容姿端麗なアイドルから本格派俳優へ、進化を続けるオースティン・バトラー
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タランティーノも認めた期待のトップスター
【この俳優に注目】昨年、クエンティン・タランティーノ監督がポッドキャスト番組で放った発言で突然名前を挙げられたオースティン・バトラー。ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)について語る中で、タランティーノは、ダニエル・デイ・ルイス演じる主人公に対抗するキャラクターを演じたポール・ダノをこき下ろし、「もし別の俳優だったら、もっとよかったかもしれない」と述べ、その“別の俳優”としてバトラーの名を挙げ、ちょっとした騒動になったのである。
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1991年生まれのバトラーは2007年当時まだ10代で、タランティーノの言葉は現実的ではないが、そんな後出し発言をさせたくなるほど、今のバトラーには俳優としての強度がある。アカデミー主演男優賞候補にもなった『エルヴィス』から怒涛の快進撃が始まった彼にとって、かつてのティーンスターというイメージは、すでに過去のものだ。

『コート・スティーリング』
ダーレン・アロノフスキー監督作『コート・スティーリング』に主演
オースティン・バトラーは今年35歳。現在のハリウッドが最も期待するトップスターのひとりとして、大作と作家性の強い作品を行き来している。その現在地を端的に示す一本が、最新主演作『コート・スティーリング』だ。
ダーレン・アロノフスキー監督による犯罪スリラーでバトラーが演じるのは、1990年代のニューヨークに暮らす青年。かつて野球選手として将来を嘱望されながら挫折し、現在はバーテンダーとして生計を立てる男が、隣人の猫を預かったばっかりに、思いもよらぬ裏社会の犯罪の渦中に引きずりこまれる。

『コート・スティーリング』
バトラーが演じる主人公ハンクは、典型的なアウトローでも、分かりやすいヒーローでもない。気のいい青年が絶体絶命の危機に晒されるうちに、自分を犯罪に巻き込んだマフィアたちへの復讐を決意する。その過程で過去のトラウマと向き合う感情の揺れや、脆さと強さが共存する有り様の見せ方こそ、バトラーの真骨頂でもある。
容姿端麗でカリスマ性に恵まれながら、彼の魅力はそれだけではない。正統派の英雄像も似合うが、むしろ影のある表情や屈託、割り切れなさを抱えた揺らぎを内包している点にこそ個性がある。
『コート・スティーリング』は、彼が大作だけでなく、アロノフスキーのような作家性の強い監督との仕事を積極的に選び続けていることを象徴する1本であり、この作品選び自体が、彼の現在の立ち位置を雄弁に物語っている。
『エルヴィス』以降、ブロックバスターへの出演が続く中でも、バトラーは一貫して、作家性の強い監督とのコラボレーションを選び続けてきた。この志向はアリ・アスター監督がコロナ禍のアメリカの小さな町を舞台にした『エディントンへようこそ』にも通じている。閉塞感に満ちた人々を魅了する怪しげなカルト指導者を演じ、わずかな出演時間ながら強烈な印象を残した。

