マリー・アントワネット
マリー・アントワネット
マリー・アントワネット

妬まれ、ゴシップに晒される少女の現代的解釈

映画の中のインテリアを取り上げる本稿の題材は、『マリー・アントワネット』。2006年公開のアメリカ・フランス・日本の映画。監督は、ソフィア・コッポラ。ハプスブルク家の末娘マリー・アントワネットが後のルイ16世であるルイ・オーギュストと結婚し、子育て、スウェーデン伯爵フェルゼンとの恋などを通じて、ひとりの若い女として生きるさまを描く。

・リッチな豪邸とアートなワンルーム インテリアが映し出す2人の心情

確かにマリー・アントワネットの役柄や設定は、史実に基づいている。しかし本作は、マリー・アントワネットの伝記的映画というよりも、ごく普通のひとりの少女が自分なりに誠実に対応しながらも孤独に置かれ、しかもそれが一般世間から妬まれる立場にあることがテーマとなっている。内部のしきたりやゴシップ等々は、言ってみれば若くして大スターになってしまった著名人の裏話さながらだ。

そう考えると、ソフィアの描くマリー・アントワネットがキッチュでパンキッシュなのも合点がいく。冒頭のピンクの下地を使ったタイトルロゴからしてセックス・ピストルズの「勝手にしやがれ!!」だし、80年代UKロックをバックに、ドレスはブルーやピンクのペールトーンに麻のベルトで、今風ともいえるファッションに身を包むキルスティン・ダンストが新鮮だった。真っ白な肌がほんのりピンクがかり、華奢な容姿の彼女に降りかかるバッシングやその後の人生を思うと、無邪気な末娘らしい姿が見る者の胸を締め付ける。こんな風にマリー・アントワネットを描ける作品は今後も出ないだろう。

世界最高峰のインテリアに迫るには?

その建物とインテリアに注目してみよう。

本作では、実際のヴェルサイユ宮殿をロケ地に使っている。大理石の太い柱、100%クリスタルガラスのシャンデリア、黄金の装飾、鏡の間、ホンモノの彫刻や天井画など、到底現代のインテリアには、そのままの形では取り入れにくいが、エッセンスを織り交ぜて、世界最高峰のイタリアのファブリック「RUBELLI(ルベリ)」の布を使ってはどうだろう? 本物を使ったら驚くほどの値段になる金の刺繍が施されたカーテン、シルクや刺繍のレースに少し近づけるはず。

すこし生活感のあるプチ・トリアノン

そんな豪華な宮殿のインテリアも、物語の展開につれて雰囲気が変わっていく。

フランスの宮廷のしきたりに当初は戸惑いを見せていたアントワネットだったが、彼女なりのしなやかさでヴェルサイユ宮殿での華やかなかつ空虚な日々を乗り越えていく。それでも徐々にお世継ぎ問題による圧力やゴシップによって蝕まれ、つかの間の解放を味わうためにギャンブルに明け暮れたり、朝日を眺めに外で夜を明かしたり、フェルゼン伯爵と恋に落ちたりする。

それも娘が生まれると収まり、アントワネットは一転して簡素で芸術的な生活を好んだ。本作でも、宮殿とは離れたプチ・トリアノンでの生活がもっとも幸せな時間として描かれ、アントワネットが人目を気にせず娘との子育てを満喫している様子は微笑ましい。

主を失った豪華な宮殿の末路

やがて待望の跡継ぎとなる王太子が生まれるが、マリーアントワネットへの世間の風当たりはさらに強くなる。

バスチーユ襲撃事件が起こる頃には、あれほどまでに煌びやかだった宮廷も、華やかさを失う。同じ場所、同じ主でもこれほどまでに違ったインテリアになるのだ。親子がベルサイユを去り、最後には廃墟となった宮殿が映される。

マリー・アントワネットが自分のために作ったプチ・トリアノンは、もちろん豪華ではあるのだが、色づかいも規模も宮殿に比べると抑えめで過ごしやすい。こればかりは真似しようがない、そんなインテリア。しかし主を失い、時が止まれば、どれだけ立派な空間も意味がないことをソフィア・コッポラは静止画1枚で見せつけた。

父親目線で見た少女とインテリア

この4年後、ソフィア・コッポラは、幼少期に父親のフランシス・フォード・コッポラとハリウッド伝説のホテル「シャトー・マーモント」で暮らしていた思い出をモチーフに、映画を製作する。ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞に輝いた『サムウェア/Somewhere』だ。こちらは父親目線で少女を捉えた作品で、ホワイト基調にアーチが印象的な内装に純粋な娘の思いが沁みる。表と裏から描いたようにも思え、『マリー・アントワネット』と対比して見ても面白いだろう。(文:fy7d)

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