1967年、京都生まれ。映像制作の仕事を経て、映画監督に挑戦。これまで自主映画で『拳銃と目玉焼き』(14年)、『ごはん』(17年)を監督。『侍タイムスリッパー』(24年)は3本目の長編映画となる。2023年に父親の逝去により米農家を継ぎ、映画監督と農業を兼務することに。
『侍タイ』公開時の目標は日本アカデミー賞、叶って嬉しい/沙倉
幕末の会津藩士が現代の京都にタイムスリップし、時代劇の「斬られ役」として第二の人生を歩む様子をコミカルかつ人情味あふれる描写で描いた映画『侍タイムスリッパー』。自主制作映画ながら興収10億円超えの大ヒットとなり、第48回日本アカデミー賞最優秀作品賞と最優秀編集賞を受賞するなど快進撃を続けている。
本作でヒロイン役を演じているのが沙倉ゆうの。現代にタイムスリップした主人公の武士が密かな思いを寄せるマドンナ役で、役柄は時代劇の助監督。なんと、本当に映画制作の助監督も兼務していたというから驚きだ。
『侍タイムスリッパー』
2024年8月17日より絶賛公開中。Prime VideoおよびJ:COM STREAMの2サービス独占で見放題配信中。ほか各プラットフォームにてレンタル配信中
(C)2024未来映画社
安田淳一監督とは2005年にイベントムービー出演依頼の付き合いで、監督の過去作『拳銃と目玉焼』(14年)、『ごはん』(17年)でもヒロインを務めている。気心の知れた関係で、関西弁でテンポ良く会話している様子は、まるで漫才コンビのよう。そんな2人に、大ヒットへの感慨、今後の抱負などについて語ってもらった。
監督:全国的な広がり、賞をいただいたことなど、「こうなってほしい」と思っていた以上の結果になったと思います。
そもそも僕の作品はあまり映画祭で賞を受賞するような感じでもないので、日本アカデミー賞で最優秀作品賞をいただいたことには心底驚きました。それについて、応援してくださったお客さんや関係社のみなさんが喜んでくれたのが、本当に良かったと思います。
ただ、この作品にしがみつくことなく、また面白い作品を頑張って作っていけたらと思っています。
沙倉:公開してからずっと、ちょっとずつちょっとずつ応援してくれる人が増えていって、その方たちがずっと一緒に支えてくれて。毎日、わたしたちが感じるくらいの熱量で応援してくれているというのが嬉しいなって。
『侍タイムスリッパー』を公開するにあたって、私の目標は日本アカデミー賞でした。そこに『侍タイムスリッパー』を持って行きたいというのが目標の1つだったので、それが叶って嬉しいです。
監督:声をかけられたことは、地元では何回かあります。スーパー銭湯に行ったら、結構馴染みで行っている所なんですけど、フロントのお姉さんが「映画の!」と言ってくださったり。あとは、田んぼ(※)でトラクターで耕運していてパッと振り向いたら、ご婦人2人がワァ〜と手を振ってくれて、映画を見てくれたんだと思うんですけど、そんなことがありました。
ただ、東京や京都市内を歩いているときにはそういうことは一切なく、なんとか平穏な感じで過ごせています。
※安田淳一監督は、米作りを行う兼業農家でもある。
沙倉:監督は笑っていますが(笑)、私は全く気づかれないんです。
東映京都撮影所に所属しているのですが、撮影所で別の組の監督やスタッフさんに声をかけてもらうことはちょっと増えました。今までお仕事をご一緒したことのない方にも声をかけてもらっています。
実は安田監督ですら、私に気づかないことが多いんです。待ち合わせしたとき、目の前に行くまで気づかなくて、監督の前に立って初めて「おお!」と言って驚くんです(笑)。
監督:突然、目の前に現れる感じなんです。急に1メートル50センチの場所に立っているというか。
沙倉:舞台挨拶などの後、新幹線で一緒に帰ってきて目の前に私が居るのに私のことをすっごく探している、なんてことも結構あるんです。
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初タッグ映像、起用の決め手は「バレエができること」/監督
沙倉:監督とは、5分くらいのイベント用ムービーを制作したときに出会いました。元々はOL役として別の女優さんにオファーがあったんですけど、事務所の方が「他にもタレントがいますよ」と紹介したのが私でした。私がバレエのトウシューズを履いている写真があったので、OLの話から「バレリーナをもう一度目指す女の子」の話にしようとなり、私が出演することになりました。それが20年前です。
