イ・ビョンホンが解雇された中年男の悲哀と狂気を熱演、パク・チャヌク監督最新作『しあわせな選択』
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妻子持ちの失業者が“ライバル”たちを次々と……
【週末シネマ】窮地に追い込まれた人間の必死な足掻きをブラックコメディという形で描き、しかし笑ってばかりはいられない現実を鋭く突きつけてくる映画だ。
カンヌ国際映画祭で韓国映画史上初のグランプリを受賞した『オールド・ボーイ』(2003年)、カンヌ監督賞を受賞した『別れる決心』(2022年)のパク・チャヌク監督が、2000年代に韓流四天王の1人として絶大な人気を博しハリウッドでも活躍したイ・ビョンホンを主演に迎えた『しあわせな選択』は、25年間勤めた製紙会社を突然解雇された中年男性ユ・マンスが主人公だ。
・パク・チャヌク監督の『別れる決心』はなぜアカデミー賞で無視されたのか?
素敵な家で愛する妻と子どもたち、飼い犬2匹と暮らす生活を守るために必死に職を探すが、1年を超える就職活動は空振りばかりで、ついに持ち家を手放す危機が迫る。
「他に選択肢はない」と思いつめたマンスは極端な打開策に辿り着く。ライバルである他の求職者たちを次々と排除すること、すなわち殺人に手を染めるのだ。

妻ミリ役はソン・イェジン
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毒は強めでも人間味にあふれた不思議な味わい
涙ぐましくもあり、切羽詰まった果ての行動だが、プロの殺し屋ではないマンスのためらいや手際の悪さが引き起こすドタバタについ笑ってしまう。監督のお手のものである容赦ない暴力描写と相まって、スラップスティック・ホラーの様相だ。同時に、ヒリヒリとした悲哀が漂う。AI化や経済のグローバル化が雇用を侵食する現実に、家長であろうとする男性のプライドが絡み合う物語は現代社会への痛烈な風刺が込められている。
パク・チャヌクといえば、先に挙げた2作以外にも『親切なクムジャさん』(2005年)や『渇き』(2009年)などで復讐や欲望をドラマティックに描いてきたが、本作はよりストレートにコメディに舵を切っている。おかしくて、哀しくて、鋭い。毒は強めでドライなのに、人間味もあふれている。この不思議な味わいが彼の真骨頂でもある。
AI時代の雇用危機を反映したブラックコメディ
パクのもう1つの特徴は、ジャンルも国も時代も関係なく世界中の著作からインスピレーションを得て、完全に自分の世界で再構築することだ。日本の劇画「オールド・ボーイ」をギリシャ悲劇さながらの復讐譚に、『渇き』ではゾラの「テレーズ・ラカン」をヴァンパイア映画に変換し、『お嬢さん』(2016年)ではサラ・ウォーターズの「荊の城」を1930年代の朝鮮半島に置き換えた。今回の『しあわせな選択』でも、ドナルド・E・ウェストレイクの犯罪小説「斧」を舞台ごと韓国に引き寄せ、AI時代の雇用危機という現代的テーマを反映した。
くたびれた中年男役で実力を発揮したイ・ビョンホン
主演のイ・ビョンホンは、2000年代から日本も含めて国際的にアイドル的な人気を誇ったが、近年は『KCIA 南山の部長たち』(2020年)など社会派の作品への出演も多い。またNetflix『イカゲーム』への出演で国際的な存在感をさらに高めているが、本作では劇中で「よく見たらイケメンですね」と言われるくたびれた中年サラリーマン役に違和感はゼロ。若い頃は外見の良さにかき消されがちだった、俳優としての真の実力を発揮している。
監督と主演のコンビは、かつて韓国で2000年に歴代最高の観客動員を記録し、日本でもヒットした社会派サスペンス『JSA』(2000年)で組んでいた。南北兵士の友情と悲劇を描いた傑作から四半世紀、それぞれがキャリアを積み重ねたベストなタイミングでの本格的な再タッグは見事な形で結実した。(文:冨永由紀/ライター)
『しあわせな選択』は、2026年3月6日より全国公開中。

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