イケオジのサイコパス役に震撼! 65歳になった“ロマコメの帝王”の現在地とは
#この俳優に注目#ヒュー・グラント#異端者の家#クラウド アトラス
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年齢を重ねるほどに自由度が増す俳優
【この俳優に注目】ヒュー・グラント(前編)
歳を重ねるにつれて、より自分らしくなる。それがヒュー・グラントという生き方の真髄だ。かつてロマンティック・コメディの素敵な二枚目として絶大な人気を誇った彼は、今年65歳になる。だが、知性と辛辣なユーモアで彩られた自由さと、飽くなきチャレンジ精神で、俳優としてのキャリアを進化させ、さらにはSNSで遠慮ない本音を炸裂させながら社会としっかり関わり続けている。
・みんなこの男に騙される!ヒュー・グラントの愛されイメージを逆手に取った腹黒アイデア『異端者の家』監督インタビュー
グラントのキャリアは、年齢を重ねるごとに「期待される枠」をぶち壊す自由度が増している。1990年代には『フォー・ウェディング』(1994年)や『ノッティングヒルの恋人』(1999年)で不器用な英国紳士を演じ、“ロマコメの帝王”と呼ばれたが、50代以降はひと癖ある悪役でも独特の魅力を放つようになった。『パディントン2』(2017年)の自惚れ屋の老優フェニックス・ブキャナン役や、『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(2023年)のウンパルンパ役でのコミカルな演技も印象深い。そんなイメージが定着しつつある今、公開中の主演作『異端者の家』では、さらに新たな一面で観客を震撼させている。
異色ホラー『異端者の家』でサイコパスを怪演
A24作品らしい異色ホラー『異端者の家』で彼が演じるのは、森の中の一軒家に暮らすミスター・リード。近隣を回って布教活動中の若い宣教師の女性2人を自宅に招き入れ、「どの宗教も真実とは思えない」と挑発し、2人を監禁するサイコパスだ。
白髪混じりでメガネをかけ、優しい表情のおじいちゃん然とした様子に女性たちが油断すると、突然本性を表して牙をむく。面白いのは、このミスター・リードという人物の自意識だ。“イケオジ”という概念をバカにしつつも、心の奥底では「自分はイケている(特に知性と教養面で)」と自惚れているような厄介さ。ある意味、かつてロマコメで演じてきた人物たちの不幸な成れの果てのようでもある。ミスター・リードの猟奇性は洒落にならないが、あらゆる手を尽くして宣教師2人を論破し、心理的に追いつめていく博覧強記の老人の執念深さにはごく微かに滑稽さもあり、グラントならではの風刺が込められている。
『異端者の家』
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その異様な迫力は各方面で絶賛され、昨年のトロント国際映画祭でのQ&Aでグラントは、「年をとって醜くなり、主役のオファーが来なくなった」と自嘲しつつ、悪役を演じるのは「タイプキャストからの解放」だと語った。
60代にしてジャンルを軽々と飛び越えるグラントは、「歳を取る=もっと自分らしく」を体現する。
辛辣でウィットに富んだ発言で賛否両論を呼ぶことも
グラントの自由さは、スクリーン外での遠慮ない本音にも表れている。SNS(X)での日常の出来事から政治や社会問題に至るまでの投稿は、辛辣でウィットに富んだ表現で綴られ、ときにバトルも起きる。
グラントはかつて、タブロイド紙による電話盗聴の被害を受けたが、同紙出身のジャーナリスト、ピアーズ・モーガンとは政治的見解の相違などからも長年犬猿の仲で、SNSやメディアを介してしばしば対立している。今年1月、モーガンが「(ルパート・)マードックの映画で稼いだくせに」と、タブロイド紙の社主がオーナーだった会社製作の作品にグラントが主演したと噛みついた際、グラントは「でたらめだ。最後にマードックの会社で仕事したのは1994年」と切り返した。モーガンが『マダム・フローレンス! 夢みるふたり』(2016年)が英国ではマードック所有(当時)の会社で配給されたと食い下がると、「あの映画はBBCとパテが製作した」「(マードックの会社は)UK国内の配給会社だっただけですよ。その調子で頑張って」と皮肉っぽく返した。
