アメリカの不条理や矛盾を冷徹に描く3部作の大トリとなる問題作

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『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』

【映画を聴く】『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』前編
前任者の急逝で急遽抜擢された新星

監督がドゥニ・ヴィルヌーヴではないことに不安を感じている人も多いのでは? しかし結論から言ってしまうと、『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』は前作『ボーダーライン』を支持した人の期待を少しも裏切らない続編だ。物語はアメリカとメキシコの国境地帯で繰り広げられる麻薬戦争の闇へ、前作以上に深く潜り込んでいく。

『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』ベニチオ・デル・トロ インタビュー

ヴィルヌーヴ監督だけでなく、撮影監督のロジャー・ディーキンスも音楽のヨハン・ヨハンソンも主演のエミリー・ブラントもいない中、続投したプロデューサー陣と脚本のテイラー・シェリダン、そしてメインキャストのベニチオ・デル・トロ&ジョシュ・ブローリンは、前作の世界観を新監督のステファノ・ソッリマとともに注意深くブラッシュアップ。それでいて人物造形と映像&音楽表現には名作の続編にふさわしい新たな色も加わっている。

本作の核となっているのがテイラー・シェリダンの脚本であることは、どう見ても明らかだ。『ボーダーライン』で脚本家デビューののち、2016年にNetflixオリジナル映画『最後の追跡』でアカデミー賞脚本賞にノミネート、監督デビュー作となった2017年の『ウインド・リバー』の高評価も記憶に新しい。シェリダン本人はこの3作を“現代アメリカ・フロンティア三部作”と位置づけており、西部開拓時代から何ら進化していないアメリカの不条理や矛盾を冷徹に描き出すという点でトーンも共通している。

そんな三部作を経た本作は、『ボーダーライン』の続編でありながらシェリダン的ストーリーテリングの集大成的でもあり、いっぽうでこれまでのシェリダン作品ではそれほど前面に出てこなかった動的な感情描写も目立つようになっている。そしてヨハン・ヨハンソンの急逝により後任として抜擢されたヒドゥル・グドナドッティルの音楽が、そんなシェリダンの脚本の変化を演出する重要な役割を担っている(後編へ続く…)。

後編「今後の音楽活躍に期待高まる2人の女性! 衝撃作を音楽面から見ると…」