田中麗奈、娼婦役で“静かな情念”を体現 綾野剛との駆け引きが生む成熟の色香
娼婦・千枝子役で魅せるキャリア最深層の演技
綾野剛を主演に迎え、日本映画界を代表する脚本家・荒井晴彦が監督を務めた映画『星と月は天の穴』より、新場面写真が解禁された。娼婦・千枝子役の田中麗奈が、こじらせ男・矢添(綾野)への女の愛と諦念を全身で体現する。
・40代、愛されたいのに怖い…愛と性を描き続けてきた人気脚本家が芸術選奨受賞作を映画化
『ヴァイブレータ』(03年)『共喰い』(13年)などでキネマ旬報脚本賞に5度輝き、半世紀にわたるキャリアを誇る日本を代表する脚本家・荒井晴彦。『火口のふたり』(19年)をはじめ、自ら監督を務めた作品群では、人間の本能である“愛と性”を描き、見る者の情動を掻き立ててきた。
最新作となる本作は、長年の念願であった吉行淳之介の芸術選奨文部大臣受賞作を映画化。過去の離婚経験から女性を愛することを恐れながらも、愛されたい願望をこじらせる40代小説家の日常を、エロティシズムとペーソスを織り交ぜて綴っている。

小説家の矢添(綾野剛)は、妻に逃げられ結婚に失敗して以来、独身のまま40代を迎えていた。心に空いた穴を埋めるように、娼婦・千枝子(田中麗奈)と時折体を交わしながら、捨てられた過去を引きずり惰性のように日々を過ごしていた。さらに彼には、恋愛に臆するもう一つの理由があった。それは、誰にも知られたくない自身の“秘密”に強いコンプレックスを抱えていたからだ。
矢添は、自身が執筆する恋愛小説の主人公に自分を投影し、「精神的な愛の可能性」を自問するように探求するのが日課だった。ところがある日、画廊で偶然出会った大学生・瀬川紀子(咲耶)の粗相をきっかけに奇妙な情事へと発展し、矢添の日常と心は大きく揺れ始める。
主人公・矢添克二を演じるのは、荒井監督と『花腐し』(23年)でもタッグを組んだ俳優・綾野剛。これまでに見せたことのない枯れかけた男の色気をにじませ、過去のトラウマから女性を愛すること、愛されることを恐れながらも求めてしまう──心と体の矛盾に揺れる、滑稽で切なく唯一無二のキャラクターを生み出した。
矢添と出会う大学生・紀子を演じるのは、新星・咲耶。女性を拒む矢添の心に、無邪気さをもって踏み込んでいく。矢添のなじみの娼婦・千枝子を演じるのは田中麗奈。綾野演じる矢添との駆け引きは絶妙で、女優としての新境地を切り開いている。
さらに、柄本佑、岬あかり、MINAMO、宮下順子ら実力派キャストが脇を固め、本作ならではの世界観を創出。1969年という日本の激動期を背景に、一人の男の私的な物語を映し出す滋味深い日本映画に、温故知新の趣を感じることだろう。

矢添のなじみの娼婦・千枝子を演じる田中麗奈は、1998年の映画『がんばっていきまっしょい』(磯村一路監督)で主演を務め、数々の映画賞を受賞。爽やかで快活なイメージが鮮烈で、いまだに印象に残っている人も多いだろう。その後も『はつ恋』(00年/篠原哲雄監督)、『東京マリーゴールド』(01年/市川準監督)、『犬と私の10の約束』(08年/本木克英監督)など、現在に至るまで出演作はほぼ途切れることなく、映画やドラマの世界で長年にわたり活躍を続ける稀有な存在となっている。
しかし、近年の田中が演じる役柄は、かつてのイメージを一新するかのように、重厚感すら漂う人物へとシフトしつつある。今年は立て続けに映画5本に出演。戦後80年の今夏に公開された史実に基づく物語『雪風 YUKIKAZE』(山田敏久監督)では、竹野内豊演じる艦長・寺澤一利の妻・志津を凛とした姿で演じきり、『ストロベリームーン 余命半年の恋』(公開中/酒井麻衣監督)では、余命半年の娘を持つ母・美代子を好演。第38回東京国際映画祭にも出品された『ナイトフラワー』(11月公開/内田英治監督)では、総合病院の院長夫人・星崎みゆきを演じ、時代も立場も背負うものも異なる女性像を見事に体現した。
本作で田中が演じるのは、綾野演じる主人公・矢添の馴染みの娼婦・千枝子。矢添を憎からず思っており、彼に対しては他の客以上の“情”がある。しかし関係が進展することはなく、時だけが流れ、女として自分の人生を選択する時期に差し掛かっていることを自覚している女性だ。
愛をこじらせている矢添に、決して踏み込むことなく淡々と寄り添う一方で、矢添の一番の理解者でもあることが見てとれる。さらに、己の幸せのために大きな決断を下していく千枝子の姿は切なくも軽やかで、咲耶演じる紀子とは、ある種対照的な人物像となっている。
ままならなさ、どうしようもなさを抱える心の内をすべて言葉にするわけではない。しかしそれが全身から溢れ出る色香となり、役柄への説得力を増している。田中自身も「今でも千枝子を思うと胸がキュッとします」と語る通り、千枝子が持つ矢添へのある種の愛と諦念、複雑な女心が物語に与える影響は大きく、娼婦という役柄でありながら、多くの観客の共感を呼ぶだろう。

田中と荒井晴彦の出会いは2017年、三島有紀子監督による『幼な子われらに生まれ』。荒井が脚本を務めた同作で田中は浅野忠信とともにバツイチ同士で結婚した夫婦を演じ、血のつながらない家族への葛藤と再生を描いた本作で、第91回キネマ旬報ベスト・テン 助演女優賞、第72回毎日映画コンクール 女優助演賞ほか、作品としても第41回モントリオール世界映画祭審査員特別大賞など数々の賞に輝いた。
続いて、荒井が脚本を担当した『福田村事件』(23年/森達也監督)で再び邂逅。田中は、荒井が監督を務めた『火口のふたり』(19年)、『花腐し』(23年)にも惹かれていたとコメントしており、今回の出演についても「お話をいただいた時はびっくりしましたが、お声がけいただき大変嬉しかったです」と語っている。
一方、荒井も「まさか出演してくれるとは思わなかった」と田中の参加を喜び、「ここまでやってくれるとは思わなかった」と期待を大きく上回る田中の演技に感嘆の声を寄せている。制作陣を唸らせたという、公園のブランコのシーンは必見だ。
10代での鮮烈なデビューから20年以上を経て、スクリーンに圧倒的な存在感を刻み続ける、いまや日本映画界に欠かせない俳優となった田中麗奈。今後も、彼女が切り開いていく新境地から目が離せない。
『星と月は天の穴』は2025年12月19日より全国公開。
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