監督:バレエができるということです。彼女は誰にでも受け入れてもらいやすい風貌ですし、トウシューズで立てるというのはすごく魅力的だったんです。
沙倉:でも、そんなにバレエが上手なわけじゃないんです。高校卒業するころまではずっとやってたんですけど、そこから少し時間が経っていたので……
監督:僕は以前はイベント用ムービーを作る仕事をしていたのですが、一般の人にも見てもらいたいと思うようになって自主映画を作り始めました。そんな中で『拳銃と目玉焼』を作ることになりヒロイン役で出てもらうことになったんです。
沙倉:躊躇はありませんでしたし、「こういうことはイヤ」とハッキリ伝えていたので。下着をふくらはぎあたりまで下ろすようなシーンを撮ってもいいかと聞かれたので、「それはちょっとイヤやわ」と。
監督:インティマシーコーディネーターを入れるほどではなかったのですが、(露出が多めのシーンでは)水着を着た状態で撮影しました。
画面上では多人数で押さえつけられているように見えるカットも、その実ゆうのちゃん本人ではなく丸めた布団相手に演技してたりします。
襲われそうになるシーンはホテルで撮ったのですが、一晩中そのシーンを撮影していて、女性が嫌がっているシーンなので撮る方も疲労が激しいんですよね。でも、翌朝に他の仕事があるからと彼女が元気に帰っていく姿を見て「元気やったねぇ〜」と皆で話したりしてました(笑)。
沙倉:でも、本当にあそこは大変でした。もう一晩中叫んでいて、隣の部屋からも心配してフロントに電話が入ったりして。
監督:『拳銃と目玉焼』を撮った後に彼女の事務所が廃業したので、うち(未来映画社)に所属することになったんです。そこで、彼女のために撮ることになったのが『ごはん』です。
沙倉:私のお芝居の勉強にもなるし、最初は「短編でも撮ってみようか」って始めたんです。
監督:映画館のない地域のホールで、地元のお年寄りたちに見てもらうような映画はどうかな、と思って企画しました。お米作りを頑張る女の子の話がピタッときたので。
田んぼって、皆は自然の風景だと思っていますが、実は毎年毎年、農家の人が一所懸命育んで来たから何百年も残っている風景なんです。これは結構ロマンのある映画になるんちゃうかな、ということで撮り始めました。
監督:『拳銃と目玉焼』もそうですが、ちょっと事情があって2作品とも脚本ナシで撮ってたんです。
当日の朝までに、僕が(その日のシーンの)脚本を書いて撮って……ってやってたんです。
沙倉:朝集合しても、監督がまだ部屋から出てこないんですよ。それでスタッフさんに「今日は何を撮るんですかね」って聞くと、「わからへんねん」って。しばらくすると監督が、書き上げた脚本を持ってやって来る…という感じでした。
監督:役者も大変ですが、それからロケ場所を探したり(小道具など)必要なものを準備したりしてたので、もう大変で大変で。
沙倉:『ごはん』なんかは丸4年かけて撮り続けたんですけど、今撮っているこのシーンが、2時間の映画のなかのどこに出てくるか分からなくなったりはしました。監督もどこを撮ったか忘れてくるし。
なので、とりあえず毎回「元気なパターン、ちょっと疲れているパターン」という感じで2パターン撮っていました。
監督:普通、映画は全体の中で起承転結があるので、1つのシーンは尻切れトンボで終わってもいいんですけど、毎日脚本を書いていると、シーン毎に起承転結をつけてしまうんです。不要部分が多い。なので、『拳銃と目玉焼』では編集時に50分くらい捨てる羽目になってすごくお金を無駄にしてしまいました。
監督:はい。初めてクランクイン前に脚本があるという……(笑)。
沙倉:脚本がないと、役者さんにオファーもできないですから(笑)。
沙倉:役者しかやっていません。
沙倉:自主映画だとスタッフと俳優を兼務することも多いじゃないですか。でも、今回は映画を作るというお話しだったので
助監督役が実際の助監督をするのは面白いんじゃないか、公開時の話題にもなるんちゃう?と監督から提案されました。
監督:その時点での身近なスタッフとしては、ゆうのちゃんと彼女のお母さんくらいしか頼りにする人がいなかったし、シナリオ段階から関わっているので、どうせならスタッフもやってもらったらと思ったんです。助監督の分もギャラもちゃんと出すし話題にもなるしと話したら、「やります」と言ってもらえて。
助監督の仕事はめちゃくちゃ大変。ほぼノーメークでカメラの前に…/沙倉
