IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。

【第4回】「あれ何なの?」ホラー映画に登場する単語やモノを解説〜ピエロ(クラウン)編〜

【ホラー&オカルト映画のキーワード解説】本コラムでは、ホラー映画やオカルト的要素が含まれる作品、猟奇殺人モノなどで頻出する単語やガジェットを解説していく。

映画に登場する装置がどんな歴史を持っているかや、どのような使われ方をしていたのかを理解しておけば、より味わいが深まるかもしれない。今回は「ピエロ」をとりあげる。

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タイトルにピエロ(クラウン)と書いたが、道化師はクラウンと呼ばれ、クラウンの一形態がピエロである。よって、正しくは「クラウン(ピエロ)」なのだが、逆のほうが通りが良いと判断した。クラウンは、派手な衣装を着て、滑稽な仕草で人を笑わせる。ピエロも同じだが、クラウンよりも愚かで、哀しみを背負っている。だから『気狂いピエロ』は悲しいのだ。という話題はさておき、ピエロはホラー映画によく登場する。ホラー映画でなくとも、ピエロが何らかの形で出現したら「なんか怖い」と反応する人も多いだろう。

ピエロは『IT』『キラークラウン』『マーダー・ライド・ショー』など、様々な作品に登場する。原型はイタリアのコンメディア・デッラルテだと言われているが、歴史をかなりすっ飛ばして、現在、ピエロがここまで恐怖の対象になったのは、おそらくジョン・ゲイシーとスティーヴン・キング御大の影響によるものだろう。

『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』
(C) 2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』
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ジョン・ゲイシーは、キラー・クラウンの異名を持つ伝説的な連続殺人鬼で、197278年までに33人を殺害。12回の死刑判決と21回の終身刑判決を受け、1994510日に処刑された。彼は会社経営者で、休日には道化師「ポゴ」になり、福祉施設を訪れ、ボランティア活動をしている。写真を検索してもらえばわかると思うが、これが結構怖い。

一方、スティーヴン・キングは、殺人こそ犯していないものの、多くの人々にトラウマを植え付けたホラー小説家の大物中の大物である。あの名作「キャリー」や「シャイニング」、「IT」も彼の作品だし、山中で監禁された小説家が鬼の編集ババアに地獄のリライトを強要される傑作「ミザリー」も、彼がタイプしている。とにかく、とんでもない大物である。この2人は、間違いなく全人類に「ピエロ=恐怖の対象」という、数式にもならない常識を植え付けたと言ったら言いすぎかもしれないが、罰はあたらないだろう。

なぜ人は、ピエロに恐怖を感じるのか

欧米には、道化恐怖症(Coulrophobia)という恐怖症がある。正確には病気ではないが、ピエロを見ると恐怖を覚える心理を指す。有名どころでは、ジョン・ゲイシーが獄中で描いたピエロの絵をコレクションしているのにも関わらず、ピエロ恐怖症だと公言しているジョニー・デップがいる。「まんじゅうこわい」みたいなものだろうか。「あいつは気に食わねぇから、ピエロ責めにして脅してやろう」と言われ、散々怖がった挙げ句に「このへんで、ハーレクインが怖い」とか言い出しそうである。

デップの話はさておき、なぜ人がピエロに恐怖を感じるのかについては、ゲイシー、キング2人の影響以外にも、様々な検証がなされている。不思議なことに、女性よりも男性のほうがピエロのことを不気味だと感じている人が多い。

また、ピエロの独特の笑い顔や、目のサイズ、靴の大きさなどの「異形」に恐怖を感じるのではなく、ピエロの表情が読めない曖昧さや、次に何をするのかわからない予測不可能性が怖いといった検証結果も出ているそうだ。

個人だけでなく、ピエロは集団心理的なものも引き起こす。2016年には、米国やイギリスで、一般人がピエロに追いかけられる事件が多発した。ほとんどは悪戯の類だが、中には人に襲いかかるようなものもあり、You TubeFacebookなどで拡散され、社会的な問題になった。米国ではスティーヴン・キングが「お前ら落ち着け」と発信するものの「お前がペニーワイズ書いたからやんけ」と反論が来るという、ほのぼのした一幕があったのも、今や懐かしい。

恐怖の対象は、語り手があってはじめて大衆に認知される。ピエロが本来の意味を離れ、恐怖の対象として広まっていったように、今後も新しい「恐怖症」が登場するだろう。筆者は、その恐怖症はTik Tokからやってくることにベットしたい。(text加藤広大/ライター)

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