未婚の母、姉の死、困難を乗り越え、80代の今なお進化を続けるフランスの大女優カトリーヌ・ドヌーヴ
#SPIRIT WORLD -スピリットワールド-#カトリーヌ・ドヌーヴ#この俳優に注目#シェルブールの雨傘
(C)L. Champoussin /M.I. Movies /(C)2024「SPIRIT WORLD」製作委員会
『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』で竹野内豊や堺正章と共演
【この俳優に注目】日本を舞台に、竹野内豊や堺正章らと共演する最新主演作『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』が公開中のカトリーヌ・ドヌーヴ。シンガポールのエリック・クー監督と組んだ本作で彼女が演じるのは、来日公演で訪れた異国で命を落とし、精霊という目に見えない存在となった歌手のクレア。日本を舞台にした幻想的なこの映画で、彼女は「精霊」という目に見えない存在を演じている。
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つい先日、82歳の誕生日(10月22日)を迎えた彼女は、子役時代を含めると70年以上のキャリアを誇る。
まばゆいばかりの美貌とクールでミステリアスな存在感、さらに繊細かつ大胆な演技力を併せ持ち、1960年代からジャック・ドゥミ、ルイス・ブニュエル、フランソワー・トリュフォーといったヨーロッパの巨匠たちの作品に出演し、80代となった今もなお第一線を走り続ける不屈の精神とその歩みを振り返る。

『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』は、全国公開中。
(C)L. Champoussin /M.I. Movies /(C)2024「SPIRIT WORLD」製作委員会
1963年『悪徳の栄え』で脚光を浴び、同年に未婚の母に
1943年10月22日、カトリーヌ・ドヌーヴは舞台俳優で外国語映画の吹替監督の父(モーリス・ドルレアック)と舞台女優だった母ルネ・シモノの間に四姉妹の三女としてパリで誕生した。幼い頃からすぐ上の姉フランソワーズや妹とともに子役の吹替をするなど映画の現場に親しんでいたが、快活で華やかなフランソワーズに比べて、カトリーヌは控えめでおとなしい性格だったという。
だが、ひと足先に俳優の道に進んだ姉の後を追うように13歳で映画に出演、これが俳優としての第一歩となった。この時、姉と混同されるのを避けるため、母の旧姓「ドヌーヴ」を芸名に選んだ。
1960年代になると、ロジェ・ヴァディム監督の『悪徳の栄え』(1963年)で美徳を体現する清純なジュスティーヌを演じて脚光を浴びる。ヴァディムとは恋愛関係になり、1963年に息子クリスチャン・ヴァディムを授かるが、結婚はしなかった。若い映画スターが未婚の母になることは、当時のフランスでも驚かれた選択だが、20歳のドヌーヴは自らの意思を貫いた。
主演作『シェルブールの雨傘』がカンヌ国際映画祭グランプリ受賞
母となって最初の主演作、ジャック・ドゥミ監督のミュージカル映画『シェルブールの雨傘』(1964年)が、彼女を国際的なスターの座に押し上げた。ミシェル・ルグランによる哀愁漂うメロディが全編に流れ、セリフも全て歌。若い男女がアルジェリア戦争によって引き裂かれる悲恋物語で、歌唱は吹替だが、ドヌーヴは可憐でありながら憂いを帯びたヒロイン、ジュヌヴィエーヴを体現し、観客の涙を誘い、同作はカンヌ国際映画祭でグランプリ(現パルム・ドール)を受賞した。

『シェルブールの雨傘 デジタルリマスター版(2枚組)』
DVD発売中 ¥5,170(税込)
発売元・販売元/ハピネット (C)Ciné-Tamaris 1993
そして翌1965年、ドヌーヴはロマン・ポランスキー監督の『反撥』で精神的に追いつめられる女性を演じてイメージを一新する。モノクロ映像の中で壊れゆく女性の内面を熱演したドヌーヴは1967年、ルイス・ブニュエル監督の『昼顔』で、昼は上流婦人、夜は娼婦という二重生活を送る女性を演じ、これ以上ない美しさで退廃を表現。映画はヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞した。
1960年代半ばからはファッションデザイナーのイヴ・サンローランのミューズとして、公私にわたって彼の衣装を着用した。クールビューティー、ドヌーヴのイメージを確立にはサンローランが大きく貢献している。
『ロシュフォールの恋人たち』で姉妹共演、直後に姉が事故死
1967年には姉フランソワーズとの共演作でドゥミ監督の『ロシュフォールの恋人たち』も公開された。ハッピーな空気が満ちたミュージカルで、姉妹が演じる双子姉妹の恋模様を描く明るい作品だが、これはフランソワーズにとって遺作となってしまう。彼女は映画公開から数ヵ月後の1967年6月、交通事故で不慮の死を遂げた。
ドヌーヴは「姉は私の半身でした」と後に語り、喪失感は彼女の人生とキャリアに影響を与えた。ドヌーヴは仏版Vanity Fair誌の2025年2月号のインタビューで、姉のことを「毎日毎晩」考えると明かし、フランソワーズが事故死せずにいたら、俳優の仕事を続けていたかという問いには「考古学者になっていたかもしれません」と答え、別のキャリアに進んだかもしれない可能性を語った。
最愛の姉を失った深い悲しみを振り切るようにドヌーヴは仕事に打ち込み、トリュフォー監督の『暗くなるまでこの恋を』(1969年)、ジャック・レモン主演の『幸せはパリで』(1969年)でヒロインを演じてハリウッドに進出し、ブニュエル監督と再び組んだ『哀しみのトリスターナ』(1970年)、童話をミュージカル化した『ロバと王女』(1970年)など幅広い役に挑戦した。
共演者と恋に落ち娘を出産するも結婚はせず
1971年、『哀しみの終るとき』で生まれてまもない我が子を亡くす夫婦役で共演したマルチェロ・マストロヤンニと出会い、翌年の『ひきしお』でも共演。1973年に娘キアラが誕生し、同年『モン・パリ』でも共演したが、彼とも結婚せずに1974年に破局している。
1980年、トリュフォー監督の『終電車』でナチス占領下のパリで劇場を運営する女性を演じ、セザール賞主演女優賞を受賞した。1983年、トニー・スコット監督の『ハンガー』ではデヴィッド・ボウイと何世紀も生き続けるヴァンパイアのカップルを演じ、妖艶な魅力を放った。
1992年、レジス・ヴァルニエ監督の『インドシナ』では、1930年代のフランス領インドシナを舞台に現地の王族の遺児を養女に迎えて広大なゴム園を経営する女性を演じ、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、映画は同賞外国語映画賞を受賞。本国フランスではセザール賞主演女優賞の2度目の受賞を果たした。
興味を持った監督や題材を選び、是枝裕和監督の作品にも出演
1990年代はアンドレ・テシネ監督の『私の好きな季節』(1993年)と『夜の子供たち』(1998年)や、俳優でもあるニコール・ガルシア監督の『ヴァンドーム広場』(1998年)に出演、後者でヴェネツィア映画祭女優賞(ヴォルピ・カップ)を受賞。1999年には鬼才レオス・カラックス監督の『ポーラX』に出演、主演ではなくとも興味を持った監督や題材を選び、その中にはラース・フォン・トリアー監督の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)、イザベル・ユペールらと共演の『8人の女たち』(2002年/フランソワ・オゾン監督)、娘と共演した『クリスマス・ストーリー』(2008年/のアルノー・デプレシャン監督)などがある。
近年は海外の才能とのコラボレーションにも積極的で、是枝裕和監督が渡仏してパリで撮影した『真実』(2019年)ではジュリエット・ビノシュと母娘を演じた。