沙倉:めちゃくちゃ大変でした。最初は、出演シーンがある日は別のスタッフで回すという話だったんですけど、結局、人手が足りなくて、出演シーンがある日も助監督として参加しないと現場が回らないという状態でした。なので出演する日は、まず最初に自分のメイクをして“優子ちゃん”になってからスタッフの仕事をしていました。スタッフワークを始めると、メイクの時間なんて取れないので。
ただ、朝5時くらいからメイクするので、夏なんかは汗で全部メイクが取れちゃうんですよ。でも、そんな状態で「じゃあ、出番です」って言われるから、ほぼノーメークでカメラの前に立っていました。
それがまたリアリティーになってたんじゃないんでしょうか(笑)。
沙倉:そうなんです。撮影が終了した後も、助監督なので次の日の撮影の準備をしないといけないから、小道具の刀を一本一本チェックしたり、草履の準備をしたり。大人数の俳優さんたちが参加するシーンなどの撮影では、みんなが帰ってから1時間半〜2時間近く作業していて、めっちゃ大変でした。
監督:お母さんと2人でね。美術の人に教えてもらいながら。
沙倉:いえいえ、違います(笑)。
監督:元々は主婦です。
沙倉:めっちゃ嫌がっていましたよ。「いるだけでいいって言ってたやん。何も分からへんのに」とか言って(笑)。
監督:『ごはん』の時も手伝ってくれたんですけど、お母さん、すごく頑張ってくれて。現場で他のスタッフは誰も走らないのに、お母さんだけが現場で走って仕事してくれて。
ただ、ひとつだけ言い訳させてもらうと、助監督は他にもいたんですけど、事情があって参加できないことがあって、結局、一番大変な東映京都撮影所の部分をゆうのちゃん1人でやることになって。制作もやって、お金も預かって、ホテルの手配や俳優さんへの連絡、小道具管理までを残業しながらやってくれて。撮影所は車で片道2時間近くあるし、それを毎日やってくれていました。
監督:いいと思いますね。お芝居的にはまだまだ勉強しないとあかんところがあると思いますが、(監督の制作会社)未来映画社として作りたい方向性は子どもから大人まで皆が楽しめる映画なので、彼女のように誰からも好かれるような風貌と雰囲気を持っている女優はとてもいいですよね。
それから、演技力がもし足りないとしても、それを補ってあまりあるメンタルの強さがあるので、素晴らしいと思います。
沙倉:撮影中はもうしょっちゅうです(笑)。上映会なんかでは穏やかで優しいじゃないですか。皆さんそのイメージしかないから、(皆は)撮影の時も私に甘いと思ってるみたいなんですけど、実際に現場で見てびっくりしたと言う人は多いです。
お芝居に対しては、結構きつめに……母から怒られる時のような感じで言われます。
ただ、作品作りに関しては監督に絶対的な信頼を置いていて、ちゃんと良いものを作ってくれると思っているので、何か言われても心の中で「ふん!」とは思いますけど、作品を良くするためだということは分かっています。私としても、できるだけ期待に応えられるようにしたいと思っているんですけど。
『心配無用ノ介』がテレビドラマ化されたら、ゆうのちゃんを主要キャストに/監督
監督:もしも(『侍タイ』の劇中劇スター)『心配無用ノ介』のテレビドラマ化が叶ったら、ゆうのちゃんに主要キャストとして出演してもらいたいと思っています。
監督:僕はどこかで母や父に褒めてもらいたいと思っている部分があるんです。おじいちゃん、おばあちゃんに喜んでもらいたいという思いも。そこに向けて作品を作っているからかもしれません。
僕自身、山田洋次監督が大好きですし、宮崎駿監督、黒澤明監督、伊丹十三監督が好きなので、その影響がにじみ出ているのかもしれませんね。
監督:日本中探しても、ゆうのちゃんのような個性で、誰からも好かれるような雰囲気の女優さんって、あまりいないと思うんです。
監督:皆さんが応援してくださったおかげで、作品をすごく大きく育てていただきました。ありがとうございます。
まだご覧になっていない皆さんも、ぜひご覧ください。
多くの方が仰っておられるように、見て損はない作品だと思います。映画館や配信、ホール上映など色々な形で作品に触れていただけますので、どうぞよろしくお願いいたします。
沙倉:映画『侍タイムスリッパー』は小さい子どもからお年寄りまで楽しんでいただける映画です。ぜひ皆さんでお楽しみください。
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(photo:小川拓洋)
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