『ヌイグルマーZ』
惑星ドムホから地球へやってきた綿状生命体の最強戦士ドゥーマアはテディベア“ブースケ”に宿り、ブースケの持ち主・鮎川響子を守ると決意する。響子の叔母・夢子は何をやってもダメなダメ子だったが、ブースケから励まされてともに響子を守る使命を受ける。一方、人類をゾンビ化させる邪悪な計画が進められ、夢子たちにピンチが訪れる。しかし、奇跡が起こり、夢子とブースケは合体してヒーロー“ヌイグルマー”に変身したのだった!!
ロックバンド筋肉少女帯のボーカリストであり、パーソナリティや小説家など幅広く活躍する大槻ケンヂが手がけた小説「縫製人間ヌイグルマー」をもとに、一部で熱狂的な支持を得る『電人ザボーガー』や『デッド寿司』の井口昇監督がメガホンを取り、マンガ・ゲーム・カンフー映画にも精通する中川翔子を主演に迎えて映画化した『ヌイグルマーZ』。フゥ〜ッとこの解説だけでも一息つきたくなるほど1人ひとりのキャラが濃いわけだが、本作は、B級映画好きのための雑誌「映画秘宝」でつながる彼らがタッグを組んで作り上げた特撮ヒーロー・アクションだ。さらに彼らだけでなくヒーローの“ヌイグルマー”のデザインは『エヴァンゲリオン』シリーズに携わる鶴巻和哉とコヤマシゲトが手がけるほか、スタッフもそれ相応のメンバーがかためている。
興味あるものをつまみ食いだけしてる“ちょいヲタ”である私が、この喉が焼けそうなほど濃いヲタク映画に太刀打ちできるのか!?と決死の覚悟で臨んだが、これが口当たりも喉ごしもよく食べやすいこと。この手の映画にありがちな、自主制作映画のノリで好きな要素を詰め込んでみたものの何が映し出されてるのかさえサッパリわからんという事態にも陥らず、状況や成り行きも説明ゼリフできちんと説明もしている。ちょいヲタだけじゃなく、ヲタクの気もないノンヲタでもすんなりと入ってゆけるだろう。
もともと本作は、小説「縫製人間ヌイグルマー」のさらに元ネタである、大槻ケンヂが立ち上げたバンド“特撮”の代表曲の「戦え!ヌイグルマー」を原作としていたのだが、本編も完成された後になって原作表記は小説「縫製人間ヌイグルマー」となった。曲から小説になるときに原作表記が変わるなんて、そもそも原作者にこだわりがなくて原作に忠実でないことを語っているようなものじゃないか。劇中歌である大槻ケンヂ作詞の「シネマタイズ(映画化)」でも、勝手に話が進められて事後承諾で映画化の話が来るといった内容をオーケン本人が歌っている。まあ、そこは彼のいつものシャレのようだが、彼自身むしろ原作と映画化の違いを楽しむ姿勢を取っているとインタビューでも語っている。
では、ヌイグルマーというキャラクターを借りてきだけの“映画化”なのかというとそんなことはなく、擬似家族の絆やコンプレックスを抱く者たちへの愛、行き場を無くした同士の友情といったメンタル的なことから、“死霊の盆踊り”ならぬ、高円寺が舞台なだけに“死霊の阿波踊り”という見せ場も取り入れられ、原作の素材の良さはいかされている。登場人物の性別の変更などは些細なことと目をつぶろうではないか。原作の持つ異様なまでの熱っぽさには至らず、いくらか温度は低いが、換骨奪胎のいい例と言えるだろう。やはりヲタクはヲタク同士でリスペクト精神に溢れているものなのだ。
また、中川翔子“主演”も名ばかりでなく、れっきとした主演であったのも喜ばしい。ゴスロリ仕様もアクションもそこはかとなく漂う違和感がしょこたんらしく、自前であろうピンクのファーのヌンチャクさばきは堂に入ったもので、目がマジになってイキイキしていたのもまたしょこたんらしく微笑ましい。
欲を言えば、ヲタク映画らしくもっと小ネタを入れてもよかっただろうし、ゾンビのスプラッタシーンでは手作りのこだわり感ある血糊を使って欲しかった。せっかくゾンビはCGでなく特殊メイクの生身人間なのだから。傷口もないのにブチュブチュと血が吹き出ては消える、お手軽なCG血しぶきも今どきなB級感があっていいと言えばいいが。その辺りも原作の持つ、実はパンクというよりもポップなテイストを汲んでいるのかもしれない。
SFに特撮ヒーロー、ゾンビにゴスロリ、ロックとさまざまな要素を放り込んだごった煮だけど、ゲテモノではなく、トマト鍋ぐらいの軽い抵抗感といったところ。子ども向けとは言えないからちょっとスパイシーかもしれないが、万人受けする味つけで一口食べればつぎつぎと食が進む。もっと食べづらいほどの濃厚な味わいを期待したが、見た目よりも食べやすいポップな風味に原作の持ち味を思い出した。興味があればどうぞご賞味あれ。(文:入江奈々/ライター)
『ヌイグルマーZ』は1月25日より新宿バルト9ほかにて全国公開される。
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