4月には、ヒースロー空港の入国審査官が子どもたちに「この人たちはお父さんとお母さん?」と尋ねたことを「押しつけがましく、侮辱的で不気味だ」とXで批判し、賛否両論を呼んだばかり。
この「どう思われても本音を吐く」姿勢は、ロマコメでの当たり役のイメージに苦しめられていた時代からは考えられない自由さだ。
パニック障害に苦しんだ40代
常に自信たっぷりに見えるグラントだが、40代の頃はパニック障害に苦しみながら仕事をしていた。その最中に出演した『ラブソングができるまで』(2007年)で共演したドリュー・バリモアのトークショー出演時、当時について「頭がおかしくなった時期だった」と自嘲した。「感謝の習慣でマシになった」と語る彼は、自分の弱さと向き合い、笑って前に進む強さを手に入れたようだ。このウィットと本音のミックスが、彼をさらに“愛される存在”にしているのだろう。
俳優としてのキャリアについては、2009年のロマンティック・コメディ『噂のモーガン夫妻』の興行成績が思わしくなかった頃に停滞したと振り返っている。昨年、Peopleなどのインタビューで、彼はこの時期について「完全に取り残された」「キャリアの低迷期」と表現した。
『クラウド アトラス』での醜悪な役柄でロメコメの呪縛から解放
転機が訪れたのは2012年、『マトリックス』シリーズのウォシャウスキー姉妹とトム・ティクヴァが共同監督した『クラウド アトラス』への出演だった。19世紀から24世紀までの異なる6つの時代を生きる6役を演じたが、どれもそれまでのイメージにはない非道で醜悪なキャラクターばかり。特に文明崩壊後の2321年の世界で演じた人食い族のチーフは、素顔がまったくわからない異様な風体で獲物を貪る姿が衝撃的だった。
『クラウド アトラス』では悪役に挑戦。醜悪な人食い族を演じた。<br. (C) 2012 Warner Bros. All Rights Reserved.
グラントはVanity Fairのインタビューで、この映画が「演技を楽しむきっかけ」となり、以降のキャリアに大きな影響を与えたと語っている。確かに、同作以降は悪役を含めてキャラクター性の強い役が増え、『異端者の家』へと繋がっていったのは明らかだ。
2012年の 第37回トロント国際映画祭で『クラウド アトラス』を上映。約10分間のスタンディングオベーションが続いた。写真左からトム・ハンクス、ハル・ベリー、ヒュー・グラント。
実は筆者がヒュー・グラントという俳優の真価に触れたと感じたのも本作だった。脇役を複数演じるという特異な出演だが、どの役も見事に人物像が作り込まれていて、全編を通して彼の実力を示すショウケース的な役割を果たしている。
『クラウド アトラス』は彼をロマコメの呪縛から解き放ち、何でもできる俳優への進化を加速させた。無難な主役から、リスクもあるがやりがいも大きな脇役への転身によって、新たな魅力が開花している。ガイ・リッチー監督の『コードネーム U.N.C.L.E.』(2015年)や『ジェントルメン』(2019年)といったアクション作でダークなユーモアや遊び心を見せる一方、『マダム・フローレンス! 夢みるふたり』やTVシリーズ『フレイザー家の秘密』などにも出演。「演技を楽しむ」ことを軸にしているからこそ、出演作のジャンルもシリアスなものからコメディ、ファンタジー、ホラーまで縦横無尽。まるで『クラウド アトラス』が描いた魂の転生と繋がりを、自身のキャリアでなぞっているかのようだ。
ドラマ『フレイザー家の秘密』では、初共演のニコール・キッドマンと夫婦役を演じた。
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後編では、『ブリジット・ジョーンズ』シリーズをはじめとするロマコメなど初期の代表作や、波乱に満ちたこれまでの歩みを振り返りたい。(文:冨永由紀/映画ライター)
※(後編)は近日掲載
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