年齢男女問わず受精して繁殖に協力——白い実験都市エデンの不気味さ 蒔田彩珠ら『消滅世界』メイキング

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(C)2025「消滅世界」製作委員会
『消滅世界』
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性のタブー化、人工授精社会…村田沙耶香の予言的小説が現実感ある映像

「コンビニ人間」で芥川賞を受賞し、新作長編「世界99」で野間文芸賞も受賞した村田沙耶香の同名ベストセラー小説を映画化した『消滅世界』。本作より、雨音と朔が“性愛のない”実験都市・エデンを初めて訪れる本編映像と、眞島秀和も登場するメイキング映像が公開された。

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原作は、累計170万部を突破した芥川賞作「コンビニ人間」に先立ち、2015年12月に刊行された長編小説だ。超少子化の果てに「性」が消えつつある社会を舞台に、「恋愛」「結婚」「家族」の価値観が揺らぐなか翻弄される若者たちの姿を描き出す。そこには、“常識”という枠組みに縛られながらもがく現代の私たち自身が、鮮やかに映し返されている。

「日本の未来を予言した小説」として大きな反響を呼んだこの衝撃作に、映像化で挑むのは川村誠。MTV出身で、RADIOHEADやOASISといった世界的アーティストのライブ映像やMV、CM、ショートフィルム、大河ドラマのドキュメンタリーまで、多彩なフィールドで活躍してきた川村が、脚本も手がけながら本作を映像へと立ち上げる。

『消滅世界』

(C)2025「消滅世界」製作委員会

婚生活に性愛を持ち込むことが禁じられ、夫婦間の性行為がタブーとなった社会。人工授精による出産が一般化した世界を舞台に、心から愛し合った夫婦の“自然妊娠”で生まれた少女・雨音(蒔田)が、自分の周囲にある「普通」と、内側から湧き上がる欲情の正体に向き合っていく。

やがて大人になった雨音は、性愛のない清潔な結婚生活を望みながらも、夫・朔(栁)とは別に、他の男性や2次元キャラクターとの恋愛を重ねていく。しかし、恋人を持っても恋愛をうまく築けない雨音は、朔もまた同じ悩みを抱えていることに気づく。

そんな2人は、千葉に建設された実験都市・エデンへの移住を決意する。エデンでは、選ばれた住民が一斉に人工授精を受け、生まれた子どもたちは“住民全員の子”として育てられる——子どもにとって、大人はみな「お母さん」なのだ。

理想郷にも思えたその“正常な日々”は、しかし、2人が抱くある思惑をきっかけに、やがて大きく軋みはじめる。そしてエデンでの生活は、“夫婦”という関係そのものを揺るがす予想外の方向へと転がっていく。

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主人公・雨音を演じるのは蒔田彩珠。ドラマ『ゴーイング マイ ホーム』をきっかけに、映画『三度目の殺人』(17年)、第71回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作『万引き家族』(18年)など、是枝裕和監督作品の常連として注目を集めてきた。河瀬直美監督の『朝が来る』(20年)では、中学生で母となる難役を熱演し、「第44回日本アカデミー賞」新人俳優賞、「2020年 第94回キネマ旬報ベスト・テン」助演女優賞、「第45回報知映画賞」助演女優賞など、数々の賞を受賞している。

音の夫・朔役には栁俊太郎。2009年に「第24回 MEN’S NON-NO モデルグランプリ」を受賞してモデルデビューし、約12年間にわたって専属モデルを務めた。2012年公開の『ヴァージン「ふかくこの性を愛すべし」』で俳優デビューを果たし、その後『クローズ EXPLODE』(14年)『東京喰種トーキョーグール』(17年)、近年では『ゴールデンカムイ』『バジーノイズ』(ともに24年)など劇場映画への出演が増加。『九龍ジェネリックロマンス』(25年)でも注目を集めている。

さらに、雨音の良き理解者で学生時代からの親友・樹里役に恒松祐里、雨音と同じ高校の同級生・水内役に結木滉星を起用。ほかにも、富田健太郎、清水尚弥、霧島れいか、松浦りょう、山中崇、眞島秀和、岩田奏といった実力派キャストが物語を支える。

