男として扱われると苦しくなる 存在するだけで罪になる国で生きる21歳の決断

#LGBTQ+#クイーンダム/誕生#ジェナ・マービン#ノンバイナリー

『クイーンダム/誕生』
(C) Courtesy of Galdanova Film LLC.
『クイーンダム/誕生』
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『クイーンダム/誕生』

LGBTQ+弾圧下の社会で、痛みをアートへと昇華したアーティストの軌跡

LGBTQ+が弾圧されるロシアで生まれたノンバイナリーのクィア・アーティスト、ジェナ・マービンを追ったドキュメンタリー映画『クイーンダム/誕生』。本作より、本予告と新場面写真を紹介する。

・逮捕、排除、沈黙の強制…LGBTQ+を禁圧するロシアに立ち向かったクィア・アーティストの軌跡

・【動画】LGBTQ+弾圧下のロシアで生まれた“ノンバイナリー”アーティスト/映画『クイーンダム/誕生』予告編

主人公は、ロシアの首都モスクワから約1万キロ離れた極寒の田舎町・マガダンで生まれ、祖父母に育てられたジェナ・マービン。撮影開始時はわずか21歳だった。かつて強制収容所があったその町は今も保守的で、ジェナは「クィア」であることを理由に暴力や差別の標的とされてきた。しかし、その痛みとトラウマを「アートという武器」へと昇華させた表現によりTikTokで支持を集め、「VOGUE RUSSIA」にも登場するなど、一躍注目を浴びる存在となっていった。

ジェナは過激で独創的な衣装をまとい、ウクライナ侵攻への反対や、LGBTQ+の活動を禁止する法律・政治・社会への反抗を体現している。こうしたパフォーマンスは、現在のロシアでは命の危険を伴う行為だ。それでもジェナは、自らの存在を賭けてアートを通じた抗議を続け、社会の無関心と差別に一石を投じている。

『クイーンダム/誕生』

監督を務めるのは、ロシア出身でフランス在住のアグニア・ガルダノヴァ。当初はロシア各地のドラァグクイーンたちを追う映画を企画しており、取材の初期段階で出会った候補者のひとりがジェナだった。アグニアはジェナと時間を共にするなかで、彼女の類まれな芸術性と、抑圧的なロシア社会において“本当の自分”を貫く姿勢に強く心を動かされ、ジェナだけを主人公としたドキュメンタリーを制作することを決意した。

プロデューサーは『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』(20年)の共同プロデューサーを務めたイゴール・ミャコチン。2022年にはサンダンス・プロデュース・フェローに選出され、DOC NYCによって「ドキュメンタリー業界で活動する40歳未満の40人」にも選ばれている。

『クイーンダム/誕生』

今回解禁された本予告は、真っ白にメイクアップされた顔に唇周りの黒色が鮮やかに映えるジェナ・マービンが、「ジェナとは、“存在”かな」と静かに語る場面からスタートする。アーティスト・ジェナ(本名:ゲンナジー・チェボタリョーワ)は、「これまで受けてきた苦痛を自分のアート表現に応用してる」と、LGBTQ+への弾圧が激化する社会の中で必死に戦う胸の内を明かす。

そんなジェナには、マガダンの実家に暮らす育ての親である祖父母がいる。祖母は「うちの孫は変わり者だ」と複雑な心境を語り、祖父は「ゲンナジー、頼むから早く目を覚ませ」「おかしな仮装やパフォーマンスに意味はない」と切実に諭す。

幼い頃に両親を亡くしたジェナにとって、祖父母は唯一無二の家族であり、深い愛で結ばれた存在だ。しかし、閉鎖的な小さな町で生きてきた彼らの価値観では、ジェナの心境を理解しきれず、時に激しく衝突してしまう。

『クイーンダム/誕生』

【ノンバイナリー】を自認し、「男として扱われると苦しくなる」と吐露するジェナは、愛しているからこそすれ違ってしまう家族との軋轢や、逃れられない孤独の中で必死にもがき続ける。そんな中、「お前をぶっ殺してやる」という言葉とともに、LGBTQ+コミュニティの仲間が暴行を受ける事件が発生。衝撃的なその映像に、ジェナは思わず涙を溢す。

逆境に負けず、差別的な人々からの暴力に団結して立ち向かおうとするが、ある日行ったパフォーマンスが原因で、大学を強制的に退学させられてしまう。さらに悪いことに、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発し、徴兵の危機までもが迫る。

「反戦」の意思を固めたジェナは国外脱出を決意。出国までに残された時間は、わずか2週間。果たしてジェナは、厳しい状況の中でパスポートを取得し、無事に国を出ることができるのか。抑圧と暴力の社会から、自らの手で自由をつかみ取れるのか──。

本予告は、参加したファッションショーのデザイナーからジェナへ贈られた、「君にはこの国のタブーを破る力がある。理解者はどんどん増えていく」という力強い言葉で幕を閉じる。このドキュメンタリーが映し出す、“強さ”だけではない、ひとりの人間の生々しいまでの不安や葛藤。家族との関係に悩み、自分自身とも闘い続けるひとりの若者が、アーティストとして、そして人として花開いていくその瞬間が、私たちの胸を打つ。

恐怖と絶望を超え、痛みと美しさを纏って誕生する、“孤高のクイーン”ジェナ・マービンから、目が離せなくなるはずだ。

『クイーンダム/誕生』は2026年1月30日より全国公開。