを巧くやったけど、僕らは魔法をそれぞれのキャラクターの人柄の一部にしたかった。だから、みんな違うことをやる。ヨーロッパ風の魔法ではなく、マジカルリアリズムに寄せることで、過去にないユニークなものになったんだ。

──コロンビアをステレオタイプに描かないように工夫したことはありますか?

BH:いい質問だね。僕はコロンビア人にたくさん質問をしたよ(笑)。僕らには友だちがたくさんいて、その人たちは正直なことを言ってくれた。ただ、コロンビアというのは多くの国がひとつに詰まったようなところなんだよ。だから、ひとりだけのコンサルタントに聞くんじゃだめなんだ。あの国の多くの場所の人たちからできるだけ多くのことを聞かないと。それは楽しかったよ。いろんな面白い話を聞けたからね。それらのリサーチから、人柄についての多くのアイデアも得られた。その作業を重荷だと感じる人もいるだろうけど、僕らにとってはガソリンだった。自分や自分の家族、自分の経験について僕らに語りたいと思ってくれた人がたくさんいてくれたのはありがたいことだよ。

CCS:俳優さんたちも自分の経験を語ってくれたわ。具体的なことを言ってくれるのは、とても手助けになった。コロンビアのカルチュラル・トラスト(コンサルタントの人たち)と俳優さんたちの演技のおかげで、この映画は細かいところまでリアルになったと思う。

JB:同感だね。それにコロンビアで時間を過ごしたことも大きかった。あの場所にいて、いろんなところでいろんな人たちに会ったこと。コロンビアはとても大きな国で、すごく多様。バイロンが言ったように、多くの国がひとつに詰まってるんだ。情報はできるかぎり得ようとしたけれど、実際にそこに行って経験できたことは、このストーリーを語る上で非常に貴重だったよ。

ソングライターと脚本家の素晴らしいコラボレーション

──作曲家のリン=マニュエル・ミランダとの仕事はどうでしたか?

BH:素晴らしかったよ。彼は制作の初めからずっと重要なパートナーだったんだ。コロンビア旅行にも同行してくれた。ソングライターがそんなに早くから関わるのは稀なんだよ。彼と一緒にコロンビアのあちこちを訪れて、違ったタイプの音楽を聴いた。彼はスポンジのようにその情報を吸収して、キャラクターにたっぷりと愛情を注ぎ込んでくれた。作曲家のジャメーン・フランコも、この映画のためにとても美しい曲を書いてくれた。今作の音楽チームは最高だ。

──この作品には魔法があり、セリフがあり、歌がありますが、どこから歌にするかをどうやって決めていったのでしょうか?

ミラベルと魔法だらけの家

JB:大事なのはキャラクターを理解していること。僕とシャリースはキャラクターをひとりひとり細かいところまで考えた。バックストーリーとか、何が好きで嫌いなのかとか。そんなふうにコラボレーションしていったんだ。リンともずっとやりとりをしたよ。ただ歌を書いてもらうのではなくてね。特定のキャラクターの歌がどんなふうに聞こえるのかということについて、僕とシャリースはリンからたくさんのインスピレーションを得たよ。それを脚本に入れていくんだ。そうやってずっと変化しつつ形作られていったのさ。それは、常に発見のある、とても楽しい過程だった。ストーリーを作ろうと思った時には予想もしていなかったことが、いざ中に入ってみると思わぬ形で息吹を持っていくんだよ。

CCS:キャラクターを形作っていく上で、リンの貢献は大きかったわ。彼がそれぞれのキャラクターのためにどんな歌を書くのかも、私とジャレドが書く脚本に影響を与えてる。それがまたリンに影響を与えるの。今作では音楽と脚本の素晴らしいコラボレーションがあったのよ。

──今作にはどんな違った音楽のスタイルがありますか? また、一番興奮を感じる曲はどれですか? 観客にとくに聞いてほしい歌はありますか?

JB:それは答えるのが不可能な質問だな。この映画には8つの曲がある。そこにはとても違ったジャンルの曲、違ったリズムやサウンドが混じっている。初期の段階から、リンは今作の舞台がコロンビアであることを喜んでいた。コロンビアには違ったタイプの音楽がたくさんあるからだ。今作には、レゲエにインスピレーションを得たような、今日ラジオで聞けるような曲もあるし、100年前のフォークソングみたいな曲もある。それら全部を観客に聞いてもらえることに興奮を覚えるよ。すごく幅広いから、みんなきっと驚くと思う。

もっと写真を見る

ディズニー・アニメーション60作目に参加するということ

──今作はディズニー・アニメーションの歴史で60作目になりますが、それについてはどう感じていますか?

CCS:長い伝統を持つスタジオの歴史の一部に加えてもらえたことは、とてつもなく光栄よ。このスタジオは100年近く続いてきたの。送り出す作品は進化を続けていて、私たちはそれをずっと見てきた。ディズニーの作品は世界中の人々に夢を与えてきたの。その一部に自分が参加できたなんて感動する。しかも60作目よ。すごいことだわ。

BH:僕はこのスタジオに長年勤めてる。ここに入ったのには理由がある。僕はこのスタジオの歴史が好きなんだ。ここにいる人々は過去のディズニーの作品から学んで伝統を継承してきた。このスタジオは僕らが生まれる前から物語を創り続けてきたんだ。ディズニーの作品は何世代にも渡り、何度も、何度も、世界中の家族を楽しませてる。すごいことだよ。その遺産の一部でいられることは本当に光栄だ。これからの10年に公開される映画についても僕は興奮してるよ。ここには新しいフィルムメーカー、新しいアイデアがたくさんあるんだ。ディズニー・アニメーションの映画は、どんどん幅広くなっている。それはとてもエキサイティングなことだ。65作目、70作目を待ちきれないよ。

JB:このスタジオは今、新しい才能を積極的に迎え入れている。その一方でウォルト・ディズニーと一緒に仕事をしたバーニー・マンソンが、僕らの映画を見て感想を言ってくれたりするんだ。あまりの幅広さに驚いてしまうよ。この会社はすごく昔に生まれて、素晴らしい物語をたくさん作ってきた。今もそれは続いてる。60作目に関われたことは光栄だ。とても嬉しく感じてる。

ジャレド・ブッシュ
ジャレド・ブッシュ
Jared Bush

1974年、メリーランド州出身。プロデューサー、監督、脚本家。プロデューサーとしてはディズニーのTVアニメ『出張ヒーローZERO』、脚本家としては『モアナと伝説の海』(16年)に参加。バイロン・ハワード、リッチ・ムーアとともに『ズートピア』の共同監督/共同脚本家として知られる。

バイロン・ハワード
バイロン・ハワード
Byron Howard

1968年、日本の青森県三沢市生まれ。ディズニー・アニメーション所属のアニメーター、監督、脚本家、プロデューサー。エバーグリーン州立大学卒業後、94にディズニー・アニメーションに入社し、アニメーターとして『ポカホンタス』(95年)『ムーラン』(98年)『リロ・アンド・スティッチ』(02年)などに参加。クリス・ウィリアムズと共同監督を務めた『ボルト』(08年)で監督デビューし、『塔の上のラプンツェル』(10年)『ズートピア』(16年)などのヒット作を手掛けてきた。