【鯉八の映画でもみるか。】さよなら古畑任三郎

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鯉八の映画でもみるか。
【ムビコレ・コラム】落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。
(毎月15日に連載中)

【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第23回】

映画「眠狂四郎」など数々の作品で長きに渡って大活躍した田村正和さんが亡くなった。
名俳優の死に寂しい思いはあるが、残してくれた映像のなかで生き続けてくれるのはファンにとっても救いだ。

古畑任三郎は90年代を代表する傑作テレビドラマ。
主演の田村正和さんにとっても、脚本家の三谷幸喜さんにとっても自慢の作品であるはず。
和製コロンボの佇まいでありながら、そこは三谷さんの才能とセンスで味付けされ本家に並ぶ面白さとなり人気を博した。
いま見返しても、そのドラマのテイストは古さをまったく感じさせない。
本当に面白いものは時を超えるということだろう。

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1994年5月4日放送の「殺しのファックス」という回のゲストスターは笑福亭鶴瓶師匠。
推理小説家(鶴瓶師匠)は女秘書との不倫愛のため妻を殺害。
第三者による殺人に仕立てるためにFAXを利用した狂言偽装誘拐を計画する。
当時としては、FAXを使用するというのは前代未聞で新しかったのだと思う。
誘拐犯からの脅迫や指示を予めワープロで作り、パソコンのタイマーを使って自動的に送信する。
そして自らを身代金の受渡人に指定させて、その指示に従い警察と行動を共にすることでアリバイを成立させるという推理小説家ならではの巧妙な手口。
次々と送られてくる犯人からのFAXに慌てる警察と、自分で送っているためにすべてを把握している推理小説家とのやりとりの面白さは倒叙ものならでは。
そして、そのすべてを俯瞰で眺めながらもいち早く犯人に気付く古畑。
そのすべての過程で物語に無理なく笑いを挟んでいく脚本の手腕。
当時、ミステリーファンからはトリックにおかしいところがあると批判もあったそうで、制作側としては歯痒い思いもあったろうが、ぼくを含めた視聴者の多くはそんなことには気付くこともなく、もしそうであっても物語の面白さには影響しないので気にならない。

ただ、ぼくがずっと気になっていることがひとつだけある。
この話のキーアイテムはFAX。
何度も送られてくるFAXが物語を動かしていくのだが、古畑の名推理で事件を解決したその最後に犯人である推理小説家に逮捕状を突きつけるラストシーン。
この逮捕状もFAXで送られてくるというお洒落な演出なのだが、このシーンがどうも腑に落ちない。
というのも、古畑が「便利な世の中ですよね。こんなものまでFAXで送られてくるのだから」と言って映像がFAX機に切り替わる。
そしてFAX機から出てきたものが、はっきりと逮捕状だとわかるまで映し出される。
また映像が切り替わり、その逮捕状を犯人に突きつけて「逮捕状です」と古畑が言う。

どうも一手多い気がする。

FAX機から逮捕状が出てくる映像のなかで「便利な世の中ですよね~逮捕状です」と言って終わるか、
もしくはFAX機から出てくるところは映さずに、「便利な世の中ですよね~逮捕状です」と言いながら逮捕状を犯人に突きつける映像で終わるか。
このどちらかでいいのではないか。
おしまいに向かってテンポよく進んでいる物語。
最後は切れ味鋭く終わる方が絶対にいい!

なぜこのようなラストシーンになってしまったのでしょうか。
以下の3つのなかからお選びください。

①天才、三谷幸喜のうっかり脚本ミス

②スタッフのうっかり編集ミス

③いやいや全然ミスでもなんでもねぇよ。一手多いだ? 最後は切れ味よく終わる方が絶対いいだ? なんだよ絶対って。おまえなんぞのセンスのほうが正しいわけねぇだろ! このままでいいんだよ! こっちのほうが親切だし、切れ味も損なわれてねぇよ。視聴者の誰もそんなこと思ってねぇよ。おまえだけだよそんなこと思ってるの。素人は黙って見てろよ! このラストで問題ねぇんだよ。むしろこれが最高なんだよ!

 

え~~、瀧川鯉八でした。

鯉八さん2021年6月コラム

※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。

鯉八

プロフィール/瀧川鯉八(たきがわ・こいはち)
落語家。2006年瀧川鯉昇に入門。2010年8月二ツ目昇進、2020年5月真打昇進。落語芸術協会若手ユニット「成金」、創作話芸ユニット「ソーゾーシー」所属。2011年・15年NHK新人落語大賞ファイナリスト。第1回・第3回・第4回渋谷らくご大賞。映画監督アキ・カウリスマキが好きで、フィンランドでロケ地巡りをした経験も。

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