『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』ソフィア・コッポラ監督インタビュー

ガーリー映画の旗手が男と女のパワーバランス描く

#ソフィア・コッポラ

男女のパワーバランスは普遍的なテーマで、男女の間には永遠に解けないナゾがある

ソフィア・コッポラ監督の最新作『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』は、19世紀、南北戦争さなかのアメリカを舞台にしたスリラーだ。

アメリカ南部にある世間から隔絶された女子寄宿学園に、ある日、負傷した兵士が運び込まれたことから展開。ハンサムで紳士的な敵兵をめぐり、女性たちの欲情と嫉妬がうずまくドラマが描かれていく。

1971年にドン・シーゲル監督&クリント・イーストウッド主演で『白い肌の異常な夜』として映画化された作品を、ソフィアが女性的な視点からとらえた作品だ。そんな本作に込めた思いを、ソフィア自身に語ってもらった。

──監督はこれまで、“女性の共同体”というテーマを多く描いてきましたね。例えば、『ヴァージン・スーサイズ』では姉妹という共同体、『マリー・アントワネット」』では宮廷という閉ざされた世界、そして『ブリングリング』では法を犯してしまう窃盗団などです。『ビガイルド』でも同じテーマを扱っています。

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』
(C)2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

監督:そうね。私は集団内での人間関係というものにずっと興味があるの、特に女性同士のね。女性同士が接する時の機微ってすごく微妙じゃない? 男性はもっとはっきりしてるけど。
 このストーリーに惹かれたのは、女性のグループを扱っていて、さらに世間から切り離された女の子たちという意味で『ヴァージン・スーサイズ』を彷彿とさせるものがあったから。今まで幅広い年齢層の女性を扱ったことがなかったから、人生のステージが異なる女性同士の関わり合い方を描いてみたかった。実際この話の中でも、それぞれの女性の男との関わり方は千差万別よ。

──原作であるトーマス・カリナンの小説「The Beguiled」のことは、いつ知りましたか?

監督:友人でプロダクション・デザイナーのアン・ロスが映画版の『白い肌の異常な夜』のことを教えてくれたの。私は見たことはなかったけれど、評価の高い作品であることは知っていた。見終わった後、ストーリーがずっと心に残っていたわ。その異様さと予期せぬ展開がね。リメイク作品を作ろうとは思わなかったけど、興味が湧いたので原作小説を読んでみたの。
 それで、女性の視点からこのストーリーを伝え直してみたらどうかしらって思った。だからこの『ビガイルド』は再解釈と言えるわね。テーマ自体が奥深いでしょ。
 男女のパワーバランスは普遍的なテーマで、男女の間には永遠に解けないナゾがある。「彼、なんであんなこと言ったの?」って(笑)。

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』撮影中の様子

──原作の設定を変えることは考えましたか?

監督:「設定を変えてみたらどう?」って言われることもあったわ。でも私は南北戦争時代の南部の女性が、男性への接し方をどのように教え込まれたか興味があったの。優美で魅力的で、もてなし上手であることが重要視され、彼女たちの世界は男性中心に回っていた。そういう時代に男性たちが戦争に行き、自分たちだけで取り残された女性たちは、どのように生活し生き抜いたのかしら?って。

──では、本作はリメイクではなく、どちらかというと脚色と言えますね。以前にも脚色は経験済みだと思いますが。小説は男性の目線から語られているのですか?

監督:いいえ。著者は男性だけど、女性の視点から語られている。各章でそれぞれの女性が自分の話を語るスタイルで。

──小説を映画化するにあたり、変えた部分はどういったところですか?