『エディントンへようこそ』 (C) 2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.
ティーン向け番組で経験を積み、“理想の彼氏”に
そんな彼のキャリアは決して華やかなスタートではなかった。カリフォルニア出身のバトラーは13歳のときにオレンジ郡のフェア会場でスカウトされ、芸能の道に進んだ。初期はニコロデオンやディズニー・チャンネルの端役が中心で、『シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ』などのティーン向け番組に出演しながら経験を積んでいく。
20代前半にはドラマ『マンハッタンに恋をして~キャリーの日記』でセバスチャン・キッド役を演じ、甘いマスクでティーンアイドル的な人気を博した。当時は「理想の彼氏像」として安定した支持を得ていたが、俳優としての評価はまだ限定的だった。
その評価を決定的に変えたのが、2018年のブロードウェイ舞台『The Iceman Cometh(氷人来たる)』だ。デンゼル・ワシントンとの共演を通じて、演技の厳しさと迫真性を学んだ彼の熱演は批評家からも絶賛され、ワシントンがバズ・ラーマン監督に直接推薦したことが後の『エルヴィス』につながった。
ここでバトラーは「本格派」イメージを確立し、『エルヴィス』に先駆けて2019年のクエンティン・タランティーノ監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でテックス・ワトソン役を演じて、さらに頭角を現した。
3年におよぶ徹底した役作りでエルヴィスを演じた
そして2022年、満を持してて『エルヴィス』で世界的なブレイクを果たす。伝説のスターを演じるための役作りもまた、伝説になりそうな徹底したものだった。3年間にわたり声、動き、歌唱を研究し尽くし、自宅をエルヴィスの写真で埋め尽くし、撮影中は南部訛りを24時間維持し続けたばかりか、映画公開後のオスカー・レース中の授賞式などでも彼はエルヴィスの口調を保ったままで、周囲を驚かせた。同作でゴールデングローブ賞とBAFTA賞を受賞、アカデミー賞ノミネートに輝いた。この役が彼の人生を大きく変えたのは間違いない。

『エルヴィス』 (C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
大作だけでなく作家性の強い作品にも挑戦
ブレイク後は大作への出演が相次ぐ。2024年の『デューン 砂の惑星PART2』ではスキンヘッドの異様な風体で残虐なヴィラン、フェイド=ラウサ・ハルコネンを演じ、強烈な印象で場をさらった。Apple TV+でトム・ハンクス製作総指揮の戦争ドラマ『マスターズ・オブ・ザ・エアー』(2024年)にも出演している。
一方で、ジェフ・ニコルズ監督、トム・ハーディ共演の『ザ・バイクライダーズ』(2023年)をはじめ、アロノフスキーやアスターといったインディー寄りの作家性強い作品も選んでいる。これはジャンルや規模に囚われない彼の映画愛から来る選択で、本人はインタビューで幼少期に父親と一緒にクラシック映画を観ていたことを語っており、映画に対する情熱が今の多様な役柄選びに表れている。
母の死や恋人との破局も経験
私生活では、2014年に母親を癌で亡くした経験が彼を強くした。自らの収入で母の治療費を賄った彼は、母亡き後にうつ状態になった時期もあったという。軽々しく論じるべきではないが、こうした経験が彼の演技に漂う陰影の一部を形作っているのは確かだろう。
当時の彼を支えていたのは2011年から9年間交際したヴァネッサ・ハジェンズだ。互いの家族の死を支え合い、エルヴィス役を勧めたのも彼女だったが、2020年に多忙が原因で破局。その後、2021年から約3年、モデルのカイア・ガーバーと交際したが、2025年にこちらも破局を迎えた。
10年後、20年後も楽しみな逸材
ティーンアイドルとしてキャリアをスタートさせ、自らの選択と努力で俳優像を更新し続けてきたオースティン・バトラー。『コート・スティーリング』は、その現在地を示すと同時に、さらなる飛躍の通過点でもある。
今後も、A24製作の『Enemies』(ジェレミー・アレン・ホワイト共演)をはじめ、80年代の人気テレビシリーズ『特捜刑事マイアミ・バイス』のリブート映画で主人公ソニー・クロケット役に起用される可能性、さらには犯罪映画の傑作『ヒート』続編出演の噂など、期待大のプロジェクトが連なっている。
スターのオーラを纏いながら、ごく普通の青年を演じても違和感はない。唯一無二のアイコンにも残虐な悪党にもなれる。主役だけではなく脇に回ることももちろんできる。これはブレイク前夜に出会ったデンゼル・ワシントンにも通じる資質で、華やかな外見に隠れがちな、俳優としての多才さこそが彼の本質だ。
俳優としての進化はまだ続いている。大作と作家性の強い作品を往復しながら、役柄ごとにイメージを更新していくオースティン・バトラーは、10年後、20年後、その先までもが楽しみな逸材だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『コート・スティーリング』は、2026年1月9日より公開中。
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