ファーストカットから「こう来たか」!『ブレードランナー 2049』の素晴らしさとは?

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『ブレードランナー 2049』
『ブレードランナー 2049』

【週末シネマ】『ブレードランナー 2049』
『ブレードランナー』を見てからの鑑賞をおすすめ!

ファーストカットから、「こう来たか」と感じ入る。リドリー・スコット監督による『ブレードランナー』(82年)のオープニングの記憶を呼び起こす導入部で、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は一気に観客を前作から30年後の2049年へと引き込む。

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前作は1980年代から見た近未来、2019年のロサンゼルスが舞台だった。反乱を起こした人造人間(レプリカント)と、彼らを追跡してリタイアメントという名の処刑(破壊)を施す捜査官(ブレードランナー)の対決を描いた作品はSFの設定に、孤独な捜査官と出自に不安を抱えたレプリカントの恋を織り込んだノワールでもある。雨が降りしきり、人種も言語も多様に混ざり合う猥雑な街の様子、レプリカント量産で栄えた未来の城を思わせるタイレル社の壮麗な構えなど、斬新なヴィジュアルは1つのスタイルとした確立し、映画の評価は公開当初よりもその後に高まり、30年以上経った今も揺るぎない。

ジャンルに限定されない映画史上に残る傑作に続く映画を作る。無謀とも思える取り組みに挑んだヴィルヌーヴは、今回製作総指揮に回ったリドリー・スコットから全幅の信頼を得て、オリジナルを尊重しながら自らの最新作としての『ブレードランナー 2049』を完成させた。

『ブレードランナー 2049』の舞台は前作と同じロサンゼルス。ブレードランナーのデッカード(ハリソン・フォード)が、任務を放棄してレプリカントの女性レイチェル(ショーン・ヤング)と逃亡した30年後、さらに荒廃の進んだ社会で任務に当たるロサンゼルス市警のブレードランナー・K(ライアン・ゴズリング)が主人公だ。タイレル社はすでに倒産、科学者ウォレス(ジャレッド・レト)が資産を買収し、ウォレス・コーポレーションとして新しいレプリカントを製造している。Kはまだ各地で息を潜めているレプリカント捜索の任務に当たっているが、その過程で新たな謎に直面し、さらに恐るべき秘密を発見。その鍵を握るはずの人物、デッカードを捜す旅に出る。

夜の闇と雨が印象的だった前作に対して、霧がかった曇天に雪まで降る白い世界、砂漠化したラスベガスのオレンジの世界が広がる映像はもちろん、前作を踏まえての台詞や設定も、1人ひとりに前作の誰かが投影されているように思える人物設定も、ある種の懐かしさを誘う。それでいて焼き直しめいた既視感とは違う、不思議な感覚だ。特に、ハードボイルドにしてメロドラマという色合いは前作以上に強い。

来日記者会見でハリソン・フォードは何度も「エモーショナル」という言葉を口にし、出演の決め手は「エモーショナルなストーリー」だったと語った。これこそがヴィルヌーヴらしさだ。タイレル社のモットー「人間より人間らしく(More Human than Human)」が想い起こされる。

抑えた表現からKの心理を伝えるゴズリングも、ジョイとラブと命名された女性キャラクターも、デッカードとして再登場するフォードも、それぞれが「人間を定義するものは何か?」という問いの答えを求め続けている。ヴィルヌーヴと脚本のハンプトン・ファンチャー、マイケル・グリーンは記憶をその鍵にしている。これは記憶から生まれる愛着についての映画かもしれない。前作から相応に歳を重ねたフォードの姿がそこにあることは、現実世界の35年というときの流れと相まって、このうえないリアリティを与えている。

『ブレードランナー 2049』の何が最も素晴らしいか、それは人それぞれ異なるだろうが、筆者の場合、それは記憶と感情が結びついて生まれる感覚だった。登場人物のみならず、2時間43分を通して観客もこれを味わうことができる。そのためにも是非、『ブレードランナー』を見てからの鑑賞をおすすめしたい。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ブレードランナー 2049』は10月27日より公開中。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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