追悼/海外編 デヴィッド・リンチ、ダイアン・キートン、ロブ・ライナーら2025年に亡くなった映画人を偲ぶ
彼らが残した名作とともに——2025年に逝った映画人たち
2025年、世界の映画・エンターテインメント界は多くの才能を失った。ハリウッドをはじめ、ヨーロッパ、アジア各国で活躍してきた監督、俳優、脚本家、音楽家たちの訃報が相次ぎ、映画史に大きな足跡を残した存在が次々とこの世を去っている。本稿では「海外編」として、2025年に亡くなった海外セレブリティを中心に、その功績と歩みを振り返る。
ジェフ・ベイナ(アメリカ、監督・脚本家)
1月3日逝去/享年47
自殺(首吊り)。妻オーブリー・プラザと共同制作したインディー映画『Life After Beth』で監督デビュー。『The Little Hours』『Horse Girl』『Spin Me Round』などの監督・脚本を手がけ、『I Heart Huckabees』の共同脚本も担当。
デヴィッド・リンチ(アメリカ、監督)
1月16日逝去/享年78
慢性閉塞性肺疾患による心停止。独自の世界観でシュールな世界を描き続けた名監督で、『エレファント・マン』『ブルー・ベルベット』『マルホランド・ドライブ』、1990年代に大ヒットしたTVシリーズ『ツイン・ピークス』が代表作。2019年にアカデミー名誉賞受賞。

・デヴィッド・リンチが死去 『マルホランド・ドライブ』ナオミ・ワッツは「私の心は張り裂けました」と追悼
ジョーン・プロウライト(イギリス、女優)
1月16日逝去/享年95
トニー賞受賞の舞台・映画女優。代表作は『魅せられて四月』(ゴールデングローブ賞助演女優賞受賞、アカデミー助演女優賞候補)、『ムッソリーニとお茶を』。名優の故ローレンス・オリヴィエの未亡人としても知られる。2014年、完全に視力を失ったのを理由に俳優引退を表明した。
マリアンヌ・フェイスフル(イギリス、女優・歌手)
1月30日逝去/享年78
1960年代のポップアイコンでローリング・ストーンズのミューズ。映画ではアラン・ドロン主演の『あの胸にもういちど』、ソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』などに出演。
キム・セロン(韓国、女優)
2月16日頃逝去/享年24
子役として『冬の小鳥』『アジョシ』などで活躍。後者では大韓民国映画大賞新人女優賞を史上最年少(10歳)で受賞した。2014年に出演した『私の少女』で青龍映画賞新人女優賞を受賞するなど、将来を嘱望されたが、2022年の飲酒運転事件で活動を自粛。その間にインターネット上での誹謗中傷に悩む心情を吐露する動画を投稿した。ソウル市内の自宅で遺体が発見され、自殺とみられている。
バービー・スー(台湾、女優)
2月2日逝去/享年48
インフルエンザ関連肺炎。台湾の人気アイドルグループF4主演のTVシリーズ『流星花園(原作は日本の漫画『花より男子』)』のヒロインを演じてアジア全域で人気者となる。実の妹とのアイドル・デュオ「S.O.S」としても知られ、大Sの愛称で親しまれた。大の日本好きとしても有名だった彼女は春節に家族で日本旅行中にインフルエンザに罹り、肺炎により東京の病院で亡くなった。
ジーン・ハックマン(アメリカ、俳優)
2月18日頃逝去/享年95
心臓病(アルツハイマー合併)。2度のオスカー受賞(『フレンチ・コネクション』主演男優賞、『許されざる者』助演男優賞)を果たした名優で、『スケアクロウ』や『カンバセーション…盗聴…』、レックス・ルーサーを演じた『スーパーマン』、ウェス・アンダーソン監督の『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』などジャンルを問わず多数の名作に出演。妻で日系アメリカ人ピアニストのベッツィ・アラカワと自宅で死後数日以上経って発見された。同時期に妻が先に病死したとみられている。

