家族を背負う少女の視点から、無関心な大人たちと不器用な絆の輪郭をすくい取る
ヤングケアラー問題を描き、国内の映画祭で話題を呼んだ注目作『嬉々な生活』が公開される。このたび、本作に寄せた横浜聡子監督、白石和彌監督、川瀬陽太らによる絶賛コメントが到着した。
・介護で追い詰められる主人公演じた松山ケンイチ「孤立させないことが大切」と語りかけ
2025年の日本映画界で注目すべきホットなトピックは、かつてないほど豊かな「子ども映画」が次々と公開されることだ。カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された早川千絵監督の『ルノワール』をはじめ、横浜聡子監督の『海辺へ行く道』、呉美保監督の『ふつうの子ども』、さらにインディーズ界からは金子雅和監督の『光の川』、滝野弘仁監督の『くまをまつ』など、粒ぞろいの作品が揃う。
この流れに先駆けて、昨年から異彩を放つ子ども映画として注目されていた谷口慈彦監督の『嬉々な生活』が、ついに満を持して公開される。
本作は、磯部鉄平監督の『凪の憂鬱』(22年)『夜のまにまに』(23年)などでプロデューサーを務めた谷口慈彦が、満を持して劇場用長編デビューを果たしたオリジナルストーリー。“若手映像クリエイターの登竜門”として知られる「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024」の国際コンペティション部門に選出され、審査員特別賞とSKIPシティアワードのW受賞を果たした注目作だ。
舞台は大阪の団地。最愛の妻を失ったショックから万年床生活を送る父・賢介と、そんな父や弟妹のケアを一身に背負う逞しい中学生・嬉々の姿を描く。彼らを取り巻くのは、ハラスメント的言動に無自覚な同僚教師への嫌がらせをやめられない嬉々の元担任(渡辺綾子)、賢介の行動に疑問と怒りを抱く同じ団地の住民(内田周作)といった、距離が近く、お節介でどこか不器用な“大阪の大人たち”。そんな彼らの人間模様を、嬉々のクールな眼差しが責めることなく、慈しみと優しさをもって静かに浮かび上がらせていく。
主人公・嬉々の危機を、大らかな人間力で演じるのは、谷口監督のワークショップを小学生の頃から受講していた西口千百合。父・賢介を演じるのは、磯部監督作『凪の憂鬱』や『夜のまにまに』でも味のある佇まいを見せていた川本三吉。
メンタルの不調、職場でのハラスメント、ヤングケアラーといった、現代日本にあふれる問題を、観客に“自分ごと”として親密に感じさせる谷口監督の語り口と演出に注目してほしい。
■横浜聡子(映画監督)
「ヤングケアラーがテーマの映画、最近多いなあ」と漠とした不安とともに映画を見始めたが、すぐにそんな不安は吹き飛んだ。矛盾だらけの人間をちゃんと理解し、かつ的確な距離をもって描く谷口監督の眼にすっかりやられてしまった。人間をしっかり描けば自ずと社会が浮かび上がってくるということを『嬉々な生活』は証明している。映画の終わらせ方もこれまで見たことのない類の、見事なものだった。どうか見てほしい。
■白石和彌(映画監督)
その一瞬でしか切り取ることの出来ない衝動と、谷口監督の俳優たちへの優しい眼差しが見た者の心を撃ち抜く。映画を見終わって息遣いが荒くなるほど爽やかな、おっさんの私でさえ今すぐ走り出したくなるような余韻。この映画のラストシーンは必見です。
■川瀬陽太(俳優)
どこにでも在る出来事、ひと。皆ずっと同じではいられない。時間は残酷だが救いでもあって、すべての人間に等しく降り注ぐ。要らない時間や人間なんていやしない。そう信じさせてくれる魔法がこの映画にはかかっている。
■武井みゆき(配給会社ムヴィオラ代表)/2024SKIPシティ国際Dシネマ映画祭審査員)
私は洋画配給が主な仕事なので、本当は洋画の味方でいたいのですが。谷口慈彦監督の映画にはやられました。あのラストのシークエンス。瞬間が永遠になるのを目撃し、体力ゲージもメンタルゲージも一気に爆上がりしました。誰にも撮れない映画だから、1人でも多くの人に見てほしい。
■メイスク・タウリシア(映画プロデューサー)
“A life that is full of love that it breaks your hearts.Beautifully made, and will not be easy to forget.”
心が張り裂けるほどの愛に満ちた人生。美しく作られており、決して忘れられないでしょう。
■荒木美也子(アスミック・エース・プロデューサー)
人と同じように映画とも素敵な出会いがあるもの。『嬉々な生活』は、そんな思いを抱いた作品だ。主人公の嬉々(きき)という名前は、『魔女の宅急便』のキキが由来であることも、タイトルが『嬉々の生活』ではなく『嬉々な生活』であることも、谷口監督がこの作品に込めた思いとして、見終わった後、じんわり広がってくるものがある。ダメな父親や、境遇に負けず生き抜く嬉々の演技・演出は、お見事! 暗闇のなかで予想外の行動をとる嬉々とラストシークエンスは、圧巻です!!
■小川あん(俳優)
最愛の母を亡くした家族。団地の一室で過ごす生活、沈黙する父、それを支えようとしたり、遠ざけようとする周囲――そんな最小単位の家族(世界)を丁寧に映しながら、失業や孤独、喪失といった日本社会を覆う不安や孤立までもが滲み出てしまう。
しかし、谷口監督は、嬉々の「正しさ」に追い立てられた生活の脆さに焦点を当て、ベランダから覗くような限られた視界に、それでも確かに何かが芽吹こうとする気配をとらえていた。不器用ながらも差し出される手があり、言葉にされないまま寄せられる思いやりがある。誰かを思う静かな気配が、沈黙のなかに幾重にも重なっていく。
わたしは、ラストカットで駆け出す嬉々の背中姿を見送って、ファーストカットのホームビデオで見せた嬉々の笑顔をもう一度見返した。彼女はこれから、人生の「痛み」と「願い」を一つにして引き受ける力強さをもって駆け出していくだろう。
『嬉々な生活』は2025年8月9日より大阪・第七藝術劇場にて1週間限定上映、8月29日より全国順次公開。
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