監督:小説の中に大げさだと思う部分があったわ。この話自体かなり強烈だけど、それでもなるべく現実的で共感できるものにしたかったの。
 本の中では兵士はアイルランド人なの。コリン・ファレルに会って彼の自然なアイリッシュアクセントを聞いた時、マクバニーを女性たちにとってよりエキゾチックな存在にするために、これは使えるって思ったの。それから、本には、彼がお金をもらって別の男の代わりに従軍しているという言及があった。でも私は彼を魅力的な人物にしたかったの。明らかに悪い男じゃなくてね。女性たちが「彼のことを信じたい」と思えるような。コリンと会ってそういう考えが浮かんだのよ。

──本作の中の彼女たちとマクバニーを見ていると、希望とは言わないまでも、もしかしたら最悪の事態は避けられるのではないか、という気がしてきます。

監督:女性たちは希望を禁じ得ないの。特にキルステン・ダンスト演じるエドウィーナはね。
 マクバニーにとっては天国にたどり着いようなもの。女性たちが彼にかかりっきりで洋服まで着せてくれるんだもの。
 魅力的で、でもおそらく信じてしまったら痛い目に遭いそうな男っているでしょ? そういうことってみんなが経験したことのある、共感できる話だと思うわ。

──1971年の映画版では、アフリカ系アメリカ人のハリーが登場します。彼女の視点も取り上げることは考えましたか?

監督:『ビガイルド』には奴隷の役は登場させたくなかった。なぜなら奴隷の問題はひとつの大きなテーマで、さらっと触れるようなことはできないわ。この映画は戦時中に取り残された女性たちの話なの。

──先ほど強烈なストーリーだと言っていましたが、スリラー的なプロットは楽しめましたか?

監督:男が「ゲスト」兼「囚われの身」という点で、映画の「ミザリー」を思い出したわ。
 1990年の公開時に見に行って記憶の奥に残っていたのね。それでもこういうタイプのストーリーは初めてだったから、大変だけどやりがいもあったわ。自分の得意分野から飛び出して、自分なりのやり方で取り組んだけど、私は普段はさりげないものを好むから、自分を追い込む必要があったわ。プロットと美しく詩的な設定の両方がある。こういう組み合わせは初めてだったから楽しめたわね(笑)。

──あらゆることが形式的で、例えばお互いの呼び方ひとつ取っても、ミスを付けてファーストネームを呼ぶ。これは台詞をより叙情的にしていますね。

監督:そうね。後半に差しかかってくると、みんな本当はそれどころじゃないのに(笑)、うわべだけの淑女らしい上品な態度と世間話はやめないの。当時のエチケットは今でも南部に残っているのよ。すごく仰々しい形でね。

女優たちが期待されているイメージを裏切るのを見るのは楽しい
『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』撮影中の様子

──ミス・マーサのキャラクターを再解釈されたと思いますが、ニコール・キッドマンがこの役に適任だと思ったのはなぜですか?

監督:ニコールの演技が大好きなの。特に『誘う女』で演じたちょっとねじれた役どころとかね。ずっと彼女と一緒に仕事をしたくて、脚本を書いている時も彼女をイメージしてそれが大いに助けになった。彼女がミス・マーサのキャラクターにユーモアや感情を与えて息を吹き込んでくれることは分かっていた。ニコールは威厳をもって演じてくれたから、この集団を彼女が仕切っていることが伝わってくると思うわ。

──本当にそうですね。マクバニーとのシーンでは、まるでミス・マーサが大将で彼が臨時雇いの兵士のようです。

監督:でも彼女をありがちな怖い校長先生にはしたくなかったの。本作に登場する女性たちは年齢にかかわらず、みな南部美人よ。ミス・マーサの「南部婦人」としてのピークは過ぎて楽しい時は終わったかもしれないけれど。彼女にとって今もっと重要な問題は、女の子たちを守ることで、そのために辛い局面でも強くあらねばならないの。

──エル・ファニングは、あなたの過去作『SOMEWHERE』に出演してから7年経っていますね。女優として随分成長したのではないでしょうか?