・遺体で発見されたジーン・ハックマン、アルツハイマー病だった 妻の死を「認識しておらず」数日後に死亡か
ミシェル・トラクテンバーグ(アメリカ、女優)
2月26日逝去/享年39
糖尿病合併症。3歳から子役としてTVやCMに出演、11歳で映画『ハリエットのスパイ大作戦』の主演を務め、TVシリーズ『バフィー 〜恋する十字架〜』で主人公バフィーの妹ドーン役で注目された。その後、TVシリーズ『ゴシップガール』のジョージーナ・スパークス役で人気を博した。亡くなる数ヵ月前に肝臓移植手術を受けており、当初は拒絶反応による合併症を疑われたが、4月に糖尿病の合併症が死因と明らかにされた。
エミリー・ドゥケンヌ(ベルギー、女優)
3月16日逝去/享年43
神経膠腫。ベルギーのダルデンヌ兄弟監督の『ロゼッタ』でデビューし、カンヌ国際映画祭女優賞を受賞した。『ジェヴォーダンの獣』や『灯台守の恋』などフランス映画で活躍、2022年にカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した『CLOSE/クロース』に出演。2023年にインスタグラムで希少がんを患っていることを公表していた。

・ダルデンヌ兄弟作などに出演、エミリー・ドゥケンヌが43歳で死去
リチャード・チェンバレン(アメリカ、俳優)
3月29日逝去/享年90
脳卒中の合併症。1960年代からTV、映画で活躍し、1980年に製作されたミニシリーズ『将軍 SHŌGUN』に主演した。
ヴァル・キルマー(アメリカ、俳優)
4月1日逝去/享年65
肺炎。トム・クルーズ主演の『トップガン』で主人公のライバル、アイスマン役でブレイク。『ドアーズ』では伝説のロック・ミュージシャン、ジム・モリソンを演じ、『バットマン フォーエヴァー』でも主演を務めた。2017年に喉頭がんを公表し、闘病生活をドキュメンタリー映画『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』(21年)として発表。『トップガン マーヴェリック』にもアイスマン役で出演、これが遺作となった。
・トム・クルーズ「ありがとう、ヴァル。次の旅がうまくいくよう祈ります」俳優ヴァル・キルマーの死去に多くのセレブが追悼
テッド・コッチェフ(カナダ、監督)
4月10日逝去/享年94
心不全。代表作は『ランボー』(シリーズ1作)や『バーニーズ あぶない!?ウィークエンド』など。長寿のTVシリーズ『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』の製作総指揮やエピソード監督も務めた。
ジェームズ・フォーリー(アメリカ、監督)
5月6日逝去/享年71
脳腫瘍。代表作はショーン・ペン主演の『ロンリー・ブラッド』やブロードウェイの舞台劇の映画化『摩天楼を夢みて』など。近年は『フィフティ・シェイズ』三部作の2、3作目を手がけた。マドンナの主演映画『フーズ・ザット・ガール』やミュージックビデオも数本監督している。
ジョー・ドン・ベイカー(アメリカ、俳優)
5月7日逝去/享年89
肺がん。アクション作品を中心に助演で活躍。007シリーズ3作に出演し、『007 リビング・デイライツ』では悪役、『007 ゴールデンアイ』『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』ではボンドの味方のCIAエージェントという異なる役柄を演じた。
ロバート・ベントン(アメリカ、監督・脚本家)
5月11日逝去/享年92
自然死。『俺たちに明日はない』の共同脚本でオスカー候補となり、『クレイマー、クレイマー』でアカデミー監督賞、脚本賞の2冠を果たし、監督作でもある『プレイス・イン・ザ・ハート』でも脚本賞を受賞。ほかにポール・ニューマン主演の『ノーバディーズ・フール』、アンソニー・ホプキンス主演の『白いカラス』などを手がけた。
ラロ・シフリン(アルゼンチン・アメリカ、作曲家)
6月26日逝去/享年93
肺炎の合併症。『ミッション: インポッシブル』の原典であるTVシリーズ『スパイ大作戦』やブルース・リー主演の『燃えよドラゴン』のテーマ曲で知られる。『暴力脱獄』『コンペティション』などでアカデミー作曲賞や歌曲賞に複数回ノミネートされ、2018年にアカデミー名誉賞を受賞した。
ジュリアン・マクマホン(オーストラリア・アメリカ、俳優)
7月2日逝去/享年56
がん。TVシリーズ『チャームド〜魔女3姉妹〜』で人気を博し、プレイボーイの整形外科医を演じた『NIP/TUCK マイアミ整形外科医』ではゴールデン・グローブ賞候補に。映画『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』で悪役のドクター・ドゥームを演じた。オーストラリアのウィリアム・マクマホン元首相の息子としても知られた。
マイケル・マドセン(アメリカ、俳優)
7月3日逝去/享年67
心不全(心臓病・アルコール依存合併)。クエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』のMr.ブロンド役で人気を博し、その後も『キル・ビル』シリーズなど同監督作に出演。ほかには『テルマ&ルイーズ』、ジョニー・デップ主演の『フェイク』、『007/ダイ・アナザー・デイ』などに出演。自宅で意識不明の状態で発見され、その後死亡が確認された。

