夭逝したドラマーの最後のパフォーマンスも収録、ザ・フーの狂乱と破壊衝動を記録した歴史的傑作ドキュメンタリー
#ザ・フー#ザ・フー キッズ・アー・オールライト#ドキュメンタリー#映画を聴く
(C)Who Group Ltd
『ザ・フー キッズ・アー・オールライト』HDレストア版が公開
【映画を聴く】マイクのケーブルを振り回し、「老いる前に死にたいね」「あんたら消えたらどうだ」「理解なんてしてくれなくていい」と歌う。ギターを叩き壊し、ドラムセットを蹴り倒し、アンプは煙を上げる。ザ・フーは、ビートルズやローリング・ストーンズと並んでブリティッシュ・ロックの黄金期を築いたレジェンドであり、その破壊的なエネルギーによって孤高の存在であり続けたバンドである。
・ジョン・レノンはなぜ参加を決めたのか? 当時22歳の音楽プロモーター、ジョン・ブラウワーが語る“伝説的フェス”の裏側
そのキャリアのピークを捉えた1979年のドキュメンタリー映画『ザ・フー キッズ・アー・オールライト』が、バンドのレコード・デビュー60周年、ギタリスト=ピート・タウンゼントの生誕80周年を記念する2025年に初めて日本公開される。HDレストアによる画質向上、5.1chミックスによる迫真の臨場感も、本作を劇場で鑑賞する大きなポイントである。
(C)Who Group Ltd
本作の見どころは、何と言っても収録された20曲以上におよぶ彼らの楽曲のライヴ・パフォーマンスが惜しみなく収録されている点にある。
ザ・フーは、3コードのシンプルなロックンロールを劇的に進化させた。ソングライターのピート・タウンゼントによる、ロック・オペラなるコンセプトの導入。機械的に反復されるシンセサイザーのフレーズと躍動的な生演奏の融合は、いわば知性と破壊のアンバランスな融合。その後のパンクやハードロック、プログレッシヴ・ロックの分野にも決定的な影響を与えた。
本作には若き怒りをぶつける「マイ・ジェネレーション」(1965年)の荒々しい演奏から、壮大なロック・オペラ『トミー』を象徴する「ピンボールの魔術師」(1969年)、そしてザ・フーの代名詞とも言える「無法の世界」(1971年)まで、彼らの進化の歴史を俯瞰できる楽曲が厳選されている。
(C)Who Group Ltd
タウンゼントのギターがフィードバックを起こす際の鋭い音の立ち上がり、ジョン・エントウィッスルの超絶技巧によるベースラインのうねり、そして世界で最もワイルドなドラマー、キース・ムーンの縦横無尽なフィルインが、あたかも目の前で演奏されているかのような臨場感で迫ってくる。
ザ・フーの音楽がいかに先進的であり、時代を超越した迫力を持っているか。このHDレストア版の公開は、そのことを再認識できる好機会になるはずだ。彼らがライヴで放っていた音圧、エネルギー、そして音源だけでは伝わらない狂気的なパフォーマンスを堪能したい。
狂気のカリスマ、キース・ムーン最後のフルパフォーマンス
この映画を語る上で、やはりドラマー=キース・ムーンの存在は欠かせない。彼はこの映画の完成直前、1978年9月に急逝している。
本作のハイライトのひとつは、彼が亡くなる3ヵ月前に収録されたシェパートン・フィルム・スタジオでのライヴだ。ここに記録されたキース・ムーンの姿は、彼の最後のフルパフォーマンス映像として貴重である。ドラムセットの上で文字通り狂乱し、予測不能なプレイでバンド・サウンドを牽引する彼の姿は、天才の輝きと危うさを同時に放っている。この演奏から間もなく彼がこの世を去ることを知っている観客にとって、その渾身の演奏は胸を締め付けるほどに切実だ。
(C)Who Group Ltd
映像の随所に挿入されるメンバーたちのインタビューやテレビ出演時の姿は、彼らのパーソナリティを深く掘り下げる。
ロジャー・ダルトリーの強靭なヴォーカルの奥にあるカリスマ性、ピート・タウンゼントの理知的ながらもどこか屈折した魂、ジョン・エントウィッスルの寡黙なプロフェッショナリズム、そしてキース・ムーンの制御不能なユーモアと奔放さ。特に、コミカルなインタビュー映像の後に「フー・アー・ユー」のような魂の叫びが響き渡る構成は、バンドの持つ多面性を際立たせ、彼らが単なるロックバンドではなく、人間の葛藤と本質を表現したアーティスト集団であったことを示している。
(C)Who Group Ltd
監督のジェフ・スタインは、時系列を追う「直線的なドキュメンタリー」ではなく、「ロックンロール復活集会」の創造を目指したという。その結果、本作は1964年から1978年までの断片的な映像をつなぎ合わせつつ、ザ・フーというバンドが持つ「すべての反抗と冒険を肯定する」という姿勢を一貫して伝えるドキュメンタリーに仕上がっている。
彼らの音楽は、社会や大人への怒り、若さゆえの焦燥感、そして自己への問いかけに満ちている。タイトル曲「キッズ・アー・オールライト」の「あいつらと一緒なら あの子は大丈夫」という肯定的なメッセージは、レコード・デビューから60年が経った現在も色褪せていない。
キース・ムーンだけでなく、2002年にはジョン・エントウィッスルも失ったザ・フーは、現在もロジャー・ダルトリーとピート・タウンゼントによってツアーを続けている。日本ではビートルズやストーンズほどには評価されていないザ・フーだが、このHDレストア版の劇場公開によって再評価の機運が高まることを期待したい。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
『ザ・フー キッズ・アー・オールライト』は、2025年9月26日より公開中。
PICKUP
MOVIE
INTERVIEW
PRESENT
-
【キャスト登壇】北川景子主演『ナイトフラワー』完成披露試写会に10組20名様をご招待!
応募締め切り: 2025.10.12 -
【キャスト登壇】『てっぺんの向こうにあなたがいる』完成披露試写会に20組40名様をご招待!
応募終了: 2025.09.14