メディアの暴力性を問う「コレ見たら、こいつがやったに違いないって思うでしょ」

多くの冤罪を生んだ“虐待”事件——これは贖罪と覚悟の物語

弁護士記者が長年の調査報道の末に作り上げたドキュメンタリー映画『揺さぶられる正義』が公開されることが決定した。これに先駆け、特報予告編とメインビジュアル、上田大輔監督と宮田輝美プロデューサーのコメントが公開された。

・性接待に差し出された15人の女性たち 仲間を守った彼女たちの過酷な半生とは？『黒川の女たち』

・【動画】揺さぶられっ子症候群、多くの冤罪を生んだ事件とは／ドキュメンタリー映画『揺さぶられる正義』特報

本作は、多数の賞を受賞した“揺さぶられっ子症候群（SBS）”事件を追った一連の番組をもとに、新たな取材と視点を加えてまとめ上げたドキュメンタリー映画。弁護士として関西テレビに入社し、のちに記者へと転身した異例の経歴をもつ上田大輔が、「虐待をなくす正義」と「冤罪をなくす正義」のぶつかり合いを描く中で、実名報道やメディアスクラムといった“メディア＝自らの暴力性”とも向き合う。

上田大輔・関西テレビ報道記者。無実の人を救う弁護士を志すも、有罪率99.8％という刑事司法の現実に絶望し、企業内弁護士として関西テレビに入社。しかし、一度は背を向けた刑事司法の問題に再び向き合うべく、記者へと転身した。

上田が記者1年目から取材を始めたのが、「揺さぶられっ子症候群（Shaken Baby Syndrome）」──通称SBS。2010年代、赤ちゃんを揺さぶって虐待したとされ、親などが逮捕・起訴される事件が相次ぎ、マスコミでも広く報じられた。SBSは、子ども虐待対応のための厚労省のマニュアルや診断ガイドにも掲載されており、幼い命を守るという強い使命感をもって、医師たちは診断にあたっていた。

その一方で、刑事弁護人や法学研究者による「SBS検証プロジェクト」が立ち上がる。このチームは、無実を訴える被告とその家族に寄り添い、事故や病気の可能性を徹底的に調べていく。虐待をなくす正義と、冤罪をなくす正義が激しく衝突していた。やがて、無罪判決が続出するという前代未聞の事態が起こる。

実名・顔写真とともにセンセーショナルに報じられる刑事事件。逮捕報道に比べ、その後の裁判の扱いは小さく、たとえ無罪となっても、一度貼られた“犯人”のレッテルはネット空間から消えない。長期勾留によって失われた時間も戻ってはこない。

SBS事件の加害者とされた人々やその家族と対話を重ねるなかで、上田は報じる側としての“暴力性”を自覚し、ジレンマに苛まれながらも、彼らの埋もれていた声を届けようとする。そして司法とメディアのあり方に真正面から向き合う報道に挑む。

やがて上田は、記者として“何を信じるべきか”を問われることになる。彼自身をもっとも揺さぶることになる、ある人物との対峙が待っていた——。

公開決定にあわせ、特報予告編とメインビジュアルが公開された。24年公開の話題作『どうすればよかったか？』でデザインを担当した成瀬慧と、予告編を制作した遠山慎二のコンビが本作の宣材物も担当している。この国の司法とメディアのあり方に真正面から向き合い続け完成した本作は、見る者に体験したことのない余韻を残すことになるはずだ。

■上田大輔監督

記者に転身した1年目に「揺さぶられっ子症候群（SBS）」事件の取材を始め、虐待をなくす正義と冤罪をなくす正義の衝突を8年にわたり追い続けてきました。「“犯人”と疑われている人をどこまで信用していいのか？」「“冤罪”を前提にした発言は、記者としての一線を越えていないか？」。私の中で記者の正義と弁護士の正義がぶつかることもありました。この映画は、記者として、弁護士として、そして一人の弱い人間として悩み続けた私の8年間の記録です。

■宮田輝美プロデューサー

想定を超えてしまった。

8年間の取材をまとめ、冤罪で家族が引き裂かれることの理不尽さと、再び結ばれた家族の愛を描くのだと思っていた。有罪率99.8％の刑事裁判で異例尽くしの無罪の山を総括する必要もあった。

しかし振り返るだけでは気が済まなかったのか…上田は無謀にも飛び込んだ。懲役12年の独房から無実を叫ぶ最難関事件の只中へ。

どこに向かうつもりなのか？

迷宮を掻き分け辿り着いた先は、出口ではなく、入口だった。

『揺さぶられる正義』は2025年9月20日より全国順次公開。