監督:『SOMEWHERE』ではまだ11歳だったエルが、今回は18歳に成長していたのは驚きだったわね。彼女の性格は変わってなく、同じ人間の大人バージョンっていう感じかしら。今も子供らしい輝きを失っていなくて自然体を保っている。7年前も女優としての才能に感心したし、今はそれ以上に感心させられる。
 彼女が可愛らしくて寛大なのに対して、彼女の役は「悪い子」。これは面白いかもって思ったわ。女優たちが期待されているイメージを裏切るのを見るのは楽しいわ。
 エルはアリシアという役を、自分好きのうぬぼれキャラに作り込んでくれた。アリシアは自分の魅せ方を分かっていて、例えばマクバニーと全員で食事の席に着く時に、スカートを広げてマクバニーに視線を送るの。本で彼女は本当の小悪魔キャラとして描かれているわ。

──エルは本作で自分より若い10代の女優と共演をしていますね。4人をどうやって見いだしたのでしょうか? そして彼女たちはグループでキャスティングされたのですか?

監督:キャスティングチームがとても優秀だったの。役と同じ年齢であることが重要だったから、該当する年齢層の子たちにたくさん会ったわ。
 それから、彼女たちの写真を壁に貼って一緒に並べるとどう見えるかチェックした。似すぎて混同しないかとかね。それぞれが強い個性を持っていて、お互いに被らない独自色があることを求められた。私たちはお互いのお気に入りを組み合わせて、一緒にするとどう見えるか確認をしていったの。それで最終的にこの4人が飛び抜けていた。
 4人のうちウーナ・ローレンスとエマ・ハワードの2人は、ブロードウェーの「マチルダ」に出演していて、エミー役のウーナは歌もこなせるし、エミリー役のエマは映画の舞台となった時代のポートレートから抜け出してきたみたいだった。
 オーストラリア出身のアンガーリー・ライスは演技のセンスが素晴らしいので、神経質なジェーン役を演じてもらった。マリー役を演じるアディソン・リーケはすごく面白い子よ。実際に会って初めてテレビ番組の『超能力ファミリー サンダーマン』に出ている子だって気付いたの。うちの子も大好きな番組よ。
 彼女たちは4人セットで上手く機能していたし、映画からもそれが伝わるはず。

──女の子たちが同じベッドで眠るシーンでは、仲の良さをさらに強調していますね。

監督:家族から離れた子どもたちが同じ部屋にいれば、自然とひとつのベッドに集まってきて一緒に眠るんじゃないかしら。大きな館は子どもにとって怖いもので、一緒に固まっていたいはず。
 彼女たちはリハーサルの期間に、当時の女の子たちと同じようなダンスやエチケットやお裁縫のレッスンを受けたの。アクティビティに一緒に参加することで絆が生まれたんじゃないかと思うわ。メイドウッドで撮影の時は、よく一緒に出かけて仲良くなったみたい。ハロウィーンには変装して、私たちのいた町を練り歩いていたわ。
 特に低予算の作品では、全員が撮影現場に揃っていて、毎晩自宅に帰ったりできないから、お泊まりキャンプのような連帯感が生まれるのだと思う。
 撮影中は全員ハンプトン・イン(ホテル)に宿泊していて、よくパジャマでロビーに集まってた。ニューオーリンズの住居で室内の撮影をしていた時は、ポーチに大きなテーブルがあって、そこか裏庭でみんなくつろいでいたの。とても心地よい雰囲気だったわ。

ソフィア・コッポラ
ソフィア・コッポラ
Sofia Coppola

1971年5月14日生まれ、アメリカのニューヨーク州出身。父は映画監督のフランシス・F・コッポラ。父の監督作『ゴッドファーザーPART III』(90年)などに女優として出演した後、『ヴァージン・スーサイズ』(99年)で長編監督デビュー。『ロスト・イン・トランスレーション』(03年)、『マリー・アントワネット』(06年)を監督し高い評価を得ている。『SOMEWHERE』(10年)でヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞。