過酷すぎる北朝鮮強制収容所の内情「そのまま描くとホラーになってしまうのではないか」という衝撃

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トゥルーノース
左から、土井香苗、清水ハン栄治監督、宋允復
 (C) 2020 sumimasen 

強制収容所の現状に「何とかしなければ」

北朝鮮強制収容所の内情と、そこで生き抜く家族と仲間たちを描いた3Dアニメーション『トゥルーノース』が6月4日に公開される。それに先立ち、5月18日に外国特派員協会で、監督・脚本・プロデューサーを務めた清水ハン栄治が記者会見を行った。

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会見には清水監督のほか、監督に製作へと奮い立たせるきっかけとなった国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の日本代表・土井香苗、ジャーナリストで「NO FENCE」(北朝鮮の強制収容所をなくすアクションの会)副代表の宋允復(ソン ユンボク)も登壇。

清水監督は、本作を作るきっかけについて、「北朝鮮の政治犯強制収容所での体験を記した手記を勧められて読んだところ、非常にショッキングで、強制収容所の現状が私の想像をはるかに超えるものだったのです。そこで私に何ができるだろうと土井さんに相談したところ、この問題の専門家である宋さんを紹介していただき、そこから二人三脚のように、10年間にわたる作業が始まりました」と語った。

トゥルーノース

アニメーション化によってバランスが取れた

清水監督は、実写でなくアニメーションという手法を取ったことについては、「描く内容の過酷さ残忍さを考えると、これを実写で作ってしまうと”ホラー映画“になってしまうのではないか、という懸念がありました」と、観客が拒絶しないようにする配慮であると説明。

一方、観客から他人事と思われないようにするために、フェイクストーリーっぽくならないように気を配ったという。

「アニメーションという手法が一番理想的で、観客が話についてきてくれ、しかも感情を揺さぶられる良いバランスがとれるのではないか、と思ったんです。インドネシアのアニメーターを起用したのは、非常に才能豊かなアニメーターがいたということ、そして予算的な面で東京やアメリカでの制作よりも適していたということがあります」

トゥルーノース

また土井は北朝鮮の現状について、国連のコミッション・オブ・インクワイアリ―のチェアー(議長)であるオーストラリアのマイケル・カービーの言葉を引用し、「北朝鮮の人権侵害のスケールは、現代社会において匹敵するものがないほど」と指摘。しかし、トランプ元大統領が北朝鮮と蜜月関係になったこともあり、北朝鮮に対する国際社会の圧力が減少した現状を憂えた。

作品中に描かれる「赤とんぼ」そして日本人拉致被害者

映画の中では、童謡「赤とんぼ」が使われている。清水監督は調査を通じて収容所の中に日本人村もあったことを知り、「きっと望郷の念をもって童謡を歌っていた人たちもいたのでは」と考えて使ったと言う。もっとも、宋は、10年間強制収容所に収容された後亡命した人が歌ってくれたのが、まさに「赤とんぼ」だったため、清水監督が知らずに映画に使ったことに驚いたという。

また、作品の中では、収容所に日本人拉致被害者がいたという事実が描かれる。これについて宋は、権力に仕えるエリアに日本人女性がいたという話を引用して説明した。

「収容所の中には、平壌で権力に仕える人たちだけを囲い込んでいるエリアがあり、そこでは一定期間厳しく辛い思いをさせて、忠誠心を確かめられたのち、また平壌に連れ帰され仕事をさせられる。そういった幹部たちがいたエリアの中に日本人女性がいたそうです。その人は日本から連れてこられたのだけれど、スパイに日本語教育をすることを拒絶したことで、収容所に何も持たずに連行されたため、布団も持っていないほどだった。そこからまた平壌に戻る他の者たちが彼女に布団を残していったという話があるのです」

過酷な環境の中でそれぞれの家族が抱いた生き様と選択

本作品は、1960年代の帰還事業で日本から北朝鮮に移民したパク一家が政治犯強制収容所に送還される物語を描く。過酷な生存競争の中、主人公のヨハンは次第に純粋で優しい心を失い他人を欺く一方、母と妹は人間性を失わずに生きようとする。そんなある日、愛する家族を失ったことをきっかけに、ヨハンは絶望の淵で「生きる」意味を考え始める。やがてヨハンの戦いは他の者を巻き込み、収容所内で小さな革命の狼煙を上げる。

『トゥルーノース』は6月4日に公開される。

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