尋常ではないエロティック・サスペンス、フランスの名女優×『氷の微笑』の監督による怪作
#イザベル・ユペール#エル ELLE#エロい映画#ポール・ヴァーホーヴェン
(C)2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP
“とんでもない世界”の予感しかない『エル ELLE』
今回のコラム「#エロい映画」では、『エル ELLE』を取り上げたい。原作は、『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』のフィリップ・ディジャン。監督は『氷の微笑』のエロティック・サスペンスで名を馳せたポール・ヴァーホーヴェン。そして主演は、『ピアニスト』で異常な性癖を持つピアノ教師役を演じてカンヌで主演女優賞に輝いたイザベル・ユペールである。揃いも揃ってこのメンツ。常人には想像が及ばないとんでもない世界を見せてくれそうな予感しかないではないか。
・取調室でのスカートの奥に目が釘付け! 激しい騎乗位も必見の伝説的スリラーがエロすぎる
犯されたのになぜ? 冷静な主人公に居心地の悪さをおぼえる
映画は、冒頭からいきなりレイプシーンで始まる。床に押し倒され、目出し帽をかぶった男に乱暴に犯されるミシェル(イザベル・ユペール)。二人が揉みあったせいで卓上の食器が落ち、床には破片が散乱している。もし女性がレイプされたら、その不幸な出来事に打ちのめされて涙を流すか、すぐに警察に通報するか、そんな行動を取るのではないだろうか。
だがミシェルは、そのどちらも選ばない。レイプ犯が逃走した後、いたって冷静に床に散乱した食器の破片をほうきでかき集め、ゴミ箱に放り込む。うっかり手を滑らせて割った食器の後始末となんら変わらぬそのテンションに、見る者はどこか居心地の悪さをおぼえる。「えっ? この人さっきレイプされてた人と別人?」と思いたくなるくらいの不気味な落ち着きようだ。当然、警察に通報する気もさらさらない。挙句の果てには後日の友人との会食で、まるで週末のショッピングの報告でもするようにさらりとレイプされたことを告白する。
(C)2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP
彼女は心が不感症になってしまったのか
これらのエピソードからもわかるように、ミシェルという女は「肝が据わっている」といった月並みな言葉では表現しきれない怪物級のメンタルの持ち主である。レイプの噂を聞き付けた何者かが、それをネタにしたタチの悪い動画をミシェルが経営する会社の社員全員のパソコンに送りつけるような嫌がらせをした時も、軽く眉をひそめる程度であまり動じない。そして、レイプ犯も動画の送り主も、警察の手を借りずに自分の手で探し出そうとする勇敢さすら見せるのだ。
(C)2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP
ミシェルの周りには、健全で温かい人間関係というものがほとんど見当たらない。尻軽で気の強そうな女とできちゃった婚をした元麻薬売人の息子、老いても色欲衰えず若い恋人にご執心の母親、かつて人の道を大きく外れる過ちを犯して服役中の父親、若い恋人にうつつを抜かす売れない小説家の元夫、常にミシェルに反抗的な会社の部下、ミシェルの親友アンナと結婚していながらミシェルともベッドを共にするゲスな男ロベール……。
ミシェルは、息子のバカ嫁も色ボケした老母も犯罪者の老父も愛人のロベールも、自分の周囲の人間の大概を嫌っているように見える。心の底で軽蔑をしながら、冷めた目で彼らを見ているのだ。レイプされても動じないし、ましてや映画の後半でレイプ犯の正体がわかっても、相手を責めたり警察に突き出したりすることなく信じられないような関係を築いていく。幼少期のとあるトラウマが原因で、心が不感症になってしまったのだろうか。
得たいの知れない女を見事に演じたユペールの魅力
でも1番恐ろしいのは、そんな得体の知れないメンタルお化けのミシェルという女をサラリと演じきったユペールかもしれない。
彼女は、それなりの年齢を重ねているものの何とも言えない妙な色気が漂うエロティックな女性だ。『エル ELLE』のユペールを見ていると、本当の色気やエロさというものは、服を脱ぐとかセックスをするとかそういうことではないのかもしれない、と思わされる。そのくらい、本作でのユペールは女性としての魅力にあふれている。(文:春蘭/ライター)
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