エデンの管理人(眞島)に施設を案内され、理想郷だと確信した雨音と朔は、エデンへの移住を決める。エデンを支配するのは“白い世界”。住民たちは白い装束を身にまとい、施設も白一色で統一され、ミニマルな空間が広がっている。

エデンとして撮影された印象的な施設は、神奈川県厚木市の神奈川工科大学・KAIT広場をはじめ、複数のロケ地を組み合わせて実現したものだ。これは、川村誠監督の「エデンは、セットを使用せずに全て現実にある建築物を組み合わせて構築する」という強い意志を尊重した結果である。

ロケ地の選定では、ビジュアルだけでなく建築コンセプトも重視され、川村監督と制作部が協議を重ねて決定した。特にKAIT広場については、設計した建築家・石上純也を監督が「人間の側から自然をデザインする方」とリスペクトしており、本作の世界観と物語に見事に合致したロケーションとなった。

ロケ地決定までの経緯について、川村監督は「世界観を想像させるような場所を撮影ギリギリまで探しました。KAIT広場を『公園』にすることを思いつき、建築のコンセプトなどをリサーチするにつれ、この作品に相応しいロケーションであると確信しました」と振り返る。

『消滅世界』

解禁された映像では、多くの子どもたちがエデンの住民として活き活きと映し出されているが、監督も「“子どもちゃん”たちが走り回る姿を見た時、自分のイメージしていたエデンが立ち上がってくる感覚があった」と語り、脳内で思い描いていたエデン像と重なった手応えを明かしている。

独特の空間に、眞島も思わず「すごいですね」と驚く中、多くの子役エキストラと共に撮影は進行。「お母さん!」と駆け寄る子どもたちを、両手を広げて迎える管理人。朔は戸惑いながらも「一緒に遊ぼうね」とエデンならではのルールを受け入れようとする。

一方の雨音は、「無責任に可愛がって、飽きたら家に帰るって、何だか猫カフェみたい」と違和感を拭えずにいる──。

これらのシーンは、本編でも極めて重要で印象的な場面として描かれる。物語はこの後、雨音と朔が思いもよらぬ事態に巻き込まれていくことになるが、その先に何が待つのかは、ぜひ劇場で確かめてほしい。

■川村誠監督 コメント全文

実験都市エデンの造形は、セットを使用せずに全て現実にある建築物を組み合わせて構築するという撮影プランは、企画段階から決めていました。それは、この映画の舞台を、作り物で彩られた絵空事のような超SFの世界ではなく、「明日こんな世界がやってくるかもしれない」そんな現実との地続き感のある異世界にしたいと考えたためです。

近い手法で近未来を表現した『CODE46』(03年)や『her』(13年)などの映画も頭のどこかにイメージとしてはありましたが、漂白され性の消滅した世界をビジュアル化するために、さまざまな施設、病院、学校、研究所などが候補に上がりました。しかし、限られた撮影日数の中で全てロケ撮影で組み立てるのは、なかなか骨の折れる作業でした。

公園は、最初に主人公がエデンに対して違和感を覚える場所で、作品を象徴する場所になると思っていたため、ビジュアル的にノーマルな公園ではない、その先の世界観を想像させるような場所を演出部・制作部の皆さんと撮影ギリギリまで探しました。
そんな中、元々自分の脳裏にもあった KAIT 広場を「公園」にすることを思いつき、建築のコンセプトなどをリサーチするにつれ、この作品に相応しいロケーションであると確信しました。

自然は人間にとって時に大きすぎるので「人間のスケールでつくられた屋内空間に自然を取り入れた」のがこの広場。人間の側から自然をデザインしようとする石上純也さんの建築物に通底する理念が、どこか出産という自然の摂理を人間がコントロールしようとするエデンの世界観に近しい気がしたのも選定理由の一つです。ここで「子どもちゃん」たちが走り回る姿を見た時、自分のイメージしていたエデンが立ち上がってくる感覚があり、キャストのお三方もロケーションに圧倒されつつ、その空間に没入して撮影ができたのではないかと思います。

物語の後半で、ここが別の用途でも使われることで、この公園の構造上の謎が深まる点にも注目して見ていただければと思います。

『消滅世界』は2025年11月28日より全国公開。