『ゴーストマスター』三浦貴大インタビュー

安易な発送と低い志の“あるある映画”への熱い思い語る

#三浦貴大

もう疑問を持ったら終わりだなと思って演じた

流行っているから低予算で作れば儲かる、という安易な発想と低い志で製作されることになった“壁ドン映画”の撮影現場が、やがて悪霊を呼び寄せ、阿鼻叫喚のホラーコメディへと変貌する――。この奇想天外で予測不可能な怪作『ゴーストマスター』のメガホンをとったのは、「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM」で準グランプリを受賞した新星、ヤング ポール監督。ダブル主演を務める三浦貴大と成海璃子をはじめ、川瀬陽太、森下能幸、手塚とおる、篠原信一、麿赤兒ら濃厚な個性派キャストと、板垣瑞生、永尾まりや、柴本幸、原嶋元久らフレッシュな若手実力派を迎え、疾走感あふれる作品を生み出した。今回は、この映画愛あふれる作品で、主人公の助監督・黒沢明を演じた三浦貴大に話を聞いた。

──この作品のオファーが来た時はどう思われましたか?

三浦:面白い話だなと思いましたけど、全く完成図が想像できなかったですね。これが完成したらどんな作品になるんだろうと思っていました。

──元々この企画は、新人発掘を目的とする「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM」の一環として制作されました。ヤング ポール監督も本作が長編デビュー作ということですが、一緒にお仕事した感想は?

三浦貴大

三浦:僕はいつでも、芝居のことだけを考えて現場に入るようにしているので、監督が新人だということは特に関係なかったです。でもそういう試みは非常に面白いなと思いますし、新たな才能がある人を発掘してオリジナルで撮るということは、映画界にとっても意義があることだと思います。

──現場でのヤング ポール監督はどうだったのでしょうか?

三浦:スタッフの皆さんがかなりベテランで仕事ができる人たちだったので。「逆に監督が本当に言いたいことを言えてるんだろうか」と僕と成海(璃子)さんとで少し心配していた時はありました。そこで、監督と飲みに行く機会があった時に、「疲れてないですか? どうですか?」と聞いたことがあったんですけど、全然、自分のやりたいようにやれているということだったので。安心しました。長編が初だと言っていましたけど、そんな感じもしなかったですし。監督の演出意図も絶対的なものがあって、それは基本的に崩さない。やりやすい監督でしたね。

──確かに完成した映画からは、きっと監督のやりたいことは全部やりきったんだろうなという感じはありました。

『ゴーストマスター』
(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会

三浦:そうですよね。実はたまたまこの間、『アイネクライネナハトムジーク』の今泉力哉監督にお会いしたんですけど、『ゴーストマスター』を見てくれていて。面白かったと言ってくれたんですが、「この監督、次は何やるんだろう、というくらいにやりきっているよね。次回作どうするんだろう」という話をされていたので(笑)。次回以降が楽しみですね。

──内容的にもだいぶ今の映画界を皮肉ったり、茶化したりしている感じがあって面白かったのですが、この内容を聞いたときはどう思ったのでしょうか?

三浦:やはり僕も映画をメインでやっているので。一番初めに出てくる、低予算で少人数スタッフの壁ドン映画のようなものはあるんですよね。まさにああいう現場なので、それがもう面白かったですね。「こういうのあるよな」と。

『ゴーストマスター』
(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会
──映画愛がテーマの作品だと思うんですが、監督からは何かこの作品を見てくれといった参考資料的なものはあったのでしょうか? 例えば(劇中でも言及されている)トビー・フーパーの映画を見てくれとか。

三浦:いくつか資料としてもらいましたね。(劇中でオマージュを捧げられている)『スペースバンパイア』も見ました。すごい映画だなと思いましたけど(笑)。ただ、やはり本当に映画が好きな人が作っている映画なので、映画愛が詰まっている。大好きな作品ですね。

──監督とのやりとりで印象に残っていることはありますか?

三浦:急にあずきバーで戦うことになったり、屋上をスローモーションで走らされたりとか。監督が本当に突拍子もないことを言ってくるので、それはもう疑問を持ったら終わりだなと思って(笑)。こうやってくださいと言われたら、「はい!」と。とにかくやろうと決めました。本当に勢いで乗り切ったような気がします。

──現場の雰囲気も楽しかったのでは?