・『レザボア・ドッグス』の名優マイケル・マドセン死去 享年67歳、タランティーノ作品の常連として活躍
テレンス・スタンプ(イギリス、俳優)
8月17日逝去/享年87
映画デビュー作『奴隷戦艦』でアカデミー助演男優賞候補となり、代表作である『コレクター』でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞。フェリーニやパゾリーニといった鬼才の作品から、ゾッド将軍を演じた『スーパーマン』シリーズ、ドラァグクイーンを演じた『プリシラ』まで幅広いジャンルの作品で活躍。近年は『ラストナイト・イン・ソーホー』などに出演した。
グラハム・グリーン(カナダ、俳優)
9月1日逝去/享年73
先住民のオナイダ族出身で、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』の蹴る鳥役でアカデミー助演男優賞候補となり、『ダイ・ハード3』『グリーンマイル』などに出演。近年は『ウインド・リバー』『モリーズ・ゲーム』などに出演していた。
ジョルジオ・アルマーニ(イタリア、ファッションデザイナー)
9月4日逝去/享年91
肝不全。世界的なファッションブランド創設者。『アメリカン・ジゴロ』で主演のリチャード・ギアの衣装を担当し、映画のヒットとともにアルマーニの名前も世界に知れ渡った。ほかにケビン・コスナー主演の『アンタッチャブル』も手がけた。
ロバート・レッドフォード(アメリカ、俳優・監督)
9月16日逝去/享年89
1960年代から70年代にかけて『明日に向って撃て!』『スティング』『大統領の陰謀』などで主演を務めスターに。1980年には監督に進出し、『普通の人々』でアカデミー監督賞受賞。サンダンス映画祭創設者としてインディーズ映画界をサポートした。晩年にMCUの『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』に出演。自宅で就寝中に息を引き取ったという。

・ロバート・レッドフォード逝去にハリウッドから追悼の声 メリル・ストリープ「偉大なライオンが逝った」
クラウディア・カルディナーレ(イタリア、女優)
9月23日逝去/享年87
フェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』、ルキノ・ヴィスコンティ監督の『山猫』などで知られる。1960年代にはフランスのブリジット・バルドー(BB)、アメリカのマリリン・モンロー(MM)と並んで、イタリアのCCとして持て囃された。晩年まで仕事を続け、2022年には生誕地であるチュニジアの映画『The Island of Forgiveness』で主演を務めた。
ダイアン・キートン(アメリカ、女優)
10月11日逝去/享年79
肺炎。一時パートナーだったウディ・アレン監督作の常連で、『アニー・ホール』でアカデミー主演女優賞受賞;『ゴッドファーザー』シリーズでは主人公マイケルの妻、ケイを演じた。『花嫁のパパ』や『恋愛適齢期』などに出演。晩年は同世代の女性たちと共演する『また、あなたとブッククラブで』や『50年後のサマーキャンプ』などに主演した。

(C)AW Movie Production Ltd 2024
・ダイアン・キートンの死因は“肺炎” キアヌ・リーヴスが涙の追悼コメントを発表
ビョルン・アンドレセン(スウェーデン、俳優)
10月25日逝去/享年70
がん。スウェーデン出身で子役として活動した後、ルキノ・ヴィスコンティ監督の『ベニスに死す』の美少年タジオ役で一躍スターになる。特に日本で人気が高く、1971年、72年に来日してCM出演や歌手デビューも果たした。その後のキャリアは低迷したが、2019年にアリ・アスター監督の『ミッドサマー』に出演し、話題となった。その後、10代の頃を振り返るドキュメンタリー『世界で一番美しい少年』ではヴィスコンティをはじめ、周囲の大人たちに搾取され続けた過酷な経験を明かした。
ダイアン・ラッド(アメリカ、女優)
11月3日逝去/享年89
慢性低酸素性呼吸不全(肺線維症合併)。マーティン・スコセッシ監督の『アリスの恋』でアカデミー助演女優賞候補となり、その後は元夫ブルース・ダーンとの娘、ローラ・ダーンと共演した『ワイルド・アット・ハート』『ランブリング・ローズ』でも同賞にノミネートされた。娘とはデヴィッド・リンチ監督の『インランド・エンパイア』でも共演している。
チェッキー・カリョ(フランス、俳優)
10月31日逝去/享年72
がん。リュック・ベッソン監督の『ニキータ』でヒロインを指導する秘密警察官ボブを演じて注目され、1990年代からはハリウッドにも進出。マーティイン・ローレンスとウィル・スミス主演の『バッドボーイズ』の悪役や『007 ゴールデンアイ』、アンジェリーナ・ジョリー主演の『テイキング・ライブス』などに出演。近年はジョン・ウー監督の『ザ・キラー/ジョン・ウー 暗殺者の挽歌』などに出演していた。
トニー・トッド(アメリカ、俳優)
11月6日逝去/享年69
胃がん。ホラー映画『キャンディマン』シリーズの殺人鬼“キャンディマン”役で知られる。ほかに『ファイナル・デスティネーション』シリーズ、TVでは『24 -TWENTY FOUR-』などで活躍。
リー・タマホリ(ニュージーランド、監督)
11月7日逝去/享年75
パーキンソン病。大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』で助監督を務めた後、マオリ族の血を引く自身のルーツをテーマにした『ワンス・ウォリアーズ』で国際的な注目を浴びてハリウッドに進出。『狼たちの街』などを経て、『007 ダイ・アナザー・デイ』を監督した。
ホマユン・エルシャディ(イラン、俳優)
11月11日逝去/享年78
がん。建築家だったが、アッバス・キアロスタミ監督にスカウトされて同監督の『桜桃の味』で俳優デビューを果たす。『君のためなら千回でも』や『ゼロ・ダーク・サーティ』『誰よりも狙われた男』など欧米の監督の作品でも活躍した。
ウド・キア(ドイツ、俳優)
11月23日逝去/享年81
アンディ・ウォーホル製作の『悪魔のはらわた』『処女の生血』に始まり、『奇跡の海』をはじめとするラース・フォン・トリアー監督作の常連。『マイ・プライベート・アイダホ』『ドント・ウォーリー』などガス・ヴァン・サント監督作にも度々出演した。
ケイリー=ヒロユキ・タガワ(アメリカ、俳優)
12月4日逝去/享年75
脳卒中の合併症。日系アメリカ人2世の父と日本人の母のもとに東京で生まれ、5歳で渡米。1980年代から映画やTVに出演、『ラストエンペラー』や『007 消されたライセンス』『PLANET OF THE APES/猿の惑星』など大作に多数出演した。
ピーター・グリーン(アメリカ、俳優)
12月12日逝去/享年60
『パルプ・フィクション』のゼッド、『マスク』のドリアン・タイレルなど悪役で知られる。主演作『クリーン、シェーブン』では精神を病んだ男の内面をリアルに演じた。ほかに『ユージュアル・サスペクツ』『トレーニング デイ』などに出演。
ロブ・ライナー(アメリカ、監督・俳優)
12月14日逝去/享年78
妻でプロデューサー、写真家のミシェル・シンガー・ライナーと自宅で亡くなっているのを娘が発見。複数回の刺傷による殺害事件で、犯人は次男ニック・ライナー。コメディアンで監督の父(カール・ライナー)を持ち、自身もまずシットコム『オール・イン・ザ・ファミリー』などで俳優として活躍した後、監督に転身。『スタンド・バイ・ミー』『恋人たちの予感』『ミザリー』などの名作を監督。アメリカでは9月に監督デビュー作『スパイナル・タップ』の続編、『Spinal Tap II:The End Continues(原題)』が公開されたばかりだった。

・『スタンド・バイ・ミー』ロブ・ライナー監督夫妻殺害 次男を逮捕、ハリウッドに衝撃
ジェームズ・ランソン(アメリカ、俳優)
12月19日逝去/享年46
TVシリーズ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』やホラー映画『IT/イット THE END“それ”が見えたら、終わり。』や『ブラック・フォン』などに出演。ロサンゼルス郡検視局によると、死因は自死とされている。
PICKUP
MOVIE
INTERVIEW
PRESENT
-



『ブゴニア』の一般試写会に28名様をご招待!
応募締め切り: 2026.01.05 -



『チャック・ベリー ブラウン・アイド・ハンサム・マン』のチケットを5組10名様にプレゼント!
応募締め切り: 2026.01.06