『真実』(C)2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA
脳卒中から復帰、実在の人物役に初挑戦
同年11月、脳卒中を起こして入院したが、リハビリを経て仕事に復帰し、病により撮影が中断していた『愛する人に伝える言葉』(2021年)では末期がんで余命宣告された息子と向き合う母を演じた。その後もコンスタントに仕事をこなし、2023年には、日本贔屓で知られたフランスのシラク元大統領の夫人を描く『ベルナデット 最強のファーストレディ』でキャリア初の実在の人物役に挑戦、溌剌とした演技で健在ぶりを印象づけた。

『ベルナデット 最強のファーストレディ』
(C)2023 Karé Productions – France 3 Cinéma – Marvelous Productions – Umedia
『SPIRIT WORLD』では堺正章と名コンビに
そして2024年の年明け早々に来日、撮影したのがシンガポールのエリック・クー監督の『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』だ。
彼女が演じた歌手のクレアは、久々の来日公演を終えたその夜に急逝してしまう。異国で彷徨える魂になった彼女は、彼女の大ファンでほぼ同時期にこの世を去っていたユウゾウと出会い、彼の息子ハヤトの旅を共に見守る。

『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』
(C)L. Champoussin /M.I. Movies /(C)2024「SPIRIT WORLD」製作委員会
ユウゾウを演じる堺正章とは、各々のセリフはフランス語と日本語のままだが、間合いは完璧で、どこかユーモラスで軽やかな名コンビとなっている。竹野内豊が演じるハヤトは多くの葛藤を抱えているが、苦悩する彼に向けるクレアの母性も自然に美しく表現している。

『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』
(C)L. Champoussin /M.I. Movies /(C)2024「SPIRIT WORLD」製作委員会
恋多き女は私生活を語らず。社会問題に積極的に取り組む一面も
ドヌーヴの私生活は華麗であると同時にミステリアスだ。一児をもうけたヴァディムがジェーン・フォンダと結婚したことに対する当てつけのように、1965年にイギリスで写真家のデイヴィッド・ベイリーと結婚したが、2年後に離婚している。結婚はこの1度きりで、マストロヤンニの他にはメディア界隈の大物ピエール・レスキュールとの交際が知られているが、私生活を積極的に語ることはない。
その一方で、自身自身の名声を活用し、社会問題に積極的に取り組んできた。1971年、人工妊娠中絶の合法化を求める「343人のマニフェスト」に署名し、自身の経験を公表。フランスの中絶合法化(1975年ヴェイユ法)に貢献した。アムネスティ・インターナショナルの親善大使として、2000年代初頭に死刑廃止を訴える国際キャンペーンに参加し、米国での死刑執行に抗議。環境保護や難民支援、子どもの権利擁護にも尽力し、2011年には国連での同性愛非犯罪化決議を支持する請願に署名した。2018年、#MeToo運動を「ピューリタニズム」と批判する公開書簡に署名し物議を醸したが、後に被害者に謝罪し対話を重視する姿勢を示した。2025年5月、パレスチナ人ジャーナリストの殺害事件を受け、ガザでの「ジェノサイド」を非難する請願にも900人以上の映画関係者と共に署名している。
ドヌーヴはフランス映画の黄金時代を象徴しつつ、現代の観客にも響く普遍性を持つ。年齢に囚われることなくなおも進化を続ける、静かなその情熱が彼女を唯一無二の存在にしている。(文:冨永由紀/映画ライター)
・『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』その他の場面写真はこちら
『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』は、全国公開中。
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