三浦:そうですね。みんなで知恵を出し合って工夫をしながら撮影をしている時は、すごく楽しかったですね。ただ基本的には夏の熱海の山の中での撮影で。クーラーもない廃校だったので、みんなグッタリしていましたね。本当に体力的にもスケジュール的にも大変でした。

ちょっとグロいけど、デートでも見られる映画だと思っている
『ゴーストマスター』
(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会
──暑い夏の撮影は大変でしょうね。

三浦:それでいったら一番大変だったのは(壁ドンのモンスターとなった)板垣瑞生くんでしょうね。一番蒸れるやつをずっと着けていますからね。あれは大変だっただろうなあ(笑)。それなのに、板垣くんは全然大変そうな顔をしないんです。表情は分からないですけど、大変そうな感じを全く出さなかったですね。

──板垣さんも強烈なインパクトがありましたね。

三浦:そういえばすっかり忘れてたんですけど、板垣くんとは昔、彼が中学生くらいの時に、大河ドラマ(『花燃ゆ』)で僕の息子役をやったことがあるんですよ。僕自身、実年齢より上の役だったんですけど。今回の現場で、2日か3日くらい経ったときに「実は俺、三浦さんの息子やったことあるんですよ」って。先に言ってくれよと思いましたけど(笑)。こんなに大きくなったのと思って、すごくビックリしましたね。俺より背が大きくなっちゃって。

──成海(璃子)さんとの共演は?

三浦:昔、成海さんがまだ10代の時に兄妹役をやって、それ以来だと思います。久々でしたけど、大人になっていましたね。

──やはりみんな大人になっていくんですね。

三浦:そうですね。成海さんはすごいです。女優さんの中でも職人肌というか。そういったものを僕は感じますし、オーダーされたものをきちんとやるという気概を感じるので。僕はそこがすごく好きなんです。向こうはどう思っているのか分からないですけど(笑)。

──監督役は『ローリング』で共演していた川瀬陽太さん。本作では、川瀬さんが監督、三浦さんが助監督という間柄でしたが。

三浦:とてもやすかったですね。僕は川瀬さんが大好きなんです。やはり百戦錬磨の方なので、現場にいても、監督より監督なんですよ。ちょっと現場が止まりそうになったりすると、こうやった方がいいんじゃないと言ったり。こうやった方が早いよ、という感じでパッとやってくれたりします。本当にまわりが見えてる人なんです。そして川瀬さんこそ映画愛が強い人なので、このキャスティングに最適な、作品を体現した人だと思います。

──それでは最後に、これから映画を見る方にメッセージを。

三浦:この映画はちょっとグロいですけど、デートでも見られる映画だと思っていて。笑って泣けると思うんですよね。ジャンルとしては、この映画は青春ものだと思っています。青春ものだと思って見に来てくれるといいな、と。ただ、青春映画だと思って見に来たらグロかったじゃないかという苦情は受け付けませんけどね(笑)。でも見終わった時には、僕が青春映画だと言っている意味がきっと分かっていただけるのではないかと思います。ホラーやスプラッターがちょっと苦手な方も、ちょっと勇気を出して見ていただけると何か新しい発見があるんじゃないかなと思うので、劇場で見ていただけたらと思います。

(text&photo:壬生智裕)

三浦貴大
三浦貴大
みうら・たかひろ

1985年11月10日生まれ、東京都出身。『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(10年)で俳優デビュー、同作で第35回報知映画賞新人賞、第34回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後も数多くの映画、ドラマに出演、若手実力派の地位を確立。近年の主な映画出演作に『サムライフ』(15年)、『進撃の巨人』シリーズ(15年)、『ローリング』(15年)、『マンガ肉と僕』(16年)、『怒り』(16年)、『追憶』(17年)、『四月の永い夢』(18年)、『のみとり侍』(18年)、『栞』(18年)、『ダンスウィズミー』(19年)など。今後の待機作に『初恋』(20年2月28日公開)、『大綱引きの恋』(21年公開予定)などがある。