『前田建設ファンタジー営業部』岸井ゆきのインタビュー

若手女優の注目株!アメコミオタクの意外な素顔を明かす

#岸井ゆきの

一人になるのが寂しくなるほど充実した現場だった

驚きの実話が映画化されることは多いが、『前田建設ファンタジー営業部』では、あるサラリーマンたちの“無謀な挑戦”を描いている。その挑戦とは、「マジンガーZの地下格納庫を作る」というものだが、実際に建設をするわけではない。実物を作るのとまったく同じように設計図や見積り完成させるだけで、あくまでも「心の中に建設する」という前代未聞のプロジェクトだ。

そんなまさかの実話を若手サラリーマン役の高杉真宙をはじめ、上司役の小木博明、先輩役の上地雄輔といった幅広いキャストたちが再現している。そのなかで唯一の女性でやる気のない部員・江本を演じたのは、『愛がなんだ』などで高く評価されている若手女優の岸井ゆきの。NHK連続テレビ小説『まんぷく』では、当時26歳にして14歳の役に挑んだことでも話題となった。今回は、本作の撮影秘話からオタクな一面までを明かしてくれた。

──今回は個性豊かなメンバーとチームを組むことになりましたが、現場はどのような雰囲気でしたか?

岸井:休憩時間も休みにならないくらいお話をしていて、特に小木さんと上地さんは、セッティングチェンジの空き時間でさえもずっと話していましたね(笑)。でも、休憩中にみんなで一緒に本読みをしたりもしていたので、ある意味すごくまじめな現場でもありました。色んな意味で、すごく楽しかっただけに、撮影が終わってひとりぼっちになって帰るときが寂しくなるほど、充実していたと思います。

──アドリブに思わず笑ってしまったようなことは、ありませんでしたか?

岸井ゆきの

岸井:笑いそうになったことは何度もありましたが、それでも英(勉)監督は絶対に止めないんです。なので、本編を見たときも、「これ普通に笑っちゃったところじゃない?」というようなシーンが入っていたりもしていて(笑)。でも、監督はそういう空気感を大事にしていましたし、台本通りにいかないハプニングも楽しんでいたと思います。それは、休憩時間の雰囲気があったからこそできた部分だったんじゃないかなと感じました。

──江本とご自身の近いところは、どんなところですか?

岸井:近いところというか、今回は実際に福島にあるトンネルに行き、掘削の様子を見せていただいたんですが、そこでめちゃくちゃテンションが上がってしまったんです。掘削現場を見学するシーンは、スクリーンからも迫力が伝わると思いますが、私も素で驚いてしまいました。

──今回は絶妙な変顔も披露されているのが見どころでもありますが、あの表情はご自身で考えたものですか?

岸井ゆきの

岸井:台本には「寝る」ではなく、「宇宙に行く」と書かれていて最初は悩みましたが、私なりの宇宙に行ってみようと思ってやってみたところ、監督から「それそれ!」と言われたので、そのまま演じました。私としては、「どこかに行ってしまっている」というイメージの顔でしたが、出来上がった作品を見て、「こんな顔してるんだ!」と自分でもびっくりでした(笑)。

──“掘削オタク”の山田とのやりとりも印象的でしたが、ご自身はオタク気質の男性はどう思いますか?

岸井:一つのものを好きになって、没頭しているとオタクと呼ばれてしまう印象がありますが、私はすごく素敵なことだと思います。ただ、それが山田さんみたいに、岩や掘削が好きだと言われるとさすがに少し驚きますが(笑)。でも、あんなふうに周りが見えなくなるくらい一つの道を極めて、学ぶ気持ちをやめないことは素晴らしいですし、そういう男性は魅力的ですよね。

──ご自身のなかにも、オタク気質はありますか?

『前田建設ファンタジー営業部』
(C)前田建設/Team F (C)ダイナミック企画・東映アニメーション

岸井:演劇に対しては、ちょっとそういう部分があるかもしれません。たとえば、好きな作品があると、出演していなくても台本を買って読んでいたりするので、全部セリフを覚えてしまうんです。あるとき、好きな作品の脚本家の方と話していて、「そういえばそんなこと書いたかな」と言われて少し気持ち悪がられたこともあるくらいです(笑)。

──ちなみに、アニメもご覧になりますか?

岸井:そうですね、アニメも好きなので、『ジョジョの奇妙な冒険』や『ワンパンマン』を見たりしています。

──では、もし岸井さんが前田建設ファンタジー営業部に依頼をするとしたら、何を依頼したいですか?

岸井ゆきの

岸井:私は『アベンジャーズ』が大好きなので、アイアンマンのスーツができるんだったら、ぜひ作って欲しいです!

──ということは、『アベンジャーズ』に出演してみたいと思ったこともありますか?

岸井:もちろん! ただ、好きすぎるので、演じる演じないという話ではなくて。なので、「演じてみたいですか?」と聞かれても、「そうではなくて“なりたい”です!」というのが正確な答えなんです(笑)。

──(笑)。ということは、最終目標は「出演する」ではなく、「アベンジャーズになる」ということなんですね。

岸井:はい! 私のなかでは、CGとかではなくて、ああいう世界が本当にあると思って見ているんですよ。だから、もし撮影の裏側を見られるツアーがあっても参加したくない…。といいつつ、グリーンバックで撮影しているメイキングとかNG集も大好きで、「やめてー!」と言いながら、全部見ちゃうんですけど……。なので、もしかしたらこれに関しても、ちょっとオタクが入っているのかもしれません(笑)。

──劇中で山田が掘削を語るときのテンションと、かなり近いものを感じます(笑)。ちなみに、どんなキャラクターになりたいですか?

岸井:私は小柄なので、博士に体の情報操作をしてもらって、怒ったら大きくなったり、逆に原子サイズにもなったり出来る体にして欲しいですね(笑)。

どんな役でも、物語の中に参加できる喜びをつねに感じている
──ぜひ見てみたいです。そのほかに、女優として挑戦してみたい役はありますか?

岸井ゆきの

岸井:最近は、大きな斧や槍のような武器を持ちたいと思っています。ピストルのように遠くのものを狙うよりも、自分で振り上げたもので攻撃するような役をやってみたいので、そういう役どころがあったらいいなと願っているところです。

──それは、アクションをやりたいということですか?

岸井:アクションをしたいというよりは、武器を持ちたいんですよね。なので、たとえば斧を持っているのに、まったく使わないとかでも構わないんです(笑)。つまり、「これが私の武器です」というのを示したいだけなんですが、なかなかそういう役がなくて……。でも、小さい体で大きい武器を持っている姿は面白いと思うので、ぜひ何かのチャンスで持たせていただけたらと思っています。

──言っておくと、いつかオファーがあるかもしれませんね。では、朝ドラの出演や『愛がなんだ』のヒットがあってから、変化を感じることもありますか?

岸井:ありがたいことに声をかけていただけることは増えましたが、自分自身はあまり変わっていないですね。ただ、色んな方から「あの作品見たよ」みたいに言っていただけることも増えたので、自分が出演した作品が届くようになっていることには感動を覚えています。

──女優になってからすでに10年以上が経ちましたが、女優をやっていてよかったなと思うことを教えてください。

岸井:『愛がなんだ』のように中心で作品を作れるようになったということは、続けてきてよかったなと改めて思いました。でも、私は役が大きくても、セリフが少ない役でも、物語の中に参加できる喜びはつねに感じています。お芝居することはもちろん、作品を作ることやストーリーを深く理解することが好きなんだと思います。それは続けてこなければわからなかったことですね。私は、見ている方が自然と物語のなかに入り込めるような映画やドラマが好きなので、そういう作品に出ていたのがたまたま私だったというくらいの出会い方をしたいですし、みなさんにそう思っていただけるような作品づくりをこれからもしていきたいです。

(text:志村昌美/photo:小川拓洋)

岸井ゆきの
岸井ゆきの
きしい・ゆきの

1992年2月11日生まれ、神奈川県出身。2009年女優デビュー後、映画やドラマ、舞台で数々の作品に出演。2017年には映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』で映画初主演。翌年には、NHK連続テレビ小説『まんぷく』(18年)でも注目を集める。2020年、映画『愛がなんだ』で、第11回TAMA映画祭新進俳優賞、第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。