木村多江

「サバイバル能力が高くないと生き残れない」

 

『東京島』木村多江インタビュー

『東京島』木村多江インタビュー

 

今もお芝居は怖いし、悩むし、落ち込みます

  • 無人島に漂着した23人の若い男たちと、たった1人の女性。脱出への希望を胸に、なんとか生き延びようとあがく彼らの姿を描いた『東京島』は、直木賞作家・桐野夏生のベストセラー小説を映画化した作品だ。
  • 現代日本への風刺を織り交ぜた本作で、主人公・清子を演じたのが木村多江だ。サバイバル能力を開花させていく様は、頼もしく、爽快ですらある。唯一の女性として女王のようにふるまうも、あるきっかけから影響力が弱まり、逆境にさらされていく彼女のあがき、精神的、肉体的なタフさを見事に表現した木村に、作品について話を聞いた。

    [動画]木村多江インタビュー

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  • ──小説と映画とでは少しテイストが違いましたが、役作りはどんな風に行ったのですか?
  • 木村:台本を読んだとき、普通は映像が浮かんで役が立体的になるのですが、今回は平面のまま台本を読み終えて、どうしよう……と(笑)。これは現場に行ってみないとわからないな、と。
     実際に現場に行くと(※沖永良部島と徳之島でロケ)、長期間、家に帰れないので、だんだん孤独になっていくんです。泊まっていた部屋にはヤモリが住んでいたんですけど、ヤモリとかに話しかけるようになっていく(笑)。そういう感情を取り入れながら役を作っていきました。
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  • ──蛇を捕まえて食べたりするシーンもあり、映画を見ながら「自分だったらサバイバルできるだろうか」と考える人も多いと思いますが、木村さんご自身は「ああいう状況に置かれたら」と考えたりしましたか?
  • 木村:孤独に耐えられるだろうか、と考えたりしました。ただ、蛇の皮をむくシーンは何も考えずにむいていました。あの蛇は本物ではないのですが、私は別に蛇が嫌いじゃないし触れるので、「きっと私は、島で蛇を捕まえて、皮をむいて食べるだろうな」って思いましたね(笑)。
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  • ──サバイバル能力を開花させていく清子と違い、ショック状態の夫は日に日に衰弱していきます。夫との船旅の途中で無人島に漂着した彼女が、東京から持ってきた荷物のなかで一番不要だったのは夫だったと気づくシーンが印象的でした。
  • 木村:女性のほうが、開き直ったら強いところがあると思います。そして、この映画を見終わった後で、(夫の存在を)いる、いらないと選択する人もいるかもしれませんね(笑)。
    今後は、男性を見る基準のひとつに“サバイバル能力”を入れたらいいんじゃないでしょうか。清子はサバイバル能力が高い男性の方に近づいていきますが、それは、サバイバル能力が高くないと生き残れないからなんですよね。
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  • ──『ぐるりのこと。』(08年)でブレイクしたわけですが、あの作品はやはり転機になりましたか?
  • 木村:20代の頃はコンプレックスも強くて、自分を隠して役に近づいていたのですが、『ぐるり〜』で自分をさらけだせるようになり、コンプレックスも含めたすべてをさらけ出しことが、人に感動を与える一歩になるんだとわかったんです。
    今も相変わらずお芝居は怖いし、悩むし、落ち込みますが、どんなに辛くても続けるしかないと思っています。
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  • ──お芝居が怖いというのは、どういう感覚なのでしょうか?
  • 木村:ウソがばれちゃうというか……。ウソのないように演じようと思っていても、心のどこかにウソがあったり、“形”で演じてしまったりすることが怖いですね。そして、ちゃんと演じられるかどうかは現場に行ってみないとわからない。あるいは、演じてみないとわからないという怖さがあります。
    この仕事は、仕事がなければお給料ゼロですし、求められた以上のことをしないとクリアできず、クリアできなければ“次”はありませんから。そういったことが怖くて、よく「(今日の撮影が中止になるように)雨が降らないかな」と弱気なことを言ったりしてます(笑)。
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  • ──仕事の辛さを感じてやめたいと思ったりしている人は多いと思いますが、そんな人にアドバイスするとしたら?
  • 木村:自分の人生をちょっと引いて眺めると、困難は、この後盛り上がるための前兆だと思えてきます。人生というドラマのなかで、主人公である自分が辛ければ辛いほど、見ている人は感動するし、その後、お話が面白くなる。そして“困難”も、ドラマの一部の“面白い出来事”になっていくんです。
    私自身は何かを選択するときに、楽なほうと辛いほうとがあったら、辛いほうを選ぶようにしています。物語は面白いほうがいいですから(笑)。
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  • ──最後に、本作にどんな思いを込めたのか教えてください。
  • 木村:ラストシーンが最後まで決まらなかったのですが、映画を見終わった後、ちょっと足取りが軽くなるようなものにしたいと思っていました。
    清子は、閉塞感、絶望感を抱えている社会で、“一歩”を踏み出せる力を持った女性。彼女を見て、自分のなかにもそういった力があると気づいていただけたらいいなと思いながら演じていました。
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  • (2010/8/27)

 

『東京島』木村多江インタビュー

きむら・たえ
1971年、東京都生まれ。舞台女優として活動後、97年に『MOROCCO』で映画デビュー。初主演作『ぐるりのこと。』(08)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など多くの女優賞を受賞。主な出演作はドラマ『アンフェア』(06)『上海タイフーン』(08)、映画『ゼロの焦点』『沈まぬ太陽』(共に09)など。

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『東京島』木村多江インタビュー

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『東京島』木村多江インタビュー
 『東京島』
2010年8月28日よりシネスイッチ銀座ほかにて全国公開
(C) 2010「東京島」フィルムパートナーズ

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