ブリティッシュ・ロック史上、最もドラマティックな瞬間を記録

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『ジギー・スターダスト』
(C)Jones/Tintoretto Entertainment Co.,LLC 
『ジギー・スターダスト』
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『ジギー・スターダスト』
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『ジギー・スターダスト』
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…前編「急逝から一年、“出火吐暴威”の性を超越した妖しい絡みに狂喜!」より続く

【映画を聴く】『ジギー・スターダスト』/後編
日本にもフォロワーの多い彼の凄さがわかる作品

本作『ジギー・スターダスト』に収録されているハマースミス・オデオン劇場での公演が今も伝説としてファンに語り継がれているのは、そのパフォーマンスの素晴らしさだけでなく、ボウイが突如としてジギー・スターダストというペルソナの封印、つまりグラム・ロック・ブームの終息を自ら告げたからだ。アルバム『ジギー・スターダスト』の主人公を演じ続けることに飽き、次のフェーズへ移る必要性を感じていたボウイにとっての転換点であり、ブリティッシュ・ロック史上においても最もドラマティックな瞬間のひとつと言えるこのライヴがこうして映像で記録されていることの意味は、とてつもなく大きい。

この日のライヴはツアー最終日ということで、ロンドンのファンに熱狂的に迎え入れられている。先述のように、ボウイとスパイダーズ・フロム・マーズのコンビネーションは絶妙で、1年半のツアーの成果をはっきりと感じ取ることのできる仕上がりだ。ローリング・ストーンズの「夜をぶっとばせ」やヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート」のカヴァーを織り交ぜながらステージは大詰めに向かう。そして最後の最後に用意された「ロックンロールの自殺者」を歌い出す直前、突然ボウイの口から発せられた「これが僕らの最後のショー」という言葉。その言葉の意味をうまく理解できずにただ騒然とする観客と、そのリアクションを気にせず最後の演奏を始めるボウイたちの間には、埋めがたい“時差”、もしくは“カルチャー・ギャップ”が横たわっていることを、見る者は知ることになる。

当コラムでも昨年夏に取り上げた『地球に落ちてきた男』や、坂本龍一&ビートたけしとの共演で知られる『戦場のメリークリスマス』など、デヴィッド・ボウイは役者として数多くの作品を残しているが、そのライヴ・パフォーマンスを記録した映像作品となると意外と少ない。昨年の急逝から今年の大回顧展「DAVID BOWIE is」の開催まで、最近は日本でもレジェンドとしてメディアで取り上げられることが多くなっているが、本作は絶頂期の彼の表現者としてのカリスマ性や美しさ、ミュージシャンとしての先進性や度量の大きさを総合的に捉えているという点で入門にも最適だ。レディー・ガガ、ベック、ノエル・ギャラガー、布袋寅泰、ザ・イエロー・モンキー、YOSHIKI、坂上忍、二階堂ふみなど、各分野でボウイに影響を受けたことを公言する人が後を絶たない今だからこそ、若い世代の音楽ファン、映画ファンにもぜひ彼の存在を体感していただきたいと思う。(文:伊藤隆剛/ライター)

『ジギー・スターダスト』は1月14日より全国順次